ゴールどころかチャンスの匂いさえ、まったく漂っていない状況から、清水エスパルスの同点ゴールは生まれている。ホームのIAIスタジアム日本平にV・ファーレン長崎を迎えた7日のJ2第30節。輝きを放ったのはMF乾貴士だった  長崎に攻め込まれて…

 ゴールどころかチャンスの匂いさえ、まったく漂っていない状況から、清水エスパルスの同点ゴールは生まれている。ホームのIAIスタジアム日本平にV・ファーレン長崎を迎えた7日のJ2第30節。輝きを放ったのはMF乾貴士だった

 長崎に攻め込まれていた50分。DF山原怜音のクリアが相手に当たってコースを変え、自陣の中央にいた乾のもとへわたった。右足を軽くあてたワンタッチでボールを自身の前へと運んだ乾の選択肢は、ひとつだけしなかった。

「ボールを受けた瞬間からと、自分で前へ運ぼう、というイメージがありました。自分がフリーなのも、前にスペースがあるのもわかっていたので」

 迷わずにドリブルを仕掛ける背番号33に誰も追いつけない。必死に戻るディフェンス陣もむやみに飛び込めないまま、乾はハーフウェイラインを越えて、一気に長崎のペナルティーエリア前まで、実に60メートル近くを駆けあがった。

■「3枚で剥がしながら攻めていこう」

 そして状況的に自身のシュートも、左側をフォローしていたFW北川航也へのパスも難しいと判断した乾は、右側をフォローしてきたMFルーカス・ブラガを選択。スピードに乗った体勢から、優しいパスを送って同点弾をアシストした。

「最後はシュートを打つか、パスを出すかで迷いましたけど、相手にコースを切られていたなかで、いい形で横を走ってきてくれたブラガが、ワンタッチでシュートを打てるくらいのパスを出せばいいかなと。ブラガがうまく決めてくれました」

 ドリブル開始から10秒で決めたアシストをこう振り返った36歳の乾を、清水を率いる秋葉忠宏監督は最大級の賛辞を送りながら最後まで起用している

 対称的にチーム得点王でキャプテンの北川を86分でベンチへ下げて、DF蓮川壮大の投入とともに3バックへスイッチした采配の意図を、指揮官は「3バックだからといって、決して守備的だとは思っていない」とこう語っている。
「相手の2トップに対して、最終ラインの3枚で剥がしながら攻めていこう、と」

■「何度でも試合で使いたいと思わせてくれる」

 長崎は69分から10ゴールをあげているFWファンマ・デルガドを投入し、先制点をあげているMFマテウス・ジェズスとの2トップに代えていた。相手アタッカーが秘める一発へ、細心の注意を払った末に手にした勝ち点1を、指揮官は「昇格、優勝という命題があるなかでの最低限の結果」ととらえている。

 昨シーズンの清水は2位のジュビロ磐田に勝ち点1差の4位でJ1への自動昇格を逃し、プレーオフ決勝では東京ヴェルディと引き分けて昇格をも逃した。3位で追ってくる長崎との勝ち点差8ポイントをキープした試合後の公式会見では、10試合続けてノーゴールが続く北川にも全幅の信頼を寄せている。

「このクラブを小さなころからずっと見てきて、このクラブで育ってきた私たちのエースでありキャプテン。もちろん本人が誰よりも得点を取りたいと思っているだろうし、実際にフィニッシュのシーンも数多くあるので、あとはケチャップと一緒でいつドバッと出るかどうか。1週間の準備でやるべきことをしっかりやっているし、日常的に取り組む彼の姿勢を信頼しているからこそ、何度でも試合で使いたいと思わせてくれる。最大限の信頼をしながらラスト9試合、航也とともに戦いたい」

 台風10号の影響で中止となり、18日に延期された徳島ヴォルティス戦を含めて残り9試合。細心と大胆さが融合された采配に「信頼」の二文字も加えながら、2シーズンぶりのJ1昇格へ向けて、清水がラストスパートに入る。

(取材・文/藤江直人)

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