デンソーエアリービーズ麻野七奈未インタビュー 前編 2023-24のV.LEAGUEの女子を振り返ると、DIVISION1WOMENはNECレッドロケッツが連覇、続くV Cupはデンソーエアリービーズが制した。デンソーは第72回黒鷲旗全日本…

デンソーエアリービーズ

麻野七奈未インタビュー 前編

 2023-24のV.LEAGUEの女子を振り返ると、DIVISION1WOMENはNECレッドロケッツが連覇、続くV Cupはデンソーエアリービーズが制した。デンソーは第72回黒鷲旗全日本男女選抜大会でも準優勝に輝いている。

 そのシーズンに個人キャリアハイの数字を残し、チームの好成績に貢献したのがデンソーのミドルブロッカー、麻野七奈未だ。内定選手時代から数えて5季目の戦いを迎えるにあたり、麻野がこれまでの自身のパフォーマンスを振り返る。



昨シーズンにキャリアハイの成績を残したデンソーの麻野七奈未 photo by Sakaguchi Kosuke

【昨シーズンは序盤でブロック連発】

――昨シーズンはアタック、ブロックと自身キャリアハイの成績を残しました。あらためて振り返って、いかがですか?

「コートに入ったり、出たりを繰り返してはいるのですが、そのなかでも1年ずつ成長できている手応えは感じています」

――特にシーズン開幕週では、2日目(10月29日)のKUROBEアクアフェアリーズ戦で6本ものブロックポイントをマークしました。

「あのKUROBE戦のブロックに関しては、相手の動きがとても読めていましたし、私自身もいい動きができたと感じました。その感覚が残っていて、翌週のJTマーヴェラス戦(11月4日)も、すばらしい選手がたくさんいる相手に対していい仕事(両チームを通して最多4本のブロックポイントをマーク)ができたのでよかったです」

――シーズン前に、何かつかんだものがあったのでしょうか?

「ひとつ挙げるとすれば、コーチのマルキーニョスさん(アントニオ・マルコス・レルバッキ)のもと、ブロック単体での練習に取り組んだことが大きかったと思います。特に新しいメニューというわけではないですが、それまではブロックとレシーブを一緒に絡めながらトータルディフェンスの練習をして、動きを確認していたので、そこは大きな変化でした。

 昨シーズンは、VリーグのSNSで各プレーの個人ランキングを発表する投稿もあって、序盤にその上位で自分の名前が出ていることはうれしかったです。それを見ながら『もっともっと頑張らないと!!』と感じていました」

【初めての優勝した実感】

――その一方で、シーズン途中にはケガで離脱する時期もあり、レギュラーラウンド後半やファイナルステージでは出場機会が限られました。

「年末の皇后杯でそれほど調子がよくなく、同じ時期に開放骨折に見舞われたんです。今年2月ごろに完治したのですが、私が離脱している間に起用された選手がそのまま継続してコートに入って、という具合で。その頃は複雑な気持ちでしたね。正直、モチベーションも下がっていました。でも、練習から頑張らないとコートに戻ることはかなわない。モヤモヤして、ずっと悩んでいました」

――どのように乗り越えたのですか?

「V Cupが始まってからも、当初は違う選手が起用されていました。ですが、KUROBE戦(3月9日)の途中交代で入ったときに、とてもパフォーマンスがよかったんです。それ以降は日ごろの練習からも調子がよく、最後までコートに立つことができました」

――となると、優勝したV Cupではご自身も気持ちが入っていた?

「はい。やっと試合に出られた、と言いますか、またコートに立てる喜びがありま。マルキーニョスさんからも『チャンスだぞ』と声をかけていただき、『このポジションを掴みとるんだ』という一心でした。それにチームも優勝を狙っていたので、そこに対する強い思いも自然とパフォーマンスにつながったと思います」

――金蘭会高校(大阪)時代にも全国制覇を目にしていますが、主力選手として貢献する優勝、はまた異なりましたか?

「V.LEAGUEに進んでからの優勝は、今回のV Cupが初めてでしたからね。高校1年生の時にも優勝は経験していますが、実際に自分が優勝したんだ、という実感はありませんでした。

 デンソーに入団してから、亀山広コーチにボールを出してもらっての朝練や、苦手だったウエイトトレーニングにも取り組んできました。それらを思い返して、『サボらないで、続けてよかったなぁ』と感じた、初めての優勝タイトルでした」

【試合に出られず"無"だった高校時代】

――振り返れば、高校時代はユニフォームを着てはいるものの、なかなかレギュラーとして活躍するまでには至らなかった、という印象です。

「今思うと、当時の私は"無"でしたね。先輩や同級生、後輩には力のある選手がたくさんいて、『試合に出るのは難しいな』と感じていました。本当はもっと頑張らなければいけなかったんですけど、とりあえずやればいい、そんな考えでした。取り立ててモチベーションもなく、『卒業まで何日』と書きながら、毎日を淡々と過ごしていましたね」

――それは入学前から想定していたものでしたか?

「まったく思い描いていませんでした。試合に出られる、とも思っていませんでしたが、試合に出られない、とも思っていなくて。憧れの高校から声をかけてもらって、そこに進めるからとりあえず頑張ってみるか、程度の気持ちでしたからね。中学の顧問も心配していましたが、『入学してから考えればいい』という具合でした」

――結果的に出場機会が少ないまま、3年間を終えることになりました。

「相当、怒られていましたからね。部活中はもちろん、普段の寮生活でも。ですが、あの頃にあの練習をしていなかったら、おそらく自分は今ここに立っていません。試合に出る機会は少なかったけれど、走り込みで体力はものすごくついたし、精神的にも強くなりました。

 怒られることに関しても、結果的に"自分のなかで考える力"が身についたと思います。監督の池条義則先生は答えを出さないんです。その時は、『結局、何に対して怒られているんだ?』と思うことが多かったし、その答え自体もわからずじまい。でも、結局は自分たちで考えること、なんですよね。それが私生活の過ごし方だけでなく、バレーボールにおいても『相手がこうしてくるから、自分たちはこうしよう』といういろんな引き出しにつながりました。頭も体も、高校3年間で成長できました」

【『全力でやればいいよ』で気持ちがラクに】

――高校時代にはアンダーエイジカテゴリー日本代表の強化合宿にも参加する機会がありましたが、そこでシニアへの憧れなどが芽生えたことは?

「その意識すらなかったです(笑)。高校で試合にも出られていないし、そこでは"やらされている"感を強く抱いていただけに、むしろアンダーエイジカテゴリー日本代表の合宿は......表現が難しいですが、ラクと言いますか。シニア日本代表に向けても『この先にはそういったものがあるんだよな』くらいで、高校から離れることへのうれしさや喜びが上回っていましたね」

――となると、内定選手を経て、1年目から出場機会を与えられたデンソーでの戦いはどのように始まったのでしょうか?

「初めは、プレー中のテンポもまるで違うし、そもそも試合感覚もなかったので、困惑する部分はありました。ですが、コートに入ったときに(OGで現在はスタッフの)工藤嶺さんが『全力でやればいいよ』と声をかけてくださって、気持ちがラクになったんです。とにかくシーズン前に練習してきたことを発揮しよう、という思いでコートに向かったことを覚えています」

――そこからレギュラーにまで成長しました。

「入団1年目から(現在は女子日本代表コーチの川北)元さんに起用していただき、2022年には日本代表にも登録してもらいました。そこで結果を残すことはできませんでしたが、デンソーで過ごすなかで、高校時代からさらに成長することができましたし、それが今のパフォーマンスにつながっていると感じますね」

(後編:日本代表の弟・堅斗の背中を追いかけて「石川祐希・真佑兄妹のような存在になれたら」>>)

【プロフィール】
麻野七奈未(あさの・ななみ)

2002年12月13日生まれ、滋賀県出身。デンソーエアリービーズ所属。183cmのミドルブロッカー。金蘭会高校から2021年にデンソーに入団。2022年には女子日本代表に初登録された。2歳年下の弟は早稲田大学で活躍する身長207㎝のサウスポーミドルブロッカー、麻野堅斗。