中村の評価は高い。ドラフトでの上位指名は確実だろう(C)尾関雄一朗 ■“無名”への反抗心が飛躍の糧に ほんの1年ほど前まで、全国的にはずっと無名だった。その状況に対し、反抗心や野心を胸に愛知工業…

 

中村の評価は高い。ドラフトでの上位指名は確実だろう(C)尾関雄一朗

 

■“無名”への反抗心が飛躍の糧に

 ほんの1年ほど前まで、全国的にはずっと無名だった。その状況に対し、反抗心や野心を胸に愛知工業大の中村優斗は励んできた。「全国で騒がれているピッチャーと比べても、自分は負けていないと感じていました」と明かす。だからこそ飛躍できた。

「高校3年夏の甲子園(コロナ禍による交流試合)を見ていても、145キロを出すピッチャーはあまりいなかった印象です。大学で全国大会に出て、150キロ出したら評価されるかなと思っていたんですが、全国には出られなくて、150キロ出しても全然って感じで……。自分の実力がどのレベルか、評価されない悔しさはありました。野球の実力で有名になりたい、知ってもらいたいという思いがありました」

【画像】押さえておきたい「2024ドラフトの目玉」たちを厳選! 注目選手のプレー写真&寸評を一挙紹介

 諫早農高時代は2年春夏に県ベスト8入り。この時すでに球速を140キロ台に乗せている。愛知工業大では1年春からリーグ戦で先発登板し、1年秋には球速150キロを突破した。しかし、評判はローカルの域を出なかった。

 今年3月、侍ジャパン・トップチーム強化試合に大学生ながら選ばれ、いよいよ中村が脚光を浴びた。前年冬、侍ジャパンの大学代表候補強化合宿で最速157キロ(当時)のストレートを投げ、アピールに成功していた。

 けっして自らを過大評価していたわけではない。自身の性格はマイペースで穏やかだという。だが野球では高い次元を渇望し、ストイックに鍛錬を積み上げてきたことは間違いない。大学で本格的にウエイト・トレーニングを始めてパワーアップを実現。トレーニング内容は自ら改良を重ねている。ストレッチなど身体のケアにあてる時間も1日3時間は下らない。投球フォームや技術の話はよどみなく口をついて出る。

■高校半ばまでは「至って普通の人間」

 ただ、以前は正反対で、野球に思い入れがなかった点も中村らしさだ。諫早農高への進学は、県庁など公務員への就職を意識したものだった。小学2年で野球を始めたのは、小学校にサッカーのチームがなかったから。高校の部活選択の段階でも惰性半分だった。

「将来やりたいこともなく、自分の性格上、安定を求めていました。至って普通の人間だったので…。野球も特に優れているわけでもなく、中学までは球速も運動能力も平凡でした」

 指導実績豊かな高校時代の宮原寛爾監督(当時)のもと、「走り込みなどの日々の練習で、勝手に球速が速くなっていきました」(中村)。さらに、東福岡高時代の先輩から中村の評判を聞いた愛知工業大・平井光親監督(元ロッテ)による熱心な勧誘で、大学で野球を続け、道を切り拓くと決意した。

■「長く活躍できる選手に」

「侍ジャパン強化試合の登板はアドレナリンが出て本当に楽しく、貴重な経験ができました。この一年間は休む時間がなく、秋のリーグ戦の前でも結構、疲労が残ってキツかったので、コンディションやピッチングスタイルを考えて臨んでいます」

 忙しくも充実した大学ラストイヤーを経て、いよいよプロ入りの時が近づいてきた。

「自分としては力んで投げている感じはない中で、コントロールを乱さず、球威や球速のアベレージ、出力の高さが出せるところは持ち味の一つだと思っています。緩い変化球や牽制、フィールディングなども突き詰め、いつかはプロで先発したい気持ちもあります。ただ、まずはケガをせず1年間投げ続け、長くプロで活躍できる選手になりたいです」

 打者を圧倒するストレートは最速159キロ。上背は176cmで人並みだが、先発で常時150キロ台を維持する身体の力がある。四球を出さないコントロールも一級品。鋭いスライダー、フォークなども駆使し奪三振を量産する。

 プロとの対戦は、3月のソフトバンク3軍戦(6回3失点、7奪三振)と、8月の中日2軍戦(1回無失点、2奪三振)で経験がある。ソフトバンクの永井智浩スカウト部長が3月の段階で「変化球もいいものがあり、抑える形が確立されている。今すぐプロに連れていってもいいぐらいです」と話すなど、即戦力になれる資質が評価されている。

 身体の底から湧き出る上昇志向を原動力に、プロでも中村は大きくのし上がっていくはずだ。

[取材・文:尾関雄一朗]

 

【関連記事】「阿部巨人」黄金期へドラフト指名すべき「3人の逸材」とは

【関連記事】記録的低迷の西武は大学屈指のスラッガーを確保か ドラフトまで1か月半、各球団の1位候補を予想【パ・リーグ編】

【関連記事】巨人は宗山塁でショート問題を解決? ドラフトまで1か月半、各球団の1位候補を予想【セ・リーグ編】