トライを奪ったオペティ・ヘルは面白い存在になりそうだ(C)産経新聞社 ラグビー日本代表(以下ジャパン)は、10月26日テストマッチオータムシリーズの第1戦をニュージーランド代表オールブラックス(以下NZ)と行い、19-64と大敗した。両国の…

トライを奪ったオペティ・ヘルは面白い存在になりそうだ(C)産経新聞社

 ラグビー日本代表(以下ジャパン)は、10月26日テストマッチオータムシリーズの第1戦をニュージーランド代表オールブラックス(以下NZ)と行い、19-64と大敗した。両国の対戦は2022年10月以来2年ぶりで、通算8度目となったが、ジャパンはいまだに勝利していない。

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 第1次エディー体制下での「ブライトンの奇跡(2015年W杯予選プールで南アフリカ戦に勝利)」以来のジャイアントキリングを宣言して臨んだNZ戦だったが、結果は大敗に終わった。第2次エディー体制下のテーマである「超速ラグビー」が垣間見えた場面もあったが、内容的には完全な力負けと言ってよく、世界のトップとの差を見せつけられた一戦となってしまった。

 第2次エディー体制になって以降、試合の立ち上がりは大きく改善された。以前は、格上のチームとの対戦の場合、まず先制されてそこからずっと劣勢が続くという試合展開が数多く見られたが、サマーシリーズ(ジャパンⅩⅤとしてのに試合も含む)、パシフィックネーションズカップ計9試合中先制を許したのはイタリア戦一戦のみ。この試合も先制はジャパンだった。

 キックオフから敵陣で試合を進め、開始5分の敵陣22mライン付近のラインアウトから右WTBジョネ・ナイカブラとSH藤原忍の見事なコンビネーションで中央にぽっかりと空いた穴を突いてトライ。その後2トライ2ゴールを奪われ逆転を許したものの、前半19分には敵陣深くのラインアウトからラックを作り、相手のディフェンスラインがそろわないうちに素早く球出ししてNo.8のファウルア・マキシがトライと、いい流れは継続していた。そして前半22分にはマキシがタックルしてこぼれたボールを、ワーナー・ディアンズが足に引っ掛けて大きく前に蹴り出し、そのまま拾ってトライ、というシーンが見られた。

 これがこのまま認められ、逆転トライとなっていれば試合の流れがどう変わっていたかはわからなかったが、残念ながらマキシがタックルした時点でノックオンがあったという判定でトライとはならなかった。そしてそのショックからか、その直後のNZボールのスクラムから鮮やかにトライを奪われ、さらに意気消沈し、NZに上げ潮ムードを持って行かれてしまった。

 エディーHCは試合後「経験値、感情のコントロールというのは教えられない」とコメントしていたが、感情をコントロールできなかった代償は大きく、後半4分までに連続して7つのトライを奪われ12-50と試合の大勢を決められてしまった。トライはほぼ全て、密集の近辺でHB団がデイフェンス陣を内側に寄せる仕掛けを施し、最後は大外に控えていたパワーランナーがフィジカルにモノを言わせてインゴールにボールをねじ込むというパターンで奪われた。残念ながら現時点のジャパンには、このシンプルながら強力な戦法を打ち破るだけのスキルが、フィジカル的にもメンタル的にもなかったと素直に認めるしかない。

 セットプレーに目を転じると、サマーシリーズのマオリ・オールブラックスを大いに苦しめたスクラムはこの日はターンオーバーこそ奪われなかったものの、互角以上に組まれてしまった。ジャパンと対戦する際、スクラムで優位に立たれると、ジャパンというチーム全体の意気が上がる傾向にあるという特色を見切り、見事にその芽を潰しにきたNZはさすがだというしかない。

 一方でラインアウトは安定していた。1本スチールを喰らったがこれは相手のジャンパーの読みとジャンプの高さを褒めるべき。相手ゴール前でロングスローを選択し、意図したプレーヤーがキャッチできなかったというミスが1本あっただけで、進歩の跡がうかがえた。前半に奪った2本のトライがいずれもラインアウト基点であったことを考えてみても、今後ラインアウトからのムーブメントを増やしていくべきであり、そのためにはまず安定したマイボールの確保が前提となる。さらなる向上を望みたいところだ。

 かすかながら光明もあった。一つはFB矢崎の成長と経験値増。スピードを活かしたゲインが何度か見られた。後半26分にはゴールライン間近まで迫りながらダミアン・マッケンジーに止められてしまった。試合後のインタビューで「あそこでトライをとれなかったのが自分の現状。純粋に悔しい」と語っていたが、自身に何が足りず、今後どのように修練していけば良いのかを文字通り実感できたのではないか。

 後半28分にトライを奪った右PRオペティ・ヘルにはインパクトプレヤーとして面白い存在になる可能性がある。スピード感にはやや乏しいものの、意表をついたコース取りと、ダミアン・マッケンジー相手にステップを切ってタックルをかわすセンスは今までのジャパンにはなかったタレントだ。「本職」のスクラムには課題があるが、エディーHCの指導でどう伸びていくか、大いに期待したい。

 ジャパンはこれから欧州遠征に出発し、フランス、ウルグアイ、イングランドと対戦する。まだまだエディーHCが理想とする超速ラグビーの完成には時間がかかりそうで、苦戦は必至の状況下ではあるが、現時点での実力を測り、課題を炙り出すには良い機会となる。実り多い欧州遠征になることを期待したい。

[文:江良与一]

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