蹴球放浪家・後藤健生は、世界を股にかけてサッカーを取材する。さらに、その取材で世界の酒と食を楽しむ。サッカーも酒食も、重要な文化。掘り下げれば、大事なことが見えてくる。 ■北朝鮮「ホームゲーム」はラオス開催  現在進行中のワールドカップ・…

 蹴球放浪家・後藤健生は、世界を股にかけてサッカーを取材する。さらに、その取材で世界の酒と食を楽しむ。サッカーも酒食も、重要な文化。掘り下げれば、大事なことが見えてくる。

■北朝鮮「ホームゲーム」はラオス開催

 現在進行中のワールドカップ・アジア最終予選に出場している北朝鮮は、ホームゲームをラオスの首都ビエンチャンで開催しています。

 北朝鮮といえば、2次予選のときに日本とのホームゲームの開催地を巡って二転三転したあげくに不戦敗となりましたし、女子のパリ・オリンピック予選で日本とのホームゲームがサウジアラビアのジッダで開催されたことはご記憶のことでしょう。

 しかし、ラオスとは意外な選択でした。北朝鮮を受け入れてくれる友好国が、ごく限られる中でラオスが選択されたのでしょうが、本国とは気象条件もまったく違う会場で戦うのですから、あの国の代表選手たちはお気の毒としか言えません。

 さて、前回の「蹴球放浪記」では、その国が昔、どこの国の領土(植民地)だったかによって、街並みや文化が違ってくるという話をしました。

 ラオスは第2次世界大戦前はフランス領インドシナの一部でした。現在のベトナム、ラオス、カンボジアのことで、日本では省略して「仏印」とも呼ばれていました(ちなみに、オランダ領東インド(現在のインドネシア)は「蘭印」です)。

■「ワインを飲みたい」と思って探しに

 僕がラオスに行ったとき、「ああ、ここは確かに昔、フランス植民地だったのだ」と感じたのは、ホテルのそばで品ぞろえの良いワイン・ショップを見つけたからです。

「ワインを飲みたい」と思ってワイン探しに出かけたのですが、そんな簡単にワインが手に入るとは思っていなかったのです。

 というのは、東南アジアではアルコール飲料が簡単に手に入らないことが多いのです。

 インドネシアは人口の90%近くがイスラム教徒です。そして、イスラム教ではアルコールを飲むことや豚肉を食べることが禁止されているのです。

 もっとも、インドネシアには仏教など他の宗教の人も多く、また中国系の人々も多いのでアラビア半島のように戒律は厳格でなく、中華系の店には豚肉も当然、置いてあります。ただ、日本のように簡単には酒が手に入りません(日本では、ほとんどのコンビニに酒類が置いてありますよね。便利です)。

■フランス式のパンが「美味しい」ベトナム

 イスラム教だけでなく、仏教でも酒は本来は好ましいものではありません。

 日本でも、禅家の寺の山門には「戒壇石」というものが置かれていて、そこに「不許葷酒入山門」と書かれています。「葷酒、山門に入るを許さず」と読みます。

「葷」とは、ニラやニンニクのような臭いのきつい野菜のこと。そうした野菜や酒を持ち込んではいけないというのが、戒壇石の言葉の意味です。そうした刺激物は修行の妨げとなるからです。

 もっとも、日本では法事などの仏教行事に飲酒はつきものですし、和尚さんには大酒飲みの人が多いような気がします(偏見?)。

 いずれにしても、熱心な仏教徒が多いことも、東南アジアで酒が手に入らないことの理由なのでしょう。

 というわけで、東南アジアではこれまで何度も酒を求めて町中を放浪した経験があったので、ビエンチャンのホテルのすぐそばにワイン・ショップを見つけたときに、「ああ、ここは元フランス植民地だったんだ」と実感したというわけです。

 同じ「仏印」だったベトナムでも、当然、ワインは簡単に手に入ります。そして、ベトナムではフランス式のパンが美味しいことでも有名です。フランス式のバゲットに具材を挟んだベトナム式のサンドウィッチ「バインミー」は、今では日本でも簡単に手に入るようになりました(「バインミー(漢字で書けば餅麺)」は、本来は「パン」という意味のベトナム語です)。

 ラオスの食文化にフランスの影響がどれくらいあるのか、僕は知りませんが、とにかくワインは簡単に手に入ったというご報告でした。

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