熾烈な最多勝争いを繰り広げているセ・リーグの投手たちだが、なかでも成長著しいのが高橋宏斗(中日)と才木浩人(阪神)のふたりだ。ここまで(8月18日現在)高橋は、菅野智之(巨人)の11勝に次ぐ10勝を挙げ、才木も9勝(リーグ4位タイ)、防御…

 熾烈な最多勝争いを繰り広げているセ・リーグの投手たちだが、なかでも成長著しいのが高橋宏斗(中日)と才木浩人(阪神)のふたりだ。ここまで(8月18日現在)高橋は、菅野智之(巨人)の11勝に次ぐ10勝を挙げ、才木も9勝(リーグ4位タイ)、防御率1.67(リーグ3位)の好成績をマーク。はたして、彼らの好調の要因はどこにあるのか。元中日の監督を務め、現在は解説者の与田剛氏に話を聞いた。


7月は4勝0敗、防御率0.00と圧倒的な成績で月間MVPを受賞した中日・高橋宏斗

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【高橋宏斗のあくなき探求心】

 ふたりの好調さの要因として挙げられるのは、高橋は左右、才木は高低のコントロールのブレがなくなったというのが一番です。以前は、ストライクを取りにいったところがボールになり、カウントを悪くして甘く入ったところを痛打されるというケースがありましたが、今季はそこが大幅に改善されました。

 とはいえ、これは目で見てわかることにすぎません。大事なことは、なぜ改善されたかということです。もちろん、技術面でも挙げるポイントはありますが、私が注目しているポイントは"意識"です。

 たとえば高橋は、昨年からずっとフォームの改善に取り組んできました。尊敬している山本由伸(ドジャース)を意識したフォームにチャレンジしていた時もありました。ただ、なかなかうまくいかなかった。

 キャンプではフォームが変わってしまって、もとに戻す、戻さないで首脳陣とコミュニケーションが取れていないのでは......といった話を聞いたこともありました。でも本人は、常に向上心を持ち続け、粘り強く自分に合ったフォームを模索し続けていたのだと思います。

 これは投手に限った話ではありません。選手というのは、いつも「もっとうまくなりたい」と考えて時間を過ごしています。オフでもシーズン中でも、毎日です。

 その過程で手応えをつかむこともあるし、迷うこともあります。そのなかで大事なことは、たとえ結果が出ないからといってすぐにやめたり、変えたりすること。何が正しいかなんて、それこそ簡単に結論が出るものじゃありません。フォーム修正にしても、ある投手に適したことがほかの投手に当てはまるとは限りません。人それぞれ骨格、筋力、みんな違いますからね。

 今季、高橋はなかなか手応えをつかめず、開幕はファームで迎えました。しかし、心が折れることなく、じっくりフォーム修正に取り組んだことが、ようやく実を結びました。「大変」という言葉は、「大きく変わる」と書きますが、大きく変わる時ってしんどい思いをしなければ得られないものなんですよね。


ここまでチームトップの9勝をマークしている阪神・才木浩人

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【才木浩人に感じるエースの自覚】

 才木に関しても、「意識の変化」のようなものを感じます。今季はエースの青柳晃洋を筆頭に、昨シーズン新人王とMVPに輝いた村上頌樹や実績ある西勇輝ら、ことごとく阪神投手陣は苦しんでいます。

 そうした状況のなか、才木は自分の立ち位置がどこなのか、考えたのだと思うんです。直接、彼と話したわけではないので明言はできませんが、たとえば「オレがやらなきゃ」「ここがチャンス」といったものを感じたのかもしれません。そうした気概のようなものを、彼のピッチングから感じます。

 そんな才木の成長したポイントを挙げると、ランナーを出してから慌てなくなったことです。牽制であり、間(ま)の取り方を見るだけで、「まったく慌てていない。落ち着いているな」と感じさせるようになりました。

 そして大胆さ。たとえば走者二、三塁のピンチの場面でも、怯むことなく2球で追い込んでみたり、ストライクゾーンで勝負できるようになりました。言い方を変えれば、少々コースが甘かろうが堂々と投げ込めるようになりました。

 そうした才木の姿を見ていると、"自覚"のようなものを感じます。ゲームのなかで勝負どころを理解し、「ここで抑えたら流れがくる」とか「今日は少しでも長いイニングを投げよう」とか、ただ投げるだけでなく俯瞰して見られるようになった。そうした成長のあとを感じます。

 これは一般論ですが、打たれる投手、実績のとぼしい投手って、傾向があるんです。それは投げる前から自分を追い込んでしまうこと。相手が強打者や苦手な打者だと、どうしても慎重になりすぎて、カウントを悪くしてしまう。その結果、ボールを置きにいって打たれてしまう。

 昨年の才木は、まだそういったピッチングをしてしまうところがあったのですが、今年は違います。自分のボールに自信を持てるようになったこともあると思うのですが、コースを狙いすぎない。迷いなく腕を振れているから、ボールに勢いがある。だから少々コースが甘くなってもファウルになったり、空振りをとれる。

 そしてふたりの共通点として思うことは、「感知する能力」です。たとえば、シーズンを通してのコンディショニング。長いイニングを投げても、球威、フォームは変わらない。先発投手の調整は人ぞれぞれですが、間違いなく最重要ポイントになるのが疲労対策です。とくに夏場となると、80球程度でも翌日、体が重く感じる時があります。おそらく高橋も才木も、今のピッチングを見る限り、自分の体を感知する能力みたいなものが高まっているんじゃないでしょうか。

 今季、非の打ちどころのない成績を残しているふたりですが、ではこれからも同じような投球ができるかといえば、「はい」とは断言できません。投げるボール自体はそれほど変わらないでしょうが、相手も研究してきます。ともにフォークを武器としていますが、対戦回数が増えれば相手も慣れてきますし、これまで空振りだったのがファウルになり、ファウルだったものがインフィールドに飛ぶようになる。それを想定してどんなピッチングをしていくのか、すごく興味があります。

 今のふたりを見ていると、自分自身に満足している様子はないですし、まだまだ伸びていきそうな予感がします。どこまで成長するのか、今は楽しみしかありません。

与田剛(よだ・つよし)/1965年12月4日、千葉県君津市出身。木更津総合高から亜細亜大、NTT東京を経て、89年のドラフトで中日から1位指名を受け入団。1年目から150キロを超える剛速球を武器に31セーブを挙げ、新人王と最優秀救援投手賞に輝く。96年6月にトレードでロッテに移籍し、直後にメジャーリーグ2Aのメンフィスチックスに野球留学。97年オフにロッテを自由契約となり、日本ハムにテスト入団。99年10月、1620日ぶりに一軍のマウンドに立ったが、オフに自由契約。2000年、野村克也監督のもと阪神にテスト入団するも、同年秋に現役を引退。引退後は解説者として活躍する傍ら、09年、13年はWBC日本代表コーチを務めた。16年に楽天の一軍投手コーチに就任し、19年から3年間、中日の監督を務めた