70メートルはあっただろうか。自陣の中ほどから敵陣のゴールライン際へ、川崎フロンターレの左サイドバック、三浦颯太は一直線に駆けあがっていった。  雨が降り続ける敵地・町田GIONスタジアムで5日に行われた、FC町田ゼルビアとのJ1リーグ第…

 70メートルはあっただろうか。自陣の中ほどから敵陣のゴールライン際へ、川崎フロンターレの左サイドバック、三浦颯太は一直線に駆けあがっていった。

 雨が降り続ける敵地・町田GIONスタジアムで5日に行われた、FC町田ゼルビアとのJ1リーグ第33節。川崎が1点ビハインドで迎えた28分だった。
 右サイドでFW山田新が数人の相手に囲まれた状況で粘り、体勢を崩しながらも中央のMF山本悠樹へボールを託す。山本はすかさず右足アウトサイドを駆使し、左タッチライン際に張っていたFWマルシーニョを前へ走らせるパスを送った。
 そして、マルシーニョがトラップした瞬間に、三浦はスピードに乗ってドリブラーを追い抜き、さらに加速しながらインナーラップしていった。
「ずっと外で張っていたマルちゃんが『仕掛けたいから、こっちを見て』と颯太(三浦)や僕に伝えてきていた。実際にいい形で仕掛けられたし、あそこから颯太やマルちゃんがギアをあげられるのが、今のウチの攻撃の怖さになっている」
 発動させたカウンターをシナリオ通りと振り返る山本に三浦も続いた。
「練習からあの形は何度もやってきたなかで、マルちゃんと2人だけで左のあのラインは崩せる自信はある。どちらかが相手ゴール前のニアゾーンまでいって、という形を繰り返してきたので、普段の練習の積み重ねが出たと思っています」

■「J1初ゴールが価値のある同点ゴールになったのもなおさらうれしい」

 マルシーニョには町田の右サイドバック林幸多郎がついた。しかし、林の後方には相手選手が誰もいない広大なスペースが生じていた。そこへ走り込み、マルシーニョのスルーパスを呼び込んだ三浦は、ワンタッチで利き足の左足を振り抜いた。
「コースを狙って、というよりはもう思いきって、という感じでした」
 強烈な弾道が町田の守護神、日本代表谷晃生の右肩口を撃ち抜いてゴールに突き刺さる。AFCチャンピオンズリーグACL)では1ゴールしている三浦にとって、J1リーグではこれが出場15試合目で初ゴール。4月に負った左膝外側半月板損傷と約3カ月間の戦線離脱を乗り越えての一撃に、思わず表情をほころばせた。
「試合に多く出させてもらっているなかで、なかなか点を取れなかったので素直にうれしいし、自分のJ1初ゴールが価値のある同点ゴールになったのもなおさらうれしい。現状が100パーセントかといわれれば正直、左膝と相談しながら、という感じにはなりますけど、コンディションがあがってきたというか、間違いなく怪我をする前までのパフォーマンスに戻ってきた、という感覚がありますね」

■「町田相手には、気持ちが必要だ」

 帝京高から日本体育大をへて昨シーズンに加入したJ2のヴァンフォーレ甲府で、森保ジャパンにも抜擢されたプレーが評価され、今シーズンに川崎へ加入した24歳は、プレーできる喜びを全身で表現するように左サイドを何度も上下動。71分にはマルシーニョのゴールをアシストし、川崎を4-1の圧勝に導いた。
「颯太とは今週の練習を通して『町田相手には、気持ちが必要だ』とずっと言い合ってきた。本当に気持ちを感じさせる、颯太の特長が出たゴールだったと思う」
 魂が込められた三浦の同点ゴールを、うれしそうに振り返ったセンターバックの佐々木旭は、10分後の38分にはまったく異なる言葉を心のなかで叫んでいる。
「何をしているんだ、あいつは……」
 佐々木が視線を送った町田ゴール前では、右足を振り抜く体勢に入った山田が、スタジアムに居合わせた全員を驚かせる形でシュートを放っていた。
(取材・文/藤江直人)
(後編へつづく)

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