■2年生にスタメンマスクを譲った吉安が代打で同点二塁打 東京六大学秋季リーグは28日、法大が今春優勝の早大との1回戦に3-3で引き分けた。ドラフト上位指名候補の先発・篠木健太郎投手(4年)が7回3失点で粘り、1点ビハインドの7回の攻撃では、…

■2年生にスタメンマスクを譲った吉安が代打で同点二塁打

 東京六大学秋季リーグは28日、法大が今春優勝の早大との1回戦に3-3で引き分けた。ドラフト上位指名候補の先発・篠木健太郎投手(4年)が7回3失点で粘り、1点ビハインドの7回の攻撃では、ベンチスタートの主将・吉安遼哉捕手(4年)が代打で値千金の同点二塁打を放った。

 法大の大島公一監督と早大の小宮山悟監督は、お互い“元プロ”。前週は試合がなかった早大に対し、法大は立大との死闘が4回戦までもつれ込み、特に篠木は1回戦と3回戦に先発し力投したばかりだった。小宮山監督が「疲労を考えれば、ウチが勝たなければいけない試合。われわれにとって、痛い引き分け」と述懐したように、法大にとって勝利に近い引き分けだったかもしれない。

 最速157キロを誇る法大のエース・篠木は、今春のリーグ戦で投手としては驚異的な打率.357(14打数5安打3打点)をマークしたほど打撃もよく、今季は先発する試合で、9番でなく7番を打っている。この日も2-3とリードされて迎えた7回、先頭打者として打席に入ると、相手の伊藤樹投手(3年)の足元を抜くピッチャー返しの中前打を放ち出塁した。大島監督は「誰よりも打ちそうな気がします。期待して打席に立ってもらいましたし、基本通り、ピッチャーの足元に打ってくれました」と絶賛した。

3-3の同点タイムリーを放つ法大吉安【写真:小林靖】

 続く熊谷陸内野手(1年)がバントで送り、篠木は二塁へ進塁。ここで代打で登場したのが、主将の吉安だった。今春は絶対的な正捕手だったが、今季は篠木の千葉・木更津総合高の後輩に当たる中西祐樹捕手(2年)にスタメンマスクを譲るケースが増えている。複雑な思いを抱えているはずの吉安は、カウント1-2と追い込まれながら、高めに浮いたスプリットを一閃した。打球は左翼手の頭上を越え、二塁から篠木が50メートル5秒86の俊足を飛ばしてホームイン。起死回生の同点二塁打となった。

 法大は2020年の春を最後に天皇杯から遠ざかっており、トップだった通算優勝回数でも、今春のリーグ戦を制した早大に抜かれた。今春に就任し、最初のシーズンを4位で終えた大島監督は、今季開幕を前に選手たちへ「競争し、変革していこう。勝ちにこだわり、強い法政を取り戻そう」と呼びかけ、大ナタを振るった。

 春にレギュラーだった4年生の吉安、武川廉内野手、鈴木大照外野手らに代わり、1年生の熊谷、2年生の中西祐、石黒和弥内野手(3年)が出場機会を増やしている。篠木は「悔しい思いをしているのはわかっています。競争の中で、どこかで4年間積み重ねてきたものが発揮されるだろうと思っています。二塁走者として見ていましたが、ヤス(吉安)なら打ってくれると思っていました」と実感を込めて語り、「“4年生の意地”を見せてもらえたので、僕もしっかり頑張っていきたいと思います」と付け加えた。

左:スタメン捕手の中西、右:先発を務めた篠木【写真:小林靖】

 7回に自ら打って、走って、同点のホームを踏んだ篠木は、直後の8回の最初から、マウンドを2番手の安達壮汰投手(4年)に譲った。投手の起用のしかたとしては非常に珍しいが、純粋に篠木の打撃に期待していた証しだろう。大島監督は「バッターとしても、ランナーとしても期待しています。得点を取るために最善策だと思いました」とうなずく。篠木の投打に渡る重用も、“大島改革”の1つと言える。

 大島監督は現役時代、イチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)らが大活躍していたオリックスで、いぶし銀の脇役をこなし、チームにとって不可欠の存在だった。今も指揮官として、試合中の選手たちには穏やかな笑顔を向けつつ、着実に名門再建を進めている。