W杯アジア最終予選で、グループCの断トツ首位を行くサッカー日本代表だが、気になるのは各ポジションのなかで唯一、遠藤航のバックアップが不在な点だ。体調不良で欠場したオーストラリア戦は1-1と苦戦。所属のリバプールでは出場機会に恵まれず、今後パ…

W杯アジア最終予選で、グループCの断トツ首位を行くサッカー日本代表だが、気になるのは各ポジションのなかで唯一、遠藤航のバックアップが不在な点だ。体調不良で欠場したオーストラリア戦は1-1と苦戦。所属のリバプールでは出場機会に恵まれず、今後パフォーマンスを落とす心配もある。もし彼がダメとなった場合、どうすればいいのか。3人の識者にバックアップの選手を挙げてもらいつつ、考察してもらった。


遠藤航不在のオーストラリア戦では田中碧(右)が出場。藤田譲瑠チマ(左)もメンバーに入っていた

 photo by Sano Miki

【タイプ的に正当な後継者となれるのは佐野海舟】

篠 幸彦(スポーツライター)

<遠藤航のバックアップ> 
田中碧(リーズ) 
藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン) 
佐野海舟(マインツ)

 現時点では遠藤航、守田英正という日本代表のベストなボランチコンビの牙城を崩す存在、完璧に代わりとなれる存在はいない。そのなかでも田中碧は遠藤とは違った持ち味で、もうひとつのオプションとして現在も選択肢にある。

 なかでも2列目からのダイナミックで嗅覚の利いた飛び出しと、FWさながらの得点能力は、遠藤と明確に異なる長所として実績を残してきた。今季からリーズへ移籍を果たしたが、プレミアリーグへ昇格できるかは注目したい。

 今の田中に必要なのは、より高いレベルでの経験だろう。もし来季プレミアリーグでプレーできれば、実績や年齢的にも後釜としてもっとも現実的な選択肢となる。

 藤田譲瑠チマも遠藤とはタイプの異なる選手で、どちらかと言えば守田の後継者と言えるかもしれない。ただ、パリ五輪を終えて、今後のボランチの担い手としてA代表で台頭してこなければいけない存在だ。

 ボールをさばく能力、視野の広さ、判断力など、ゲームを作る力は現時点でも遠藤と遜色ないどころか、さばく能力に関しては藤田のほうが優れているだろう。ボール奪取能力では当然劣るが、守備能力も低いわけではない。

 さらにパリ五輪でキャプテンを務めたリーダーシップも、代表にはほしい素養だ。今回のW杯アジア最終予選で久しぶりに招集されたが、今の代表の調子を考えればどこかで起用し、経験を積ませてもいい。

 それから少しでも早く、ベルギーよりもレベルの高いリーグへの移籍が望まれる。いずれはUEFAチャンピオンズリーグに出場するビッグクラブへの移籍も叶えられる逸材なだけに、そろそろステップアップしたい。高いレベルでの経験値が、遠藤ともっとも差のあるところである。

 そして、本来、タイプ的に正当な後継者となれるのは佐野海舟のはずだ。カバー範囲の広さ、球際の強さ、ボール奪取能力の高さは引けを取らないものがあり、縦への推進力は遠藤を凌ぐ。今季から移籍したマインツでもすでにデュエルで際立つプレーを見せている。ブンデスリーガでの経験は遠藤のように佐野のデュエル能力をより伸ばすことは間違いない。

 佐野がいつまた招集されるようになるかはわからないが、彼が代表でプレーするようになれば遠藤の後継者問題は解決するはずだ。

【後継者候補ナンバーワンは藤田譲瑠チマで決まり】

後藤健生(サッカージャーナリスト)

<遠藤航のバックアップ> 
守田英正(スポルティング) 
藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン) 
谷口彰悟(シント・トロイデン)

 遠藤航が欠場となったオーストラリア戦で、森保一監督は代役として守田英正を起用。キャプテンも守田に任せる選択をした。

 実際、現時点ですぐに「遠藤の代わり」を任せられる選手は、これまで遠藤と組んできた守田以外にはいない。ただ、もちろん遠藤と守田ではプレースタイルが違うので守田は単なる代役ではない。

 遠藤と守田のコンビの時は、遠藤が守備的で守田は自由に動いて攻撃に参加していたが、遠藤不在の場合には守田はより守備的な仕事をせざるをえない。

 オーストラリア戦で守田は田中碧と組んだが、川崎フロンターレ時代の経験もあって大きな違和感はなかった。ただ、田中にはもう少し攻撃にからんでほしかった。今後は守田と誰を組ませるかということも考えておく必要がある。たとえば、守田と旗手怜央という組み合わせもあるだろう。

 長期的には、遠藤の後継者候補ナンバーワンは藤田譲瑠チマで決まりだ。

 フィジカルの強さを生かしたボール奪取能力。バランスを崩しても相手に絡み続けられるアジリティー。そして、奪ったボールを前線に供給するパスセンス。さらに、自らドリブルで持ち上がる動き......。ボランチとしての総合的な能力の高さは、パリ五輪でも実証済みである。できれば、次期W杯までに遠藤に並ぶほどの選手に成長してもらいたいものだ。

 そのためには、早くベルギーを"脱出"して5大リーグでプレーする機会をつかみたい。そして、それを待たずに、代表でも藤田を育てるために積極的に出場時間を与えておきたい(アジアカップで鈴木彩艶の成長のために起用し続けたように)。来年3月に日本代表が最終予選突破を決められれば、藤田が起用される機会も増えるだろう。

 谷口彰悟は、このところスリーバックのセンターとして非常に安定して守備を統率している(オーストラリア戦ではやらかしてしまったが!)。30歳を過ぎても、経験値の高さも加わって、着実にうまくなっているようだ。

 だが、これから負傷欠場中の冨安健洋や伊藤洋輝が復帰し、さらに高井幸大が大きく成長すれば、日本代表のセンターバック(CB)は人余りの状態になってしまう。そうなったら、谷口のボランチ起用も可能になる。

 元がCBなのだから守備力には問題ない。そして、谷口には精密なパスで試合を組み立てるだけの戦術理解能力とパスの正確性がある。かつて、川崎でもボランチに入ってすばらしいパフォーマンスを見せていた時期もある。

【W杯での連戦を考えるとバックアップは絶対に必要】

西部謙司(サッカーライター)

<遠藤航のバックアップ> 
田中碧(リーズ) 
藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン) 
冨安健洋(アーセナル)

 遠藤航が欠場したオーストラリア戦は、田中碧が守田英正とボランチを組んだ。リーズではより後方のボランチとしてプレーしていて、遠藤のバックアップとしてはポジション的にもぴったり。

 ところが同じ位置でプレーしていても、遠藤と田中は特徴が異なる。

 遠藤は守備型、田中は攻撃型だ。攻撃面では遠藤を上回る能力があるが、田中に遠藤の守備力はない。オーストラリア戦で遠藤の穴埋めを直接的にやっていたのは守田で、田中は守田の代役という感じになっていた。完全に役割が分かれているわけではないので、互いに重なるところはあるのだが、田中と守田の場合はふたりで攻守をシェアしているイメージだった。

 パリ五輪で活躍した藤田譲瑠チマも有望だ。ただ、こちらも田中と似ていて、遠藤のバックアップというより守田のバックアッパーかもしれない。守備の対人能力は高いものの、ポジショニングにまだ粗さが見られる。ただ、これから経験を積むことで急速に遠藤のバックアップとして浮上してきそうだ。

 日本代表メンバーでは旗手怜央もいる。ただ、旗手は田中や藤田以上に攻撃型で、どちらかと言えばシャドーのバックアッパーだろう。

 Jリーグから探すと、タイプは遠藤と全く異なるが田中駿太はアンカーとしての能力が高く、DFもこなすユーティリティー性もある。しかし、同じタイプとしては板倉滉、谷口彰悟、冨安健洋、伊藤洋輝、中山雄太がいるので、代表常連組が優先されるだろう。

 守備力のある知念慶、井手口陽介も有力。代表復帰がいつになるかわからないが、佐野海舟はプレースタイルが遠藤に近く、代役としてはうってつけと言える。

 遠藤の役割を守田が担うなら、川辺駿もありかもしれない。得点力のあるボランチとしては川村拓夢、伊藤敦樹に代表経験がある。今季、ポルトガルリーグで8試合5得点の藤本寛也もいる。

 現状ではポスト遠藤の一番手は田中碧。二番手は藤田譲瑠チマ。三番手は迷うが負傷がなければ冨安健洋、冨安が無理なら佐野海舟。今の代表は全体的に攻撃に傾いていて、守田と組むボランチには攻撃力や得点力よりも守備力が優先されるからだ。

 遠藤、守田のコンビは鉄板だが、W杯での連戦を考えるとバックアップは絶対に必要。遠藤を疲弊させてしまった東京五輪の轍は踏みたくない。