【古賀が引退セレモニーで語った選手としての「責任」】 10月12日のSVリーグ開幕戦後に行なわれた、日本女子バレー界をけん引してきた古賀紗理那の引退セレモニーは、ひとり語りではなく、元チームメイトがMCをするトークショーの形で進んだ。湿っぽ…
【古賀が引退セレモニーで語った選手としての「責任」】
10月12日のSVリーグ開幕戦後に行なわれた、日本女子バレー界をけん引してきた古賀紗理那の引退セレモニーは、ひとり語りではなく、元チームメイトがMCをするトークショーの形で進んだ。湿っぽさ、仰々しさを嫌ったのか、あるいは気恥ずかしかったのか。和気あいあいとした会話が続き、花束贈呈から記念撮影という流れだった。
SVリーグ開幕戦の引退セレモニーで、NEC川崎の選手と並ぶ古賀紗理那(中央)photo by 西村尚己/アフロスポーツ
「明日も試合だから、みんな早く帰りたいよね。早く終わらせるから!」
マイクを持った古賀は、昨シーズンまで一緒に戦ったNECレッドロケッツ川崎のチームメイトたちに向かって言った。それは本心だろう。彼女はそういう儀式よりも、プレーの最大出力に人生を懸けてきた選手だった。
「最近はSNS時代になってきて、人気獲得のために各チームがいろいろなことをされていると思うんですが......」
セレモニー後の引退会見で、彼女はバレー選手としての"在り方"について語っている。
「私は、選手の一番の仕事は試合をして勝つことだと思っていて。たまにSNSで流れてくる楽しそうにしているものとか、それはそれでいいんですけど、選手である以上は責任がある立場で"コート内での役割に徹する"っていうのが個人的にすごく大切だと思っています。ひとつの試合が、チームを変える、日本を変える、というくらいの気持ちで、そういうプレーをファンのみなさんも観たいはずだし、それを期待したいと思っています」
日本女子バレーは、"ポスト古賀"を求めている。男子のSVリーグ開幕戦で、「髙橋藍vs西田有志」というわかりやすい構図があったように、新たなスター降臨を求めるのは当然だろう。どんな競技であっても、それは宿命だ。
その点、古賀の言葉は"ポスト古賀"のヒントとなるかもしれない。
【女王を退けた埼玉上尾の守備】
10月12日、とどろきアリーナ。前日の男子に続いて、女子のSVリーグ、2024-25シーズンが開幕した。昨シーズン優勝のNEC川崎が、「対抗馬」のひとつと目される埼玉上尾メディックスと対決。会場はほぼ満員で、熱気に満ちていた。
結果は、埼玉上尾が勝負所で強さを見せ、女王NEC川崎を0-3で下している。
「夏場から取り組んできたことが出た試合」(埼玉上尾、岩崎こよみ)
その言葉どおり、準備の差、完成度の差で上回ったのか、24-26、23-25、22-25と僅差の勝負に強かった。
NEC川崎は古賀が引退。守りの要だったリベロの小島満菜美も移籍し、パリ五輪代表の和田由紀子、山田二千華の2人がまだコンディション不十分で出場機会がなかった。オポジットのダ・シルバはパワフルなスパイクで最多16得点を叩き出したが......。
一方、埼玉上尾は粘り強く戦う構造ができていた。NEC川崎の強力なサーブを堅実にレシーブし、丹念につなぎ、濱松明日香のブロックも効いていて、黒後愛、佐藤優花、目黒安希が得点を重ねた。ディフェンスから戦いを安定させていた。
その点、勝利の立役者はリベロである岩澤実育と言えるだろう。ダ・シルバの強烈なスパイクを見事に拾った。準備動作に優れ、必ず先んじてボールの軌道に入っていた。
「岩澤のところに打っちゃいかん!」
NEC川崎のファンの悲鳴が聞こえたほどだ。
岩澤は派手なディグだけでなく、ブロックフォローも怠っていなかったし、アンダーでトスも上げていた。
「リベロが頑張って拾うと、スパイカーの選手たちも"どうにかして決めたい"ってなってくれると思うんです。"次は自分たちの番だ"って、思い切って(腕を)振ってくれたら。バレーは、そのつながりがいいなって思います」
そう語る岩澤は、この日もギリギリのボールに何度も身を捨てて飛び込んでいた。3セット目、18-20の場面ではコートの外の柵に激突しながら、必死にカバー。結局、得点につながらなかったが、それを境にチームは奮起したように得点を重ねていった。
「リベロは、ちょっとした"手助け"の積み重ねだと思います。あまり目立たなくても、"そこの一本がなかったら、この点数がとれない"というプレーが大事で」
ゲームMVPに選ばれた岩澤は一番小柄だったが、開幕戦で最も大きな存在を示した。
【絶対的エースはいかにして生まれるのか】
"ポスト古賀"が出てくるか――。
それは、たとえば岩澤のように台頭したリベロを崩し、チームを勝利に導けることがひとつの条件と言えるかもしれない。そして優れた守備者を、優れた攻撃者が叩きのめす。守備者はさらに研鑽を積み、やり返す。その切磋琢磨の関係性からしか、絶対的エースは生まれない。
誇張ではなく、古賀はひとりの選手として英雄的だった。キャリア晩年だけを見ても、NECを連覇に導き、日本代表にパリ五輪出場をもたらし、冒頭で言う「責任」を果たした。積み重ねた勝利によって、彼女は女王だったのである。
もちろん、彼女も一朝一夕で"古賀紗理那"になったわけではない。
今の日本女子バレーはまさに戦国時代で、その中で誰が"ポスト古賀"となるか。その点、誰にでもチャンスはあるが、メディアが作ったスターは脆い。バレー人生を懸けた者同士の淘汰のなかでこそ、ひときわ輝く選手が生まれるはずだ。