V・ファーレン長崎は22日の明治安田J2リーグ32節、ザスパ群馬と長崎県諫早市のトランスコスモススタジアム長崎(トラスタ)で対戦する。以降のホームゲームは長崎市の新本拠、ピーススタジアム(ピースタ)に移るため、トラスタ最後の試合となる。J…

 V・ファーレン長崎は22日の明治安田J2リーグ32節、ザスパ群馬と長崎県諫早市のトランスコスモススタジアム長崎(トラスタ)で対戦する。以降のホームゲームは長崎市の新本拠、ピーススタジアム(ピースタ)に移るため、トラスタ最後の試合となる。JR諫早駅からトラスタへの沿道で7年間続けられ、サポーターたちにとって名物となった市民有志のおもてなしも区切りを迎える。

 「はい、勝とう茶。飲んでいって!」。諫早駅前の商店街を通ってトラスタに向かうサポーターたちに、お茶処しまだを営む嶋田祐子さんが元気いっぱいの声をかけた。

 駅からトラスタまで約2キロ、徒歩約30分の道のりは「V・ファーレンロード」と名付けられ、マラソンの給水所のように数カ所、市民有志によるおもてなしスポットが設けられている。

 お茶処しまだ前もそのひとつ。勝氷(かき氷)や勝ピー(柿ピー)などダジャレを冠した品々を、長崎も対戦相手も関係なくサポーターたちに無料で振る舞う。

 長崎はJ2に参入した2013年からトラスタを本拠として使用。おもてなしはJ1に昇格した18年から始まった。嶋田さんは、「ふだん店にいるだけでは知りあえないような人たちとつながりがもてた。7年間ありがとうという気持ち」と振り返る。

 道向かいの吉岡俊夫商店前でも諫早の地酒や名物のおこしなどが振る舞われ、にぎわっていた。

 商店街がある諫早市永昌東町は記者の生まれ育った町。通学路でもあった商店街には、書店や酒店、美容室などが並び、駅そばの西友諫早店やバスターミナル内の店舗と相まってにぎわいをつくっていた。

 だが、西友は15年に閉店。商店街の店も減るなか人の流れを生むトラスタでの試合は貴重な存在だった。商店街関係者は、「イベントをしてもなかなか集まらないのに、試合の日は何千人も商店街を通る。ほんとうに楽しかった」と語った。

 西九州新幹線開業に伴う再開発でJR諫早駅の駅舎は新しくなり、昨年に発表された路線価では市内最高価格の場所が市中心部の本町・栄町地域から初めて同駅前に移った。ただ、新幹線通勤なども見越した住宅需要が主因といい、町ににぎわいが戻るとしてもまだまだ時間がかかりそうだ。

 それでも嶋田さんは長崎市への本拠移転について「新スタジアムで全国からもっと人がくるようになるなら素晴らしいこと。サポーターとしてうれしい」と話す。

 商店街を抜け、さらに進んだ同市宇都町のシモハマ不動産前では地元のブランド豚「諫美豚」の鉄板焼きやウナギのライスコロッケなどが振る舞われ、社長の下浜誠一郎さん(67)がその日の対戦相手、栃木SCのサポーターたちと談笑していた。

 下浜さんは、沿道でのおもてなしのきっかけをつくった人。「諫早のお酒や日本一おいしい小長井のカキを知ってほしかったので」おもてなしを発案。これに市民有志が呼応して地域全体の取り組みになった。

 交流を通じて他クラブのサポーターとの親交も深まり、試合後に一緒にお酒を飲んだり、下浜さんが相手のホームに観戦に行った場合には観光名所に案内してもらったりしているという。

 下浜さんは、「諫早のためと思ってやってきたので。長崎市では長崎の人ができることを考えてくれたらいい」と、新スタジアムへの〝出張おもてなし〟は遠慮する。ただ、長崎市内に土地を確保したことも打ち明けた。「せっかくの縁。全国の仲間が泊まれる施設をつくって、サポーター同士の交流を続けたい」

 長崎は15日、いわきFCとアウェーで戦い8試合ぶりに勝ち、J1自動昇格に望みをつないだ。22日の群馬戦は午後2時キックオフ。ピースタでの初戦は10月6日、相手は大分トリニータだ。(寿柳聡)