ゴールを奪えないまま、1点をリードされて終えた前半をベンチから見ながら、清水エスパルスのMF矢島慎也は攻撃に加えるべき変化を思い描いていた。  藤枝MYFCのホーム、藤枝総合運動公園サッカー場に乗り込んだ22日のJ2リーグ第32節。矢島は…

 ゴールを奪えないまま、1点をリードされて終えた前半をベンチから見ながら、清水エスパルスのMF矢島慎也は攻撃に加えるべき変化を思い描いていた。

 藤枝MYFCのホーム、藤枝総合運動公園サッカー場に乗り込んだ22日のJ2リーグ第32節。矢島は藤枝の守備に生じる“ずれ”を常に感じ取っていた。

「怜音(山原)と輝綺(原)の両サイドバックが低い位置を取るとフリーになって、相手はそこへ無理をしてでも縦ずれしてくる感じだったので。自分が出たらあえて低い位置を取らせて、サイドで何度もやり直して、相手が対応できなくなった時点で背後を取って、外へ広げさせてから中を使い分けていくのもありかなと」

 以心伝心というべきか。清水の秋葉忠宏監督は前半に、矢島に対して「もしボランチで途中出場したときには、頭のなかに入れておいて」と藤枝の“ずれ”をチャンスに変えるための、矢島が描いていたのとまったく同じ青写真を伝えていた。

 迎えたハーフタイム。最初の交代カードとして、ボランチの宮本航汰に代わって矢島が投入された。14日のレノファ山口との第31節では2列目として途中出場し、勝ち越しとダメ押しの2ゴールを決めている矢島が思わず苦笑した。

「やるべきプレーが多いので大変ですよ。しかも秋葉さんはそれを、平気で『やってくれ』と言ってくるので。自分に信頼を置いてくれているとも受け取れるので、監督の信頼にしっかりと応えないといけないと思っているので」

■「チーム内の競争力みたいなものが、終盤戦にきてこんなにも」

 右肩鎖骨骨折を乗り越え、約4カ月ぶりにピッチに立ったMF西澤健太が52分に決めた同点ゴール。歓喜の瞬間をさかのぼっていくと、敵陣の中央から藤枝ゴール中央のMFルーカス・ブラガへ入った矢島の鋭い縦パスに行き着く。

 両サイドと中央を巧みに使い分けて清水の攻撃を活性化させ、3-2の逆転勝利に導くゲームチェンジャーとなった矢島へ、秋葉監督も賛辞を惜しまなかった。

「もっとテンポよく揺さぶりたいという狙いのなかで、正確な技術とインテリジェンスのある慎也(矢島)を入れた。途中出場という難しい役割であっても常に力を発揮してくれる慎也は、チームにとって非常に頼もしい存在だと思っている」

 台風10号の影響で延期された徳島ヴォルティス戦が18日に組み込まれた9月第3週は、9日間に3試合を戦った。先述した山口戦は矢島が、徳島戦はFWドウグラス・タンキと、ともに途中出場の選手がヒーローになった。

 今シーズンに山口から加わった30歳の矢島も、出場した26試合のうち先発は12度にとどまっている。それでも試合後には藤枝戦のヒーローになり、不断の努力を間近で見てきた秋葉監督を号泣させた西澤の存在をあげながらこう語っている。

「自分も近くで見ていて、年下ですけど、常日頃の立ち居振る舞いは本当に素晴らしいものがある。そういう選手が結果を出して、自分も前々節にゴールして、前節ではタンキも活躍した。レベルが高くなってきたからこそ、変なプレッシャーに負けているようではベンチにも入れなくなる。チーム内の競争力みたいなものが、終盤戦にきてこんなにも上がっているのはすごくいい状況だと思っています」

■J2昇格を決めるために

 正念場と位置づけていた9月第3週の過密日程で3連勝マーク。首位の座へ返り咲いた清水は28日の次節で、2位の横浜FCとの天王山を迎える。会場はホーム扱いとなる東京・国立競技場。チーム内の熱き思いを秋葉監督が代弁する。

「どのような形でJ2を制して、マストに掲げるJ1へ昇格するのか。最後の最後にチャンピオンで終わる状況に、全員で団結してこだわっていきたい」

 残り6試合となったJ2戦線で、3位のV・ファーレン長崎との勝ち点差は11ポイント。昨シーズンの最終戦で逃したJ1昇格への視界がどんどん良好になっても、清水に油断や慢心の類は見当たらない。チーム内に火花を散らす、誰が出ても結果を残す激しい競争意識が、終盤戦で右肩上がりに転じた軌跡を加速させている。

(取材・文/藤江直人)

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