【プロとして、リーグを世界最高峰にするために】 その構図は、バレーボールの描き方として正しくない。彼らはコートに立つ6人のひとりでしかなく、バレーは全員で拾い、繋ぎ、打つことでプレーが完結する。ひとりだけでは成り立たない。 しかしながら、西…
【プロとして、リーグを世界最高峰にするために】
その構図は、バレーボールの描き方として正しくない。彼らはコートに立つ6人のひとりでしかなく、バレーは全員で拾い、繋ぎ、打つことでプレーが完結する。ひとりだけでは成り立たない。
しかしながら、西田有志と髙橋藍、2人が放つ光のようなものに多くの人が吸い寄せられるのも事実だ――。
ネットを挟んで握手をかわすサントリーの髙橋藍(左)と大阪ブルテオンの西田有志
photo by 森田直樹/アフロスポーツ
10月11日、東京体育館。2024-25シーズン、SVリーグが新たに幕を開けた。昨シーズン優勝の王者サントリーサンバーズ大阪と準優勝の大阪ブルテオンの対決。会場はオーケストラと光の演出で、宴を華やかにしていた。
「世界最高峰リーグを目指す」
それは、大風呂敷ではない。土台となるべき人気も、実力も要素としては揃っている。パリ五輪、男子バレーはあらゆる競技のなかで、最高視聴率を叩き出した。男子バレーの準々決勝、イタリア戦は23・1%と断トツの視聴率。イタリア・セリエAでプレーする石川祐希、そして髙橋、西田を筆頭に人気が沸騰しているのだ。
SVリーグはパリ五輪の日本代表選手だけでなく、有力な外国人選手も多く獲得し、「新時代到来」を予感させる。
その日も、サンバーズの赤、ブルテオンの青に分かれた女性ファンたちが、一斉にスマートフォンのカメラアプリを起動させ、髙橋、西田らの姿を必死に捉えていた。画面を見つめながら、自分の目でも視野に入れ、恍惚の表情を浮かべる。"推し活"の一環とも言えるかもしれない。
開幕戦のチケットは完売。地上波のゴールデンタイムでも生放送された。
「ひとりひとりがプロなら、見せ方、露出も必要になると思います。プロは、自分でその道を作っていかないといけない」(西田)
「自分は、SVリーグを世界最高峰リーグにできる、と思っています。海外の有力選手も『日本でプレーしたい』と話すことは多いですし。そうなると日本人がスタートで出にくくなると思いますが、レベルを上げるためにも必要です」(髙橋)
2人とも、新たに舵を切ったSVリーグに対して、プロとして腹を括っていた。彼らが新時代の旗手になっていることは間違いない。
【髙橋を崩しにかかった西田】
そして開幕戦の試合展開のなかでも、2人は火花を散らす場面が多かった。
「常に髙橋藍選手を狙っていました」
西田はそう語って、こう続けている。
「髙橋選手をどう崩すか、を考えていました。(アウト)サイド(ヒッター)が重なった時のローテの時とか......意図としては、パイプ(攻撃)をなくすことで。常に(髙橋が)いい状態で入れないようにして、ディフェンス対応させることで(攻撃オプションを)ひとつずつ削っていく。(3セット目)最後の1点で決着がついた時も、ゾーン1の髙橋選手をサーブで狙って、最後は決まったので」
結果は、西田を擁するブルテオンがセットカウント3-0で勝利した。西田はチーム最多の21点で、不完全燃焼だった髙橋の6得点を上回った。ブルテオンは世界屈指のリベロ、山本智大を中心にしたディフェンスシステムも機能した。
西田は、オポジットとして暴れ回った。彼は「オポとしては、しっかりトスが上がれば勝たせられる」と言うが、その矜持が出た開幕戦だった。弩弓(どきゅう)で矢を突き刺すような強烈なスパイクで猛襲。ストレートだけでなく、クロスにも打ち込み、さらにブロックも決めた。
「西田選手に止められるところは悔しくて......」
髙橋はそう言って、西田にブロックされたシーンを振り返っている。一身に注目を浴びて、凄まじい重圧があったはずで、コートではやや表情が硬くイラ立っているようにも映った。チームが術中にはまり、髙橋自身が西田のサーブに体を投げ出しながらレシーブせざるを得ず、攻撃のパワーを削られていた。
「駆け引きのところで、フラストレーションがたまっていくところはあって......。いい流れになっても、取り切れない。苦し紛れのスパイクが多くて、チームとしての動きが悪いことも感じていました。得点につながらないのでイライラはあったと思います。ただ、冷静にやっていくのも必要ですが、(勝利を)求めていかないといけないし」
【髙橋はよりチームとのフィットを】
忸怩(じくじ)たる思いを語った髙橋は、"勝負の勘"に優れている。それだけに、勝ち筋を見つけられない戦いに身悶えしていたのだろう。それでも、パイプを決め、ブロックに成功し、「ディフェンス力が違う」とチームメイトたちに絶賛される力も誇示した。反応の早さで自らのブロックをフォローする機敏さもあった。
髙橋は昨シーズンまで、イタリア・セリエAでプレーしていた。そこでプレーオフ決勝を戦い、サンバーズでは"助っ人外国人"のような存在とも言える。同時に、それは彼がチームに適応し、周りもフィットする必要があることも意味していた。
開幕直前、髙橋はこう語っていた。
「オポジットに(ドミトリー・)ムセルスキーというエースがいるので、自分の役割はディフェンスに向いていくのかな、と思います。ムセルスキーがブロックするだけで変わってくる。誰を基準にチームを回していくか、もっと慣れていって、楽に試合を展開できるようにしたい」
真価が見えるのは先の話だ。
この日、「2人の物語」は十分に濃厚だった。ただ、他のキャストの魅力に気づいた人も少なくないだろう。その熱が、各地で火ぶたを切るSVリーグの試合にどんどん伝播していけば――。
10月14日、サンバーズとブルテオンは再び相まみえる。対決の地は両チームの地元、大阪。2人のスターの輝きのなか、他の星もきらめき出す。