とっさの判断で、川崎フロンターレのFW山田新は相手ゴール前で右足をすくいあげてボールを浮かせた。雨中の敵地・町田GIONスタジアムに乗り込んだ、5日のFC町田ゼルビアとのJ1リーグ第33節。1-1で迎えた38分だった。  川崎のクロスのこ…

 とっさの判断で、川崎フロンターレのFW山田新は相手ゴール前で右足をすくいあげてボールを浮かせた。雨中の敵地・町田GIONスタジアムに乗り込んだ、5日のFC町田ゼルビアとのJ1リーグ第33節。1-1で迎えた38分だった。

 川崎のクロスのこぼれ球を町田の守護神、谷晃生がキャッチ。左タッチライン際へ開いていた、左サイドバックの杉岡大暉へのパントキックを選択した。
 しかし、ここで森保ジャパンに名を連ねる谷が想定外のプレーを演じる。試合後に「技術的なミスだった」と悔やんだパントキックの弾道は低く、谷と杉岡の間にいた川崎のキャプテン、MF脇坂泰斗の真正面に飛んでしまった。
 脇坂は冷静沈着に、高難度のワンタッチパスをゴール正面にいた山田のもとへ正確に通した。予期せぬピンチに、町田の守備陣形は混乱をきたしている。半身の体勢になりながら、山田がボールを右側へ呼び込んだ次の瞬間だった。
 ペナルティーアークあたりで、山田が選択したのはループシュート。練習でも見た経験のない光景に、後方にいたセンターバックの佐々木旭は「何をしているんだ、あいつは……」と思わず驚いた。山田自身はこのとき、何を考えていたのか。
「プロでは初めてかもしれないですね。狙い通りだったのかはわからないけど、キーパーがかなり前へ出ていたので、いけるかなと思って。ヤスくん(脇坂)が本当に余裕をもたせてくれるパスを出してくれたので、冷静に打てました」

■佐々木「あんなプレーもできるようになったんですね」

 一連のプレーを振り返った山田の唯一の計算外は、ループシュートを察知した日本代表DF望月ヘンリー海輝のカバーリング。しかし、192cmの長身を懸命に伸ばしてクリアを試みるも、ボールは望月の頭をかすめてゴールへ吸い込まれた。
 試合後の取材エリアで「ヒヤヒヤしました」と苦笑した山田へ、佐々木も「あんなプレーもできるようになったんですね。びっくりです」と前言を撤回した。佐々木が抱いた思いこそが、今シーズンの山田が描いてきた成長の跡だった。
 芸術的な逆転ゴールを決めた山田のもとへ、エリソンとマルシーニョの両FWに続いて、左サイドバックの三浦颯太までもが自陣から祝福へ駆けつけてきた。
 ともに2000年生まれで24歳の山田と三浦は、前者が桐蔭横浜大、後者が日本体育大で何度も対峙した大学時代から、お互いの特徴をインプットしてきた。
 卒業後にJ2のヴァンフォーレ甲府へ加入した三浦がステップアップを果たし、川崎でチームメイトになった今シーズン。三浦が左膝外側半月板損傷で離脱する4月まで、三浦のクロスを山田が決める居残り練習を繰り返してきた。
「彼らしいゴールだったし、同じ年で仲もいいので、とにかくうれしいですね」
 果敢なインナーラップから三浦が28分に決めた、J1初ゴールとなる同点弾に山田が笑顔を浮かべれば、山田とゴールで共演できた三浦も言葉を弾ませる。
「毎試合のように点を取っている彼の勢いは本当にすごいし、自分もやっと点を決めて、しかも1試合で2人とも決めたのは同期としてもうれしいですよね」
 三浦の復帰戦となった7月20日の柏レイソルとの第24節。開始4分に三浦が左サイドから放ったクロスを、ニアへ走り込んだ山田がゴールに変えている。
 途中出場が続いていた山田が先発定着へ、三浦が新天地への順応へ必死だった今シーズンの序盤。居残り練習を積み重ねた2人の間には、左サイドで三浦がボールをもてば、山田がまずニアへ走り込むホットラインが生まれていた。

■「もちろん20点は取りたいし、得点王も狙っていきたい」

 盟友の復帰に刺激されたのか。柏戦以降の9試合で10ゴールをマークし、通算15ゴールで得点ランキングの3位タイに浮上した山田が目標を上方修正した。
「もちろん20点は取りたいし、得点王も狙っていきたい」
 旺盛な闘争心も搭載した、国内屈指のストライカーとなった山田。利き足の左足と無尽蔵のスタミナで左サイドを疾走する三浦。急成長を介して川崎で居場所を築きあげた、今年が“年男”でもある2人の視線は、アルビレックス新潟とアウェイ、ホームの順で対峙するYBCルヴァンカップ準決勝へすでに向けられている。
(取材・文/藤江直人)

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