先週、2度目の現役引退を表明した伊達公子 プロテニスプレーヤーの伊達公子が人生2度目の現役引退を表明し、46歳でラケットを置くことになった。 2008年4月に、当時37歳の伊達公子は現役再チャレンジと位置付けて、1996年11月以来とな…



先週、2度目の現役引退を表明した伊達公子

 プロテニスプレーヤーの伊達公子が人生2度目の現役引退を表明し、46歳でラケットを置くことになった。

 2008年4月に、当時37歳の伊達公子は現役再チャレンジと位置付けて、1996年11月以来となるプロテニス競技生活を再開させ、国内転戦にとどまらず海外にも積極的に出ていった。

 2009年オーストラリアン(全豪)オープンでは、予選から勝ち上がってグランドスラム本戦復帰。さらに、同年9月にはWTAソウル大会で見事ツアー優勝もやってのけた。

 そして、2010年11月8日付けのランキングでは、伊達の第2次キャリアでは自己最高となる46位を記録、39歳にしてトップ50入りを実現させ、周囲を驚かせた。一方で、プロテニス選手としては超高齢での挑戦であったため、身体的にはいろいろな箇所を痛め、ケガとの戦いにもなった。

 2015年9月頃から左ひざが悪くなり、2016年オーストラリアンオープン予選1回戦を戦っている最中に、すでに亀裂のあった左ひざの半月板をさらに悪化させて断裂。2016年の2月と4月に左ひざの半月板を修復するための手術を行なった。5月からはJISS(国立スポーツ科学センター)で、1年弱のリハビリに努めた。

 今年5月にITF岐阜大会で復帰を果たしたが、その後思うようなプレーができず、世界ランキングは1201位(8月28日付け)に低迷していた。

 伊達の人生2度目の引退表明を受けて、現役選手、元選手、関係者らが彼女へコメントを寄せてくれたので紹介していきたい。

松岡修造氏
 元プロテニスプレーヤー。世界46位になって、日本男子として世界ツアーへの扉を開き、1995年のウインブルドンではベスト8に進出した。

「相当つらい判断だと思います。伊達はプレーをもっとしたかったでしょうから。彼女自身は今でもできると思っているだろうけど、右肩が思ったよりもひどい。ひざのケガをして、どうしても練習を途中でやめたり、試合にも出れなかったり、周りにも迷惑がかかってしまい、プロとして彼女はそういうことが許せなかったのでは。自分の思いを貫き通して周りに迷惑をかけるんだったら、やめようという判断なのでしょう。やり切った、もうこれでいいという引退ではないから、僕はすごくつらく感じます。

 一方で、僕はすごく安心しました。やめてくれて、ホッとした思いもあります。伊達は、限界を作らない選手なので、このまま追い詰めていったら、体が普段の生活を含めてできないくらいまできていた。主治医の方によれば、左ひざに関しては、普通の生活も危ういんじゃないかと言われていた。その状況で、やめるという仕方のない判断ですけど、彼女の人生を考えたらよかったんじゃないかな。

(第2次キャリアは)結果が伴わなくても、自分の体とのチャレンジ、まさに”公子チャレンジ”だった。伊達公子という体とともにどこまでできるのかずっと挑戦をしていて、それが(本人からすれば)面白くてしょうがなかったのでは。リハビリをしようが何をしようが、きつくなかったと思いますよ。

 でも、好きなテニスを、どこか痛くてやれないのがつらかったでしょう。どこも痛くない状態で、もう一度テニスをすることが彼女の目標だった。それはできなかったけど、チャレンジすることを教えてくれたのが伊達なんじゃないかな。

 ただ、まだ試合があるから彼女には『お疲れさまです』とは言いません。伊達がすべてをかける試合になるでしょう」

杉山 愛氏
 元プロテニスプレーヤー。シングルスで世界ランク8位、ダブルスでは世界1位になった。現役時代にフェドカップ日本代表では伊達と一緒に戦った。

「何よりも第1次キャリアと違ったのは、彼女が心から楽しんで、ツアーもまるごと楽しんだということです。第2次での現役挑戦は、自分へのチャレンジということもあったと思う。最後の方はケガとの戦いで日々体調が違い、それに向き合う厳しさもあったなかで、できることをやった。本当に自分へのチャレンジを楽しんでいた。

 まだまだやりたい気持ちが彼女にあるようなので、心苦しくも感じますけど、競技者は結果を出していかないといけない世界ですからね。ここでひとつピリオドを打つことを決心したということで、心からお疲れさまでした、と言いたいですね。

 伊達さんは華がある方ですので、今後もテニスの魅力をどんどん広めていかれるでしょう。競技者でなくなって形は変わりますけど、伊達さんしかできないことがきっとある。何をするかは、すべてが終わってからでないと見えてこないでしょうけど、伊達さんのやり方でやってくれるんじゃないかと思っています」

村上武資氏
 村上氏は、元フェドカップ日本代表監督で、伊達を日本代表に再招集して一緒に戦い、アジアゾーンからワールドグループIへ一緒に駆け上がった。

「2009年に僕が監督になった時に、伊達にすぐ代表復帰を打診しました。その時は、自信がないということで辞退されてしまったのですが、2010年に再度お願いした時は快諾してくれました。彼女がいなかったら、(日本が2013年に)ワールドグループIに復帰するのはなかなか難しかったと思う。伊達の活躍が森田(あゆみ)や、(奈良)くるみや(土居)美咲に刺激を与えたのは間違いない。彼女の存在が今の日本女子テニスの躍進の要因のひとつになった。

 いろいろお互いの意見をぶつけた方がいいということで、そういう間柄だったからこそよかったのかなと今は思う。僕はただ感謝しかないです。

 伊達のテニスは多くの人を引きつけるし、彼女を見られなくなるのは、多くのテニスファンにとっては残念なことですけど、大変なケガを乗り越えたうえで、その決断に至ったと思います。  

 本当にご苦労さま。最後の試合、思い出の詰まった有明で、悔いなく戦ってほしいですし、心から応援したい。また、これからの人生の方が長いです。伊達の与える影響は大きいわけですから、どういう形かわからないですけど、テニス界のためにアンバサダー的な存在でいてほしい。また一緒にメシでも食いたいなと思います」

土橋登志久氏
 現在、フェドカップ日本代表監督を務めている。

「手術から復帰したけど、なかなか思うようにプレーできずに残念でした。彼女がリハビリをして復帰を目指した姿勢は素晴らしかった。だから、最後にもっと楽しくプレーをしてほしかったです。でも、本人が決断したことですから、お疲れさまですと言いたいです。

 2008年に復帰して、最初、どこまで復帰できるんだろうと思いましたけど、グランドスラムに戻ってきて、トップ50に入ったのはすごいこと。今の若い選手たちがグランドスラムを近くに見えるようなった、きっかけになったのではないでしょうか。彼女が与えた影響は、結果だけでなくて、もっと大きいものだと思いますし、感謝しています。(最後の試合では)伊達らしく、全力で悔いなく、すべてをコートの上で表現してほしい。
 
 次のステップの中で、日本の強化や育成に携わってほしいなという気持ちが個人的にはあります」

竹内映二氏
 竹内氏は伊達の第1次キャリア時代の終盤にツアーコーチを務め、1996年ウインブルドンベスト4進出を陰で支えた。現在は日比野菜緒のツアーコーチを務める。

「いやぁ、お疲れさまでした、という単純な言葉しかないです。彼女のやった功績は素晴らしい。僕も彼女が(1996年ウインブルドンの)センターコートに連れて行ってくれたおかげで、今も夢がつながっているような気がするんですよ。あの独特の雰囲気の中で、コーチとして入れて、その後、僕の人生の中で、またあそこに立ちたいという思いが脈々と続いている気がするんです。そういう意味で僕にきっかけを作ってくれた伊達。これからも彼女にはテニスに関わってもらって、”スーパーコーチ”になってくれないかなと思っています(笑)」

日比野菜緒
 プロテニスプレーヤー、WTAランキング80位。8月28日付け、以下同。今年4月、伊達とエキシビションマッチを行なった。

「一番目標としていて、目指していた選手でした。伊達さんがいなくなった後、おこがましいですけど、私が伊達さんのような選手になって、(日本女子テニスを)引っ張っていけたらいいなと思います」

土居美咲
 プロテニスプレーヤー、WTAランキング94位。

「復帰されてから、長いこと戦っている姿を見てきました。テニスに取り組む姿勢、どれだけストイックに取り組むべきかという部分を見てきた。年齢という壁がありながら、プレーしていたのはすごいなと思います」

奈良くるみ
 プロテニスプレーヤー、WTAランキング116位。伊達の現役再チャレンジの初戦となった2008年ITF岐阜大会では、伊達と一緒にダブルスを組んで優勝した。

「やはり引退と聞いた時は寂しいというか、もう1回一緒に遠征を回って、一緒にごはんでも行けるかなと思っていたので、残念な気持ちはあります。私と美咲は、復帰の時からずっと一緒に練習をしてもらって、すごくお世話になった。伊達さんから学ぶことは本当に多かったですし、あそこまでプロフェッショナルな方はいなかった。自分にはないものをすごく持っていました」

 引退を決心する要因になった伊達の右肩の状態が気になるところだが、9月11日から、東京・有明テニスの森公園コートで開催されるワールド女子テニスWTAツアーの公式戦「ジャパンウィメンズオープン」が、彼女の現役最後の舞台となる。

 伊達にとって最後となる試合で、はたして日本のファンにどんなプレーを見せるのか。彼女が続けてきた9年半におよぶ現役再チャレンジの集大成となる。