セ・リーグ連覇こそ逃したものの、シーズン2位でクライマックス・シリーズ(CS)に臨む阪神。岡田彰布監督の今シーズン限りでの退任もあり、なにかと注目されるCSになりそうだ。その阪神はCSを勝ち抜き、日本シリーズへ進出することができるのか? …

 セ・リーグ連覇こそ逃したものの、シーズン2位でクライマックス・シリーズ(CS)に臨む阪神。岡田彰布監督の今シーズン限りでの退任もあり、なにかと注目されるCSになりそうだ。その阪神はCSを勝ち抜き、日本シリーズへ進出することができるのか? "下剋上の条件"を、名コーチとしてならした野球評論家の伊勢孝夫氏に考察してもらった。


今シーズン限りで退任する阪神・岡田彰布監督

 photo by Koike Yoshihiro

【リスク分散型ローテーション】

 阪神の"下剋上"についてだが、まずDeNAとのCSファーストステージに勝利しなければならない。DeNAに勝って初めて、巨人への挑戦権を得るわけである。"下剋上"を果たすには、甲子園での3試合で2勝、東京ドームでの6試合のうち4勝、つまり10日間で最大9試合を戦い6勝しなければならないわけだ。これは思っている以上に厳しい。

 選手の負担はもちろんだが、一番の悩みどころは先発投手だ。調子のいい投手から投げさせるとなれば、DeNAとのファーストステージ初戦を才木浩人、2戦目を?橋遥人となる。そして1勝1敗になった時を想定して、3戦目はジェレミー・ビーズリーを待機させる......。ただこのローテーションだと、勝ち上がったとして巨人戦にしわ寄せがきてしまう。

 そんな時、短期決戦の戦い方のひとつとして、「計算の立つ投手を並べない」というのがある。今季の阪神で言うと、才木と?橋がそれにあたる。

 たとえば、才木、大竹耕太郎、村上頌樹の3人で前半の3試合を任せ、後半の3試合を髙橋、ビーズリー、そして中5日で才木というローテーションが組める。つまり一戦必勝ではなく、9試合トータルを考えてのものだ。これが今の阪神投手陣のなかで、もっとも連敗が考えにくいローテーションなのではないか。

 仮にファーストステージを3試合戦うと仮定して、ローテーションを組むとこうなる。

CSファーストステージ/DeNA戦
第1戦 才木浩人
第2戦 大竹耕太郎
第3戦 村上頌樹

CSファイナルステージ/巨人戦
第1戦 髙橋遥人
第2戦 ジェレミー・ビーズリー
第3戦 才木浩人
第4戦 大竹耕太郎
第5戦 村上頌樹
第6戦 髙橋橋遥人 or 青柳晃洋らを筆頭に総力戦

 このローテーションは、いわばリスク分散型となるわけだが、もちろん賛否あるだろう。ただ巨人に勝つことを大前提として考えると、これくらい思いきった戦いが必要になるのではないかと思うのだ。

 そのなかでキーマンを挙げるとすると、やはり昨年MVPの村上だろう。村上で勝ちを拾えるかどうかで、阪神のCSの行方は大きく変わってくるような気がしてならない。村上が快投を演じれば、"下剋上"の確率はグッと上がってくる。

【岡田監督の退任は吉とでるか?】

 とはいえ、まずはファーストステージだ。阪神がDeNAに勝つには、打ち合いに持ち込ませないことだ。DeNA打線は、シーズン終盤でも好調な選手が多く、どこからでも点を取ってくる。なかでも牧秀悟、タイラー・オースティン、宮?敏朗の中軸は破壊力十分。阪神打線も悪くはないが、打ち合いになると分が悪い。阪神としては勝ちパターンの投手リレーは決まっているだけに、先発がしっかり試合をつくることができれば勝つ確率は自ずと上がる。

 あとはDeNA投手陣からどう点を奪うかだ。初戦はエースの東克樹で間違いないだろう。左腕の東は、キレのいいストレートにカットボール、チェンジアップが大きな武器で、制球力もよく、打者の左右に関係なく打ち崩すのは厄介な投手だ。

 そんな東をどう攻略するかだが、やはり森下翔太、大山悠輔の右打者に期待することになるが、そのためにはいかにしてふたりの前にランナーを置けるかが重要になる。それこそ昨年日本一を達成した阪神の野球である。

 そう考えると、ファーストステージ初戦の初回、1番の近本光司がどんなバッティングをするか、2番の中野拓夢がどう中軸へとつないでいくのか。流れをつかむという意味でも、初回の攻撃がファーストステージを占う攻防になる気がする。早めに得点することができれば、それだけ先発陣の不安も減らすことができるわけだ。

 あと阪神打線で注目すべき点は、代打の使い方だろう。とくに渡邉諒、原口文仁といった右打者をどのタイミングで起用するのか。私の経験から言えることだが、完封負けするような試合であっても、チャンスは必ず訪れるものだ。それをゲーム展開と照らし合わせて、監督が勝負どころと判断すれば、一気に動くことになる。そのあたり岡田監督は十分にわかっていると思うが、短期決戦では指揮官の"勝負勘"も試合を左右する大きな要素になるわけだ。

 これは巨人とのファイナルステージでも同じことだ。しかも巨人との戦いは、DeNAよりも点が取れないのではないか。戸郷翔征、菅野智之を筆頭に、山?伊織、フォスター・グリフィン、井上温大と先発陣は強力で、リリーフ陣も駒は揃っている。

 そんな強力投手陣から阪神は4勝しなければならない。となると、第1戦、第2戦で先発濃厚な戸郷、菅野から最悪でも1勝1敗、できれば2連勝したい。だが、このふたりを打ち崩すための攻略法は......残念ながらない。

 あえて挙げるとすれば、選手たちの気持ちだろうか。なにより阪神は、今シーズン限りで岡田監督が退任する。そんな監督に対して、選手たちは「監督を胴上げして見送ろう」と思えるかどうか。

 当然ながら、指揮官の退任話がCS突破への"起爆剤"になる可能性はある。その一方で、そのことが力みにつながり、本来のプレーができないことも十分に考えられる。野球というスポーツは、最後の最後は気持ちがプレーを左右するものだ。技術はその支えでしかない。

 それにしても9試合で6勝するのは、並大抵のことではできない。それを可能にするのは、繰り返しになるが、最後は選手たちの気持ちである。選手たちの思いと指揮官の采配が噛み合った時、"下剋上"が実現されるだろう。