大坂なおみは全米オープン3回戦敗退で16強ならず「たくさんの悔いが残りました。だから、取り乱して泣いてしまっているんだと思います」 大坂なおみは、試合後のインタビュールームに座った瞬間から、みるみる目が真っ赤になり、質問に答え始めると涙…



大坂なおみは全米オープン3回戦敗退で16強ならず

「たくさんの悔いが残りました。だから、取り乱して泣いてしまっているんだと思います」

 大坂なおみは、試合後のインタビュールームに座った瞬間から、みるみる目が真っ赤になり、質問に答え始めると涙があふれ出し、こぼれた涙を指で拭いながら言葉を詰まらせた。

 その涙は自分自身への期待が膨らむ中、思うようなプレーができずに敗れて、後悔ばかりが先立つ彼女の気持ちをすべて表しているようだった。

 大坂(WTAランキング45位、8月28日付け、以下同)は、US(全米)オープン3回戦で、予選勝者のカイア・カネピ(418位、エストニア)に、3-6、6-2、5-7で敗れ、あと少しのところまでこぎつけながら、昨年同様初めてのベスト16進出に手が届かなかった。

 1回戦で、ディフェンディングチャンピオンで第6シードのアンジェリック・ケルバー(6位、ドイツ)から勝利を挙げたことにより、大坂自身の心の中ではある変化が起こっていた。

「ケルバーとのプレーの後、少しストレスを感じていた。自分自身の中でより期待が大きくなっていった」

 ケルバーのようなトップ選手を破ったことにより、グランドスラムでもっと勝ち進めるかもしれないという自分への期待が生じた。まだ経験が浅い大坂にとって、それはプラスにもマイナスになり得る、非常に繊細かつ不安定な心の羅針盤のようなものだったのかもしれない。

 今回のUSオープンで、大坂は自分がポイントを取ると握り拳をつくりながら「カモン」と叫び自らを鼓舞することが多かった。それは普段オフコートではおとなしい大坂が、より強いファイターになっていくためにはいい傾向のように見えた。

 ただ、3回戦のカネピ戦では、大坂が大事なポイントを奪った時にガッツポーズをつくるまではよかったが、逆にポイントを取られた時には「すべてのショットがよくなかった」と反省し、感情があふれ出し過ぎてナーバスになり、ラケットを投げたりもした。必ずしも感情の発露がプレーにいい影響を与えたとは言えなかった。

 一方、32歳のカネピは、2010年USオープンではベスト8に進出し、2012年8月にはランク15位まで上がったことのあるベテラン。最近は、両足の足底筋膜炎によってランキングを落としており、今回はスペシャルランキング(公傷による特別ランキング)196位を使ってエントリーし、予選から勝ち上がってきていた。

 大坂とは対照的にカネピは冷静にテニスをして、ゲームが競ってもチャンスを常に伺いながらプレーを続けた。

 ファイナルセット大坂の4-3で迎えた第8ゲーム、大坂は40-30にしたが、バックハンドのダウンザラインへのショットをミスすると、その後自分のミスによって2本連続でポイントを落としてサービスブレークを許した。そこから大坂は立て直すことができず、第12ゲームで再びブレークを許して万事休した。

「やっぱり勝負どころでカネピも引かなかったし、ちょっとした差だった。カネピの集中力の素晴らしさに、大坂が押されてセルフコントロールができていなかった。それをできるようにするのが次の課題、1本取るか取らないかで全然違っていたはず」

 このようにフェドカップ日本代表監督の土橋登志久氏は、大坂のプレーを評価した。だが、大坂自身はうなだれながら、こう話した。

「カネピがアグレッシブな選手だとわかっていた。終盤に向けて私がディフェンシブになってしまい、それがいつもの自分と違っていた」

 カネピはフラット系のボールを強打して、先手を打とうとすることが多かったが、大坂とよく練習をする日本テニス協会ナショナルコーチの吉川真司氏は次のような指摘をした。

「カネピのボールは、今まで大坂が経験してきて、自分がコントロールしきれるタイプのボールではなかったというのもあったと思います」

 つい3年前までの大坂のプレーといえば、強打によってウィナーを奪うか、あるいはミスになるかという荒削りなものだった。だが、今は吉川コーチやデビッド・テイラーコーチとの取り組みよって、大坂のプレーに改良が加えられている。

 サーブに関してはサービスエースの量産を狙うわけではなくなり、またグランドストロークでは強打一辺倒ではなくて、攻撃的に思い切り打つショットとつなぐショットのバランスを考慮するようになった。

「大坂はベースラインでステディーなストロークを打ちつつ、パワーとスピードを持ち合わせている。ストロークは単純に一発で押すだけでなく、きっちり自分の打ちたいところに打つ精度が大切。全部力んで打つのではなく、たまに遅いボールを交ぜたりする」

 こう語る吉川コーチはサーブとレシーブを使って、大坂が先に主導権を取ることも重要であるとつけ加える。特にサーブでは上半身のパワーだけでなく、ボールとのインパクトに向けて下半身や足を使って、より効率的に力を伝える方法を大坂と取り組んでいる。これは大坂が痛めがちな腹筋のケガの防止にもつながると期待する。

 テニスのゲームは、ただ力だけでポイントを取れる世界ではない。今は大坂がグランドスラムの第2週に残るための術(すべ)を、技術的にも精神的にも学び、成長していくための必要なステップを踏んでいるのだと解釈すべきだろう。引き続き吉川コーチは、大坂のさらなる進化を楽しみにしている。

「テニスの内容や質、ひとつひとつの技術は、1年前より明らかに成長している。次に組み合わさった時にはさらに大きなものになる。今の方向でより大きな絵を描いていけば、来年、結果として現れるかもしれない」

 USオープン開幕前の「とにかく泣かない」という誓いを、大坂は守ることができなかった。今はため息をつきながら、「でも、変えていければと思います」という前向きな言葉をどうにか絞り出すのが精一杯だった。

 だが、ニューヨークで19歳の大坂が見せた2度目の涙は、グランドスラムで優勝するために必要な試練だったのだと、いつか笑って振り返る日が彼女に訪れることを願いたい。