高田充・日本男子ナショナルチームヘッドコーチに聞く2024年シーズンの日本男子 2024年シーズンもすべてのグランドスラムが終わり、秋のアジア・シリーズそしてツアー終盤へ向かう。日本男子では怪我に泣…

高田充・日本男子ナショナルチームヘッドコーチに聞く2024年シーズンの日本男子 2024年シーズンもすべてのグランドスラムが終わり、秋のアジア・シリーズそしてツアー終盤へ向かう。日本男子では怪我に泣かされていた錦織圭(ユニクロ/世界ランク205位)が一歩ずつ歩を進め、西岡良仁(ミキハウス/同54位)はツアー通算3度目のATPタイトルを手にした。一方、ここまで勝ちに恵まれていないダニエル太郎(エイブル/同92位)や望月慎太郎(木下グループ/同146位)らのシーズン後半での活躍にも期待がかかる。そんな彼らを間近で見てきたパリ五輪の日本代表監督も務めた日本テニス協会強化育成本部のナショナルチーム男子ヘッドコーチを務める高田充コーチに、彼らの戦いぶりを振り返ってもらった。

【画像】グランドスラム2024で熱戦を繰り広げた日本男子選手たちの厳選写真!

――まず直近の全米オープン男子シングルスの総評をいただきたく思います。2試合(西岡選手とダニエル太郎選手)とも勝てそうな展開でした。

「ヨシ(西岡選手)はマッチポイントもありました。(ケツマノビッチ選手とは全米オープン前哨戦の)シンシナティでも対戦しているし、IMG(フロリダにあるテニスアカデミー)でも一緒。ジュニアの時から練習し、お互いに手の内を知っていて、前週も対戦してすぐに試合をするというのは簡単なことではない。そういう中でも勝利目前まで行ったことはさすがでした。痙攣もあって、あそこ(第4セットのマッチポイント)で締めるしかなかった。本当に悔しい、勝っていておかしくない内容でした」

――西岡選手はパリ五輪こそ残念ながら参加できませんでしたが、全米シリーズの「アトランタ・オープン」(ATP250)で優勝に始まり、勢いよく大会に入ってきたように思います。

「このシリーズが彼にとって一番得意なアメリカのハードコート・シーズンだと思います。そういう意味で、(西岡は)オリンピックを目指していたし、悔しさやプレッシャーもあったと想像します。それが抜けて、いきなりあの結果(アトランタ・オープン優勝)を出すのはすごいです。オリンピック関連の話題もある時期でしたが、個人的にはもっと取り上げてもらいたいと思いました。これまでの2つのタイトルは中国と韓国でのものでしたが、アジアシリーズ以外でツアー優勝というのはまた一味違う。100位台に落ちたランキングを一気に50位台に戻しましたし、それもあって今回は自分に期待していたところがあったと思います。残念ではありますが、またここから(アジア・シリーズ)ですね」

――ダニエル太郎選手についてはいかがでしょうか。

「ダニエルはなんとなく今年はこういう敗戦が少しあります。リードしながら落とすという、そのへんがまだ吹っ切れていない感じがします。スクールケイト戦でもサーブをブレークしリードしながら逆転された。テニス的にはかなりレベルアップしています」

――打点を前にしたり、積極的に攻めていく姿勢が見られたように思いました。

「ある程度トライしている部分があるけど、そのバランスがもう少し取れてくるともっと良くなるかと思っています。サーブも改良して良くなってきているし、ショットももちろん良くなってきているので、あとは勝負のところでの駆け引きだったり押し引き。そういうのが自然にできてくるといいかなと。勝ちにこだわる選手なので、そういう部分でテニスは絶対に良くなっています」

――10年前のテニスとは違い、どんどん中に入って打ってきているという印象があります。

「全体的にツアーのレベルが上がってきている中で、ここに居続けるためにもレベルアップしなければなりません。これは西岡にも言えることで、ちゃんとポイントをフィニッシュできるところが出てきています。以前は、そこまでフィニッシュできる能力がなかったのですが、それができるようになってきています」

「(ダニエル)太郎もオリンピックに3大会連続で出場できるというのは簡単なことではないし、そこに居続けているのはすごいこと。この何年もの間レベルアップしているというのは本人も理解していると思います」

――今回、島袋選手と望月選手は予選敗退で残念でしたが、若手についてお話いただけますでしょうか。

「月並みな言葉になってしまいますが頑張って欲しい。100位を切るために150位ぐらいにいる必要があって、ひとつのきっかけでワンチャンスでポン!と狙える。やっぱりあそこに居続けるというのが条件になってきます。200位から落ちると道のりが長く感じてしまうんですよね」

――100位以内の世界に入ればテニス自体も回り始めて次のレベルに行きやすくなる。

「そういうレベルと戦えるようになり、望月、島袋はその能力もあると思います。チャレンジャーで勝ち続けるのは、モチベーション的にも簡単ではない。引き続き頑張ってほしいと思います。ツアーも回り始めているし、アジアでもチャレンジャーもやっているのでチャンスはどんどん広がっていくと思うので、今のランキングにしがみついて100位を狙える位置をキープしていきたいですね」

――パリ五輪の監督を務められましたが、選手のオリンピックの想いなど感じたことはありますでしょうか。

「やはり特別感はあります。グランドスラムやツアーのような良い環境ではありません。正直、選手村もいいホテルに泊まって、いいケアを受けて…とか素晴らしいホスピタリティがあるわけでもなく、上手く調整ができるということもオリンピックではありませんでした。いつものチームも帯同できなかったりもします。もちろんコーチは何人か入れますが、例えばアルカラスは前半はコーチがいなかった。カルロス・モヤ(ナダルのコーチ)がスペインチームのコーチとして居ますが、彼も(スペインの)正式役員ではないためレストランに入れなかったりする。そういう条件の中でも出たいと思うオリンピックは特別なものがありますね」

――このスペシャル感は言葉では説明できないものがありますか?

「他のスポーツの日本人アスリートが目の前に居る特別感がありますし、例えば男子の試合を女子が応援に来る、そして女子の試合も男子が応援したり、みんなで応援し合うというのは、そこでしかありません。仲の良い選手同士だとツアー中でもあるかもしれませんが、チームとなって男女が応援し合うことは良かったですね。今回は錦織圭がシングルス、ダブルスも負けて1勝もしていない中、ミックス(錦織と柴原瑛菜)をみんなが応援する。1回戦の相手は地元フランスペアという完全アウェーで、こちらは小さな集団の日本チームでした。チームも数に限りがあって、なかなかいいサポートができないかもしれませんが、それでも選手たちは出たいと思うし、結果を出したいと思うもの。そしてメダルを狙っていました」

「オリンピック前に(ダニエル)太郎は、スウェーデン・ボースタッドの大会に出場していたところ、試合に負けた選手に声をかけたジョコビッチに呼ばれて4日間の合宿というチャンスをもらって参加してきて、圭(錦織)はヨハンソンコーチがモナコにいるから、そこで調整してからパリ入りしたのですが、世界1位のシナーと練習することができました。シナーは出場ができなかったけれど、(錦織は)オリンピック前にいい調整ができたと聞いています」

「(大坂)なおみは、当時の(ウィム・)フィセッテコーチとともに練習しました。開幕1週間前から毎日練習。他の選手もそうですが、(ATPやWTAの)ポイントや賞金はないけれど出場したいという想いが強く、オリンピアンとして特別なことなんだと感じます」

――日本代表監督としてご自身はプレッシャーなどありましたか。

「特に監督がすることはないのですが、選手がいい状態で入れるように男子選手といつもやっていて、コミュニケーションも取れている一方で、女子選手とは普段そういう機会もない。なので最初に4月に開催されたビリー・ジーン・キング・カップに行って(大坂)なおみに会ったり、他の選手ともコミュニケーションを取ったりしていました。(女子の)試合もなるべく観に行くようにして、どういう状況かなど会場に常に居るようにしていました。そういう意味ではいいコミュニケーションが取れていたと思います。内島(萌夏選手)が現地入りした際に体調を崩していましたが、選手ではなく私と打ちたいと調整を申し出てきたのは、コミュニケーションが取れていたからだと思います」


添田豪デビスカップ日本代表監督(写真右)と話し込む高田充日本男子ナショナルチーム・ヘッドコーチ

――また4年後(ロサンゼルス五輪)ですね。さて数週間後に迫ったデビスカップのコロンビア戦(有明コロシアム/9月14日~15日)で錦織選手がメンバー入りしたということですがどのように受け止めていますか。

「状態が良ければ起用もね。(全米オープン時点では)チャレンジャーで調整、挑戦しています。今年に入って満足に練習ができないまま試合というのが続いて、結局(試合中に)痛くなってしまったとかがある。ウィンブルドンはいい状態で入ったかと思いましたが、直前に足首を捻ってしまい出場できるかわからなくなった。それでも大会が終わって痛みが続いていた中で、パリに向かう過程でリハビリしてモナコで練習し少しずつ良くなってきた。オリンピックの会場入りしてからはずっとポイント練習ができていました。シングルス、ダブルス、ミックスダブルスの計4試合して怪我無く大会を終われたというのは今年にはなかったこと」

――カナダ・モントリオールでも世界11位のチチパス戦に勝利したことも印象的でした。

「普通の日程ならもしかするとチャンスはあったかもしれません。いい状態で入れれば、まだ実力はあるんですよ」

――錦織選手の復帰への情熱はすごいですね。あそこまで怪我に悩まされながらリハビリし挑戦し続ける。

「(度重なる怪我で復帰が遅れ)本当に苦しい、メンタル的にも元気が出ない状態かもしれない。それをずっと坂井忠晴トレーナーが支えて毎日リハビリをしている。そういうのを見ていると、助けになることはないかと。再びいい状態でツアーに出てほしいです」

――世界のテニスの流れをみると、アメリカが一時低迷からの復活を遂げ、イタリア勢、そしてアジアでは中国が男女ともメインドローに名を連ねるようになっています。予想するのは難しいかもしれまんが、今後の展開はどうなっていきそうですか。

「ジョコビッチがまだトップにいるものの、それ以外のところは、若手がどんどん出てきている。少し前まで安定した強さを見せていたチチパスやルブレフだったり、あの辺の力関係が少しづつ若手に押されてきている印象があります。イタリアの若手もすごい伸びてきている。ムゼッティも一時は低迷したけど、ここに来て上がってきています。シナーと共に同年代の選手が良いライバル関係にあると思います、それはまたアメリカも然りです」

――切磋琢磨していくことでレベルが上がってくる図式はスペインの例にもありました。

「人数的に考えるとそれだけのエリート的なジュニアが大人数揃ってくるということはタイミングもあります」

――それは日本には難しいところでしょうか?

「確かに陸続きのヨーロッパにはアドバンテージがあります。じゃあイタリアのようにチャレンジャー大会を増やしたらどうか?というのもありますが、それも簡単なことではありません。国内の選手だけに特化したものであれば(ヨーロッパのチャレンジャーのようなレベルアップが)ということもあります」

「例えば全日本ジュニアで上位にいく選手はタレントがあって、世界で揉まれれば活躍できる可能性は十分あると思います。でも、そういう選手が同年代に5、6人いるというのは、なかなかあることではない。毎年もしくは何年かに1回、芽が出てきた選手を逃さずにしっかり育て上げるというのは、今の日本のテニスができることだと思っています」



――坂本怜選手が今年の全豪オープンジュニアで優勝しましたが、それは明るい材料となりそうです。そのような選手を「もう1人」という。

「望月慎太郎(2019年ウインブルドンジュニア優勝)、坂本怜(2024年全豪オープンジュニア優勝)ときて、今度は本田尚也(2024年ウィンブルドンジュニアベスト4)が出てきた。今年の14歳以下では世界大会で8位、常にベスト8には入っているんです。今度は、また一つカテゴリーが上がったジュニアデビスカップで世界のライバルたちと戦う経験の中で、グランドスラムジュニアに出た時に『あの時16歳以下で戦っていた奴らが出ている』となると、また“景色”が違ってくるでしょう。例えば(望月)慎太郎は14歳の時にアルカラスに勝っていて、その時のメンバーがある程度上にいく。いきなりグランドスラムジュニアに来て、どこの誰かもわからない対戦相手ではなく、コンスタントに14歳、16歳以下で世界大会に出ていてある程度、結果を残しているというのが大事になってきます」

――10年前のテニスからさらに速く、そして強度も増しているように感じますが、今後も変化していくのでしょうか。

「もともと体格の良い選手がさらにフィジカルが強くなっているのが大きな特徴だと思いますだから(崩していくのが)大変なのだと思います。でも、女子は全仏オープン決勝に行ったイタリアのパオリーニがは身長が163センチぐらい。そういう意味ではいつの時代も何か道はある」

――西岡選手のプレーもいつ観ても(大柄な選手に立ち向かう姿に)頭が下がり感動します。

「感情的になりよくない行動をとることもありますが頑張っている。(望月)慎太郎も去年の木下グループジャパンオープンでの活躍はなかなかできることではない。あの大会は、『日本人の体格でも世界で通用する』ということを証明した試合でした。ただ、彼自身まだ波があるので(チャンスが来るまで)レベルアップしなければならない。トップ10と戦えるなんて昔では考えられないことです」

――お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。