WEEKLY TOUR REPORT米ツアー・トピックス「ようやく、自分のゲームが(今年の)マスターズ前(の状態)に戻った。再びいいスイングができて、本来の自分のペースになったと感じている」 そう語ったのは、フェデックスカップ・プレーオ…

WEEKLY TOUR REPORT
米ツアー・トピックス

「ようやく、自分のゲームが(今年の)マスターズ前(の状態)に戻った。再びいいスイングができて、本来の自分のペースになったと感じている」

 そう語ったのは、フェデックスカップ・プレーオフ第1戦、ノーザントラスト(8月24日~27日/ニューヨーク州)を制したダスティン・ジョンソン(33歳/アメリカ)だ。



プレーオフの末、スピース(左)を下して優勝したジョンソン(右)

 今季は、2月のジェネシスオープンを勝って世界ランキング1位の座に就くと、その後もWGC(世界選手権シリーズ)メキシコ選手権、WGC デル・テクノロジー・マッチプレーと勝利して、出場3試合連続優勝。圧倒的な強さを誇示してメジャー初戦のマスターズに臨む……はずだった。

 ところが、マスターズ開幕前夜、宿泊していたレンタルハウスの階段で足を滑らせて腰を強打。急きょマスターズを欠場するはめになり、そればかりか、復帰までに1カ月も要した。復帰後もすぐに調子を取り戻せるわけもなく、その後の”メジャーシーズン”は本来の姿を見せられずにいた。

 昨季は全米オープンで初のメジャー制覇。今季早々に世界ランク1位にもなって、「ついにDJ(ダスティン・ジョンソン)の時代がやって来るのか」と、ファンやメディアの期待も膨らんでいたが、まさかのアクシデントに泣いた。結局、今季はメジャー大会すべてを棒に振ってしまった形だ。

 そのジョンソンが、いよいよ復調のときを迎えた。

 ノーザントラスト最終日、ジョーダン・スピース(24歳/アメリカ)とのプレーオフを制しての勝利は圧巻だった。ジョンソンの強みは、もちろん平均315ヤード超えとツアー2位を誇る飛距離だが、決してそれだけではなかった。とりわけ、レギュレーションとプレーオフで2度回った18番ホールで見せたプレーには、飛距離に小技、パットと決断力といった、ジョンソンが持つすべてのスキルが凝縮されていた。

 首位のスピースと3打差で迎えた最終日、一時はその差が5打差に広がった。それでもスピースがスコアを落とし、ジョンソンが着実にスコアを伸ばして、通算13アンダーと並んで最終18番ホールを迎えた。

 18番は、475ヤードのパー4。左ドッグレッグで、左サイドにはティーグラウンドの先からセカンド地点まで大きな池がある。ジョンソンのティーショットはやや右に曲がって、フェアウェーを通り越して右のラフへと落ちた。

 ボールも見えない深いラフで、「刻むしかなかった」というジョンソンの2打目はフェアウェーに出すだけだった。そして、第3打はピン上5mにつけたが、スピースがパー確実の状況の中、絶体絶命のピンチと言えた。しかし、ジョンソンはこの5mのパーパットを見事に沈めたのだ。ボールがカップに入った瞬間、ジョンソンは右手のこぶしを強く握り締めた。

 プレーオフ1ホール目は、同じ18番だった。先に打ったスピースは315ヤードを飛ばして、安全にフェアウェーの右サイドにボールを運んだ。が、このとき、風がフォローへと変わっていた。すかさず、スピースは自らのショットを悔やんで、こう思ったという。

「風の変化に、DJが気づかないことを願った。(自分と同じように)安全に右のフェアウェーから攻めていってほしいと思った」

 だが、ジョンソンは風の変化に気づいていた。池越えとなるアグレッシブなラインを選択し、強振したドライバーショットのボールは見事に池を越えてグリーン手前のフェアウェーを捉えた。

 池越えとなったその飛距離は341ヤード。スピースとの飛距離の差は26ヤードだったが、左ドッグレッグゆえ、ピンまでの距離はスピースが182ヤード、ジョンソンがわずか92ヤードと、非常に大きな差となった。

 結果、7番アイアンで打ったスピースのセカンドショットはグリーン奥のカラーにこぼれたが、60度のウエッジで打ったジョンソンのセカンドはピン下1mにピタリ。ジョンソンはそのバーディーパットをきっちり決めて、スピースを下した。

 ジョンソンが激闘を振り返る。

「僕はこれまで、18番では2パットのパーで逃げ切るという勝利ばかりだった。だけど今回は、入れなければいけないパーパットを、プレーオフではバーディーパットを、1パットで沈めて勝った。この勝ち方は、僕にとっては初めての経験。大きな成長だと思う」

 今回のプレーオフにおいて、18番をその舞台に選択したPGAツアーに対して、「あのホールはロングヒッターが断然有利。スピースは不運だった」という声が選手たちからも漏れてきた。飛距離を武器とするジョンソンとの対戦では、「公平性を欠くのではないか」という意見からだろう。

 しかし、今回のジョンソンは飛距離だけで勝ったわけではない。レギュレーションの18番ではラフから刻むことを選択し、その後に5mのパーパットを沈めた。冷静な判断と、パッティングの技術、読みのよさが光った。

 プレーオフの18番では、確かに飛距離のアドバンテージを生かした。とはいえ、それも風を読んで、アグレッシブに攻める選択をした決断があってこそ。セカンドにしても、ショートゲームの技術の高さの証である。まさにジョンソンは、飛距離、小技、決断力……自らが持つすべてのものを駆使して勝利をつかみ取ったのだ。

 この勝利によって、フェデックスカップポイントでも1位に躍り出たジョンソン。思わぬ”事故”の影響で”メジャーシーズン”はふいにしてしまったが、プレーオフを迎えて完全復活の気配である。年間王者のタイトルを得るには、最高のタイミングだ。

 第2戦のデル・テクノロジー選手権(9月1日~4日/マサチューセッツ州)でも、優勝候補に挙げられる。クライマックスを迎え、ついに”DJ時代”が到来するのか、そのプレーぶりが一層注目される。