「広島3-1ヤクルト」(5日、マツダスタジアム) ありがとう-。今季限りでの現役引退を発表していた広島・野村祐輔投手(35)が引退試合に臨んだ。先発して1回1安打無失点で自身が持つデビューからの連続先発登板の日本記録を211試合に伸ばし、…

 「広島3-1ヤクルト」(5日、マツダスタジアム)

 ありがとう-。今季限りでの現役引退を発表していた広島・野村祐輔投手(35)が引退試合に臨んだ。先発して1回1安打無失点で自身が持つデビューからの連続先発登板の日本記録を211試合に伸ばし、マウンドに別れを告げた。さまざまな思いを背負いながら駆け抜けた13年間のプロ野球生活。万雷の拍手を受けながら、背番号19が有終の美を飾った。

 ゆっくりとした歩調でマウンドへと向かう。名残惜しさも感じさせつつ、威風堂々の足取りだった。用意された舞台は今季最終戦の先発マウンド。先頭に安打を許したが丸山和、村上を連続三振に斬り無失点。「ホッとしています。悔いなく終われたと思います」と柔らかな笑顔を見せた。

 試合後のセレモニーでも表情は穏やか。「13年間、カープでプレーできたことを誇りに思います」。終始落ち着き、笑顔もあったが、広陵時代の恩師・中井哲之監督と明大時代の恩師・善波達也氏がサプライズでの花束贈呈に登場すると思いがあふれ、涙がにじんだ。

 こだわったのは先発投手として、そしてカープの一員として現役を終えること。赤いユニホームを身にまとい、自身が持つデビューからの連続先発登板のプロ野球記録を211試合に更新した。「先発としてやればやるほど、こだわりができた。本当に夢のような時間で、カープに入れて心から良かったと思っています」と現役に未練はない。

 直近4年は1軍で計3勝。苦しい時に頼ったのは母校だった。広陵・中井監督からは「いつでも広陵に帰って来い」と言われ続けていた。必死に汗を流したグラウンドを見ると、「原点に帰れる」と話していた右腕。すり減った精神を広陵で癒やし、思いを新たにまたプロという厳しい戦いの場に戻る13年間だった。

 昨年12月にも同校を訪れた。中井監督の前での来季への“所信表明”。監督室に入った野村は正座をして背筋を伸ばした。「1軍で投げること」。現実的な目標を立てた。

 その直後に中井監督からは「何を言っとんじゃ!10勝じゃろうが!」と一喝された。野村の登板は逐一チェックしている中井監督だ。現状を最も知っている。15年以上にわたる2人の関係。野村だって中井監督のことは心の内まで知っていた。叱咤(しった)の裏に込められた「大丈夫、お前ならできる。頑張れ」という思いが、右腕の胸にすっとにじみ、今季の原動力となっていた。

 ファーム暮らしが続いたここ数年。右腕の姿を見る者は「腐ることなく」と口をそろえた。朝7時、誰よりも先にグラウンドに出て走る背番号19の背中はもう見られない。だけど、その姿勢はチームに脈々を受け継がれていく。ありがとう、野村祐輔-。広島に歓喜をもたらし、広島県民に愛された男が感謝の思いを胸にグラウンドを後にした。