8月28日に開幕したパリ2024パラリンピック。車いすバスケットボールは29日~9月2日の5日間にわたってグループリーグが行われた。2008年北京パラリンピック以来4大会ぶりに自力出場を果たした女子日本代表は、オランダ、ドイツ、アメリカと対…
8月28日に開幕したパリ2024パラリンピック。車いすバスケットボールは29日~9月2日の5日間にわたってグループリーグが行われた。2008年北京パラリンピック以来4大会ぶりに自力出場を果たした女子日本代表は、オランダ、ドイツ、アメリカと対戦し、3戦全敗。通算0勝3敗でグループBの4位となった。それでもチームは手応えを感じており、最大のターゲットとしてきた準々決勝に向けて勢いは加速している。グループリーグを振り返り、08年北京パラリンピック以来となる4強進出へのポイントを探る。
新戦力とベテランが見せたシュート力
8カ国が参加している今大会は、まず4カ国ずつ2グループに分かれて総当たりのでのグループリーグが行われた。オランダ、ドイツ、アメリカと同じグループBに入った日本は、初戦で世界最強国のオランダと対戦した。
1Qから7-29と完全に主導権を握られた日本は、2Q以降も得点が伸び悩んだことがディフェンスにも大きく影響した。リバウンドを取られては走られるケースが少なくなく、相手の攻撃時間を削りたい日本のディフェンスがなかなか機能しなかった。
しかし前半で12人全員がコートに立ったなか、10代2人を含む5人の初出場組にも硬さはほとんど見られず、全員がしっかりと動くことができていたことは、次戦以降につながる好材料と言えた。
なかでも初出場の一人、江口侑里(2.5)がプレータイムこそ約4分ながら、スタートメンバーとして出た2Qの序盤、立て続けにミドルシュートを決め、得点能力の高さを披露。東京2020パラリンピック以降に台頭した新戦力の存在を初戦から印象付けられたことは、チームにとって大きな追い風となったはずだ。
そして4Q、持ち前のシュート力を遺憾なく発揮したのが、土田真由美(4.0)だった。この4Qの途中、キャプテン北田千尋(4.5)が激しく転倒し、負傷退場をするというアクシデントが起こった。チームに動揺が広がってもおかしくないこの状況に、「北田キャプテンの分までという気持ちもあり、とにかく自分の役割に徹しようと無我夢中でプレーした」と、土田が奮起した。
北田が観客の温かい拍手で見送られながらコートを去った、わずか15秒後、土田はこの日3本目となるミドルシュートをリングに沈め、会場を沸かせた。「最後の方は、打てば入るという感覚だった」という土田。終盤にも3本のミドルシュートを決め、4Qだけで12得点を叩き出す活躍ぶりを見せた。
そして、江口や土田の得点が生まれた背景には、網本麻里(4.5)の好プレーもあった。網本がドライブで切り込んでディフェンスをインサイドに引き連れたことで、アウトサイドにスペースが生まれ、余裕を持ってシュートを打つ状況が作られていたのだ。
「シュートを決めてくれるという信頼があるからこそ、思い切ってパスを出すことができる」と網本。個ではかなわない相手にもチーム力で打開できることを証明してみせた。
それでもオランダの勢いを止めるまでには至らず、日本は34-87で敗れ、黒星スタートとなった。
キャプテン北田千尋が3P炸裂で観客を魅了!
9月1日、グループリーグ第2戦で日本はドイツと対戦した。予想通り、激しい競り合いとなった1Q、終盤にドイツに引き離されかけたところで、値千金の1本を決めたのがキャプテンの北田だった。初戦で負傷退場した北田だったが、この日は元気な姿を見せ、1Q途中からコートに立った。
そして残り20秒の場面、ボールを持った北田は3Pラインの外側で広くスペースをとりながら時間を使った。そうして狙いすまして放ったボールは1Q終了のブザーとともにネットを揺らした。その瞬間、会場は地鳴りのような大歓声に包まれた。
「私たちはいつもクォーター終わりをすべてエンドゲームと仮定して、マイボールで終わるということを意識していて、46秒の時点で(タイムアウトの際)岩野(博ヘッドコーチ)さんから“エンドゲームね”と言われていました。自分のところがオープンだったので、時間を使い切ってスリーを打って終われば、入らなかったとしてもターンオーバーにはならないで済むのでエンドゲームとして成功だなと。そう思って思い切りよく打ちました」
北田の3Pシュートで日本は4点差から一気に1点差にまで詰め寄り、15-16で1Qを終えた。
続く2Qで25-35と大きくリードを許した日本だったが、3Qの後半に怒涛の攻撃を見せ、一時は逆転に成功した。猛攻の先導役を務めたのは、やはりキャプテンだった。後半に3Pシュートを連続で決め、さらにバスケットカウントでのフリースローも成功させ、わずか1分半で9得点と大暴れした。なかでもこの日3本目となる3Pシュートは、ドイツの長身選手のシュートチェックを受けながらのタフショットで、高さで劣る日本にとって不可欠なスキルのお手本となるような1本だった。
北田の活躍もあり、「ビッグウエーブを作れた」と指揮官が手応えを感じて臨んだ4Qだったが、ドイツに引き離されてしまった。ドイツと同じ本数のシュートを打ちながらも、成功率で大きく差が開いたのが要因だった。ただ、フリースローに関してはドイツの39%を大きく上回る67%を誇り、岩野HCも「確実にシュートのスキルはアップしている」と手応えを口にした。
結局、55—67でドイツに敗れはしたものの、萩野真世(1.5)やチーム最年少16歳の小島瑠莉(2.5)にも今大会初得点が生まれるなど、最も重要な一戦に向けてチームの調子は上がり始めていた。
チームの勢いを加速させた萩野と柳本の復調
3日、グループリーグ最終戦ではアメリカと対戦した。1Qからダブルスコアに近い差でリードを奪われ、結果的に52-62で敗れたものの、得点力の高いアメリカを60点台に抑えた点は評価に値する試合だった。オフェンス面でもFG成功率はアメリカが43%に対し、日本は39%と大きな差は生まれなかった。
主な敗因として挙げられるのは、2つ。1つはターンオーバーが17とあまりにも多かったことだ。自分たちで攻撃の回数を減らしてしまい、アテンプト数がアメリカの69本に対し、56本と大きな差が生まれた。もう1つは、日本が武器としたい3Pシュートがことごとくリングに嫌われたことだった。12本中、決めたのは柳本あまね(2.5)の1本にとどまり、成功率は8%だった。3Pの確率がもう少し上がれば、得点を伸ばして、アメリカに大きなプレッシャーをかけることができ、勝機も十分にあっただろう。
ただ、この試合でもチームの勢いは確実に加速していた。なかでも筆者が注目したのは、萩野と柳本のプレーだ。得点源の一人である萩野だが、初戦のオランダ戦では7分の0に終わっていた。しかし第2戦のドイツ戦で今大会初得点を挙げると、アメリカ戦では50%の確率で3本のミドルシュートを決めて6得点と復活の狼煙を上げた。
一方、柳本には持ち前のスピードを生かしたプレーが戻った。「あまねのドライブは武器になる」と岩野HCから言われたという柳本は、2Qで一度ベンチに下がった後の3Q以降、果敢にインサイドに切り込み、アウトサイドのシュートシチュエーションを作り出した。さらに自らも積極的にシュートを放ち、ゴールに向かう強い意識も感じられた。オランダ戦は22%、ドイツ戦は11%だったFG成功率も、アメリカ戦では31%、2Pに限っては43%にまで上がった。
「あまねも真世も、一番大事な試合を前に、やっと戻ってきたなという感じ。これで準々決勝はいい勝負ができると思っています」と岩野HC。ようやくピースがそろった日本は、最も大事な一戦に向けて準備は万端の状態だ。
4日に行われる準々決勝の相手は、中国。13年のアジアオセアニアチャンピオンシップス(AOC)を最後に、10年間一度も勝つことができていない難敵だ。中国に追いかけられる立場から、追いかける立場となって10年。昨年の世界選手権では4Qに一時逆転するなど互角に渡り合い、今年1月のAOCでは前半にリードしたのは日本と、一時は見えないほど遠くにあった中国の背中に、今、手が届きそうなところにまで来ている。
「私たちは出場8カ国中8番目。でもパリでは、番狂わせを起こし、世界を驚かせます!」と開幕前の北田キャプテンの宣言通り、パラリンピックという最高の舞台で11年ぶりに中国を撃破し“ジャイアント・キリング”となるか。4日19時45分(日本時間)にティップオフだ。