8月28日~9月8日の12日間にわたり22競技で熱戦が繰り広げられた、パリ2024パラリンピック。大会前半のハイライトのひとつが、車いすラグビー日本代表の歴史的な快進撃だろう。予選から決勝まで日本は一貫したラグビーで勝利を積み上げ、世界の頂…

8月28日~9月8日の12日間にわたり22競技で熱戦が繰り広げられた、パリ2024パラリンピック。大会前半のハイライトのひとつが、車いすラグビー日本代表の歴史的な快進撃だろう。予選から決勝まで日本は一貫したラグビーで勝利を積み上げ、世界の頂点に立った。日本を、世界を熱くさせたパリ・パラリンピック激闘の5日間を振り返る。


悲願のパラリンピック金メダルを獲得した車いすラグビー日本代表

興奮と熱狂のパリ!日本は開幕3連勝

パリ中心部、エッフェル塔を見上げるシャン・ド・マルス・アリーナを会場に行われた、パリ・パラリンピックの車いすラグビー競技。東京2020大会と同じ8か国が出場し、2つのプールに分かれて4チーム総当たりの予選ラウンドの後、上位2チームが準決勝へと進む方式で実施された。

プールAの日本(世界ランキング3位 ※競技実施時)は、2008年の北京パラリンピック以来4大会ぶりにパラリンピック出場を果たしたドイツ(同9位)との初戦に臨んだ。大事な初戦とあって、立ち上がりは硬さが見られたものの、メンバーチェンジでリズムを変え立て続けにターンオーバーを奪うと、いつも通りのプレーを取り戻した。第2ピリオド序盤で5連続得点を挙げ一気にリズムをつかみ、後半も安定した試合運びで55-44と圧勝。12人全員が出場し白星スタートを飾った。

第2戦は、予選ラウンド最大の山場となったアメリカ(同2位)との一戦。両チームともに初戦を勝利で飾り、準決勝進出に向けお互いに譲れない戦いとなった。パフォーマンスの高い選手がそろうアメリカは、今年4月と6月の対戦時よりも確実に強度を高めてきた。前半を終え22-22の同点。ただ、相手は前半ですでに選手タイムアウトを使い切り、メンタル的には日本の方が優位な状況だ。焦るアメリカは、時間によるバイオレーション(違反)を回避しようと苦し紛れのパス。それを日本がカットし流れを引き寄せた。45-42で開幕2連勝、準決勝進出を大きくたぐり寄せた。


キャプテンの池透暢は全試合でスタメン出場しチームを力強くけん引した

予選ラウンド最終戦となったカナダとの一戦は、序盤でターンオーバーを奪った日本のリードで試合が進む。しかし、第2ピリオドで連係とパスに乱れが生じ、25-25の同点で試合を折り返した。後半、しっかりと立て直した日本は、キャプテンの池 透暢が限界まで上半身と腕を伸ばしスチールを奪うなどハードワークを見せ50-46で勝利した。日本は予選ラウンド全勝でプールAを1位通過し、準決勝へと駒を進めた。

会場は連日たくさんの観客で埋め尽くされ、日本からも頼もしい大応援団が駆け付けた。ハーフタイムショーにMCのパフォーマンスと華やかにショーアップされ、客席でもコートでも笑顔の花が咲いた。

倉橋香衣は「純粋にもうすっごく楽しい。この声援や歓声の中でプレーできることが楽しく、初めて両親が(海外での国際試合を)観に来てくれて、それがうれしい。一生懸命プレーしている姿を見てもらいたい」と、試合の疲れも見せず声を弾ませた。


オフコートでの笑顔とは一転、勇敢に戦う倉橋香衣の奮闘が光った

歴史を切り拓いた準決勝の戦い

「パリでの目標は準決勝の舞台に上がり、準決勝で負けないこと」

乗松聖矢がパリ代表メンバー発表後の日本代表記者会見で語った決意は、チーム全員の総意だ。今大会に出場した12名のうち11名が東京2020大会を戦ったメンバー。東京パラリンピックの準決勝に敗れ、味わった悔しさと涙は3年が経った今でも鮮明に蘇る。

もうそんな姿は見せたくない。平静を保つ中にも強い思いを込め、心ひとつに、最大の難関であるオーストラリアとの準決勝に挑んだ。お互いを知り尽くす両者にしかできないラグビーでトライを奪い合う。一瞬の気の緩みが大事に至る、そんな緊張感がコートを支配するなか一進一退の攻防が続く。第1ピリオド12-12、第2ピリオド24-25、第3ピリオド35-36。ひたすら耐える苦しい展開、観客は固唾をのんで試合を見守った。1秒、また1秒と試合終了の時が近づく。もはやメダルのことなど忘れるくらいの集中力で、目の前の勝利だけを見つめた。最後のトライを日本が奪い、47-47で第4ピリオドの終わりを告げるブザー。まさかの延長戦突入に、会場がどよめいた。

3分間の延長戦。キャプテンの池 透暢がティップオフを制し日本のリードに変わる。さらに「うわ、来たー。え、これ(ボールを持って)走っていいの?」と、池が一瞬状況を見失うほど、ライリー・バットからのラッキーなパスを池がキャッチし、そのままトライへと持ち込んだ。オーストラリアは残り4秒で1点を返すも、日本のボールキープで試合終了。52-51、第一の目標とした準決勝の壁をぶち破る大勝利。橋本勝也が池に飛びつき、歴史を変えた重みとその喜びを分かち合った。

ただ、喜ぶのは一時、すぐに気持ちを切り替える。「やっと目標としてきた舞台に立てる。そこで自分たちらしいラグビーをする。予選から一戦一戦強くなって成長してきた。その姿を明日の決勝の舞台で見せて喜びたい」。池崎大輔は落ち着いたトーンで語った。

悲願の金メダルへと導いた日本のチーム力

パリ・パラリンピック決勝「日本 対 アメリカ」。試合へのメンタルを整えた日本は、ウォーミングアップで時折笑顔も見せ“いつも通り”決戦の時を迎えた。

ティップオフ。アメリカは予選ラウンドでの対戦とは一転、立ち上がりからアグレッシブな攻撃を仕掛けてきた。執拗にボールに絡み、コートの外へと弾く。トライライン手前8メートル×1.75メートルの長方形のゾーン「キーエリア」のディフェンスを大きな武器とするアメリカ。オールコートでの真っ向勝負を避け、自分たちの得意なパターンに持ち込もうという作戦か。第1ピリオドは11-14とアメリカがリードに成功。だが、第2ピリオド中盤、「経験値」で上回る日本が着実にターンオーバーを奪い、24-23と逆転し試合を折り返した。

後半の多くを任されたのは、倉橋香衣―乗松聖矢―池 透暢―橋本勝也のラインナップだ。橋本が「ディフェンス最強ライン」と呼ぶ4人、そこにベンチメンバーの力強い声も加わり、相手の勢いを完全に封じ込めた。オフェンスでは個のパフォーマンスではなく2on2や2on1の連係で上がるプレーを徹底し、自分たちのラグビーを最後まで遂行した。

パラリンピック決勝、48-41という圧巻のスコアで、日本が世界の頂点に立った。悲願の金メダル獲得。「この悔し涙を、うれし涙に変える」と誓った3年前の約束を、パリで有言実行してみせた。


金メダル獲得の瞬間、キャプテンの池透暢と抱き合った橋本勝也(左)

日本がパラリンピックに初出場した2004年のアテネから6大会連続で出場した島川慎一は、「長かった」と肩を下ろし、「いやもう、最高ですね。日本は本当に強かった」とベテランの笑顔で語った。そして、金メダルを獲れた一番の強さは「チーム力」だと胸を張り、「ここに来ていない選手も含めて、強化指定選手全員でチームを強くして、一貫性を持って継続してきた結果」と、切磋琢磨してきた仲間を讃えた。

誰が見ても強い、そんなラグビーで勝ち取った金メダル。チームを、仲間を、自分を信じて、地道に積み上げてきた日本のラグビーをやり切った。

史上最高に泥臭く、史上最高に濃密な、激動の5日間となった。

【最終順位】

金メダル 日本

銀メダル アメリカ

銅メダル オーストラリア

4位 イギリス

5位 フランス

6位 カナダ

7位 デンマーク

8位 ドイツ