プロとの対戦で「怖さ」を痛感…一皮むけた新・坂本怜がプロ転向 自己最高ランクで世界4位を記録した錦織圭(ユニクロ)や西岡良仁(ミキハウス)らをジュニア時代から支援し、世界トップへ後押しした盛田正明テ…
プロとの対戦で「怖さ」を痛感…一皮むけた新・坂本怜がプロ転向
自己最高ランクで世界4位を記録した錦織圭(ユニクロ)や西岡良仁(ミキハウス)らをジュニア時代から支援し、世界トップへ後押しした盛田正明テニス・ファンド(MMTF)。そのサポートを2022年から受け、アメリカ・フロリダにあるIMGアカデミーで腕を磨いている18歳の坂本怜(誉高校)は、今年の全豪オープンジュニアで日本人男子2人目となるタイトルを獲得し、ジュニア最後の大会となった全米オープンではシングルス4強、ダブルス優勝という成績を残した。
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そして、今月20日にはプロ転向を宣言。いよいよプロとしての一歩を踏み出す。身長はこの1年で3cm伸びて197cmとなり、アグレッシブなプレーで魅せる坂本の進化について、IMGアカデミーを拠点としてMMTFのコーチを務める弘岡竜治氏に聞いた。
――去年の全米オープンから1年が経ちました。今年の全豪オープンジュニア優勝や出場機会こそありませんでしたがデビスカップのメンバーにも選ばれ大きな躍進となりました。坂本選手の変化について教えてください。
「この年代というのもありますが、1年で劇的に変わる年頃で、ものすごい速度で成長していったのが印象的です。大舞台で勝てるようになった。全豪も優勝できたし、テニス自体も大きく変わったと思います」
――いまでは堂々としていますね。弘岡コーチの思う具体的な成果や変化はどんなところでしょうか。
「彼自身、一番大きかったのが、昨年11月にあった日本のチャレンジャー1大会目の予選で内山靖崇選手にボコボコにされたことですね。プロのレベルになった時に自分からポイントが取れないというのがネックになっていました。待っているだけでは絶対にポイントが取れないんだ、ということに気づかされたと思う。2大会目、3大会目には良くなってきて、去年のインタビューでも言った“武器を作る”のサーブとフォアハンド、今はこの2つを武器として持って自分からポイントを取れるようにしています」
「この身長(197cm)で動けるし、しつこさもある。その中で相手に対して与える『怖さ』がこれまでに欠けていたもの。クレーコートでスペイン人を相手に試合して3時間半プレーして試合を左右するのは、そこで突き抜けていくものが求められる。相手に怖さを与えることが必要だと経験して、作っていくことができたことが一番の変化でした。そこでテニスは劇的に変わったと思います」
――内山選手との敗戦で、坂本選手も身に染みて、落とし込んでいくきっかけになったんですね。
「人に言われて頭ではわかってはいるけど、経験することによって確認ができた。『あ、やっぱりそうなんだ』と。それはショットも同じで、フォアハンドはシバいてボールを打つようになった。元々、強打できるけれどミスするのが怖かったんだと思います。しかし、上のレベルで戦うために『それでもやっていかないと』と変わった部分ですね」
――フォアハンドの当たりは突き抜けているようにも見えました。以前からあのぐらい打つことができたのでしょうか。
「やろうと思えばできたと思いますよ。でも、ミスしてもいいからアグレッシブにボールを打っていこうと強く言って、やっとできるぐらい。そこが自分に対して言えるようになってきたんだと思います」
――それが相手への「怖さ」になっていく。ボールを置きにいったらやられる、という相手のディフェンスに圧力をかけているようでした。
「一見するとミスは増えていますよね、でも、そのぶん相手にプレッシャーをかけて、そこだけではなく、試合の後半に生きてくる。相手の頭に(印象が)残るショットが、打てるようになってきました」
――プロの厳しさも知り、一皮むけて年明けの全豪オープンジュニア優勝となるのですが、勝ち切っての優勝する感覚など、その時のことを振り返っていただけますか。
「プレシーズンをすごく良い状態で過ごしました。アグレッシブなテニスで練習、トレーニングをして、IMGにプロがくるので、その選手達とマッチ練習をして『あ、通用するんだ』という自信がまず一つありました。オーストラリアの前哨戦のジュニアの大会で優勝して自信もついていましたし、(その時に)全豪オープンジュニアも勝つだろうな、という雰囲気がありました」
――コーチとしてはその雰囲気、佇まいをずっと維持してもらいたいと悩むのでは?
「彼(坂本)の場合は、負けが込んでも試合後にうまく切り替えて引きずらないので、そこは良いところでもありますね。いい意味で次の日にはケロッとしている。そこはテニス選手として大事なところです。ずっと勝ち続けることはないので。次々と試合に出場していく中で、そこはすごくいい性格。自信もそんなに落ちることはないですね」
――岩本功ジュニアデビスカップ監督は、身長がまだ伸びていて、まだ体の厚みという点ではまだまだだと。だけど、4、5年で(ツアーを回れる身体に)なっていくというお話でした。
「筋肉をつける、大きくしていくことはもう始めています。もちろん単純にデカくするというより、崩れずにしっかりするために必要な筋肉をつけていく、という感じです。力強い球を打つというよりは、いわゆるコアの部分ですね、体の安定性を作っていくには、人間は筋肉が必要なので柔軟性を失わないようにそこをどう育てていくかというのが大事だと思います」
――全米オープンでジュニアは最後です。今後、チャレンジャーなどに向けて特別に取り組みを変えることはあるのでしょうか。
「常に目標ややらなければいけないことをやっているだけなので、この大会だから何かをするということではなく、長い目で見てグランドスラムでどうやって勝つのかを考えています。過程としてはもちろんフューチャーズもチャレンジャーも入ってきます。これまでとはフィジカル面、メンタル面というのが一番違うと思います。そこは強くなって経験してもらうことですね。プロで通用するテニスは持っているので」
――坂本選手のIMGでのタイム(練習)スケジュールについて教えてください。
「シーズンによって違ってきますが、基本的にテニスは午前が2時間、午後が2時間ぐらいで、フィットネスが2回やる時と1回の時があります。それにプラスして、個人的な球出しだけをやったり、選手からリクエストがあったりする。1回のセッションはポイント系を多くして、もう1セッションは1時間から1時間半の球出しなど必要なものだけやるような感じです。今は、フィジカルトレーニングを多くやることもありますし、テニスのボリュームを増やそうとすることもあります」
――追い込んだ練習後のケアも管理しているのでしょうか?
「彼の場合はランチと休憩の時間でよく昼寝しています。たくさん食べて、たくさん寝る。一番大事なところです。基本的に彼は怪我が少ない。身体が柔らかいということもありますし、こちらから言わないのに習慣のように自分でしっかりウォームアップ、クールダウンをする。プロは試合期間中であってもトレーニングをやっていますが、ジュニアは難しい場合もあります。フィットネスコーチがついてないとか、そんな時には上手くコミュニケーションを取って、メニューを作っています」
――総合的に坂本選手をみているのですね。
「特に怜の場合はあえて1対1だけのコーチングにならないようにしています。彼の性格的にもコーチ(日本のナショナルのコーチやIMGコーチなど)みんなでチームとしてやる方が雰囲気が良くなる場合がある。そこの関係性は大事にしてやっています」
――盛田正明テニスファンドのコーチとして他の日本人選手もケアしながらの坂本選手の帯同という感じになるのでしょうか。
「この1年はそうですね。帯同してくれたコーチとはコミュニケーションを取って、試合を遠隔で観るようにしています。『こういうふうにした方が良いんじゃないか?』ということを選手と話したり、他のコーチと話す時もあります」
――坂本選手を任されることでプレッシャーを感じることはありますか?
「ほとんど無いですね、プレッシャーは全く感じてないです。やることをやってダメなら次!という気持ちでやっています。僕自身、海外が長いというのもありますし、彼が期待されていることはわかってはいますが、それは関係ない。トップの選手をどうやって育成していくかしか頭にないという感じです」
――ジュニアからツアーへ移行する際に未知な世界へ引き上げていくというと日本ではすごくハードルが高く感じられると思います。
「IMGで7年ぐらいコーチをしていて、海外のトップジュニアがどのように頭一つ抜けていくか、どういう若い選手が強くなっていったのかというのを身近に見ることができています。そういう意味では、日本国内だけでテニスをしているよりは情報が入ってきたり、身近で感じられたりというのがありますね」
――いわゆる“頭一つ抜けていく選手”の特徴というのはありますか?
「これはよく聞かれる質問でもあります。まず共通するのは“圧倒的な負けず嫌い”。性格的なところは、結構重要だと思っています。少し抜けているといいますか、ものすごい何も気にしない性格だったり、異常なほどの負けず嫌いだったりとか、周りから見るとちょっと変わっている人間というのが突き抜ける。テニスのことで言えば、厚い当たりをする選手です。それこそボールをシバける。しっかりラケットとボールが当たって打っているショットだったり、ウィナーが取れるというのは大事です」
「実はプロでもウィナーを取れるけど取らない選手がたくさんいる。アンディ・マレーが良い例だと思います。練習を見ていると強い球を打ちますが、打たないことを試合でチョイスしているだけ。テニス的に厚い当たりで、ウィナーが奪える、あとは少し変わった人間なのではないでしょうか」
――ここ最近はイタリアや中国の選手が台頭してきました。オーストラリアの層も厚くなっている中で、坂本選手の活躍は日本のテニスの今後を期待させる存在です。日本のジュニアに向けてメッセージをお願いします。
「日本人はテニスがうまく、テクニックもしっかりしています。これは日本のコーチがしっかり指導していてレベルが高いことを示しています。じゃあ、どうやって海外で勝つかとなった時に、『海外の選手だから』『大きいから』とリスペクトしすぎるところがある。そこを普通に勝てるんだよっていう気持ちが身についてくれば、世界で戦っていくことは可能だと思います。そこが盛田ファンドでやっている良いところだと思います」
「毎日そういうデカい人とやって、すごいボールを打つ人、すごくフィジカルが強い人とプレーしていたら、それが普通になるわけです。そうすれば、グランドスラムなどで「いつもの人間とテニスをやっているだけ」とリスペクトしなくてもいいのではないかと思います。1試合勝って安心するというか、『この選手に勝てた!』で終わらせてほしくない。それを感じるために、強い選手とどんどん試合ができればいいですね、日本人ジュニア選手が勝てるようになるには、その部分は大きいと盛田ファンドの子供達はそう言うと思います」
――盛田ファンドのコーチとして活動されていますが、弘岡コーチの個人的なゴールがあれば教えてください。
「WTAやATPツアーを回っている選手を間近で見て、彼らのコーチをやってみたいですね。ジュニアの育成もやってきて、そこからプロにしていく経験がありますが、その後はやったことがない。興味があってやってみたいですね」
――坂本選手がジュニア世界1位になっているので、今度はプロの舞台でですね。貴重なお話をありがとうございました。