(17日、第106回全国高校野球選手権大会3回戦 早稲田実2ー3大社=延長十一回タイブレーク) どこからともなく、手拍子が起こった。1人、また1人と。次第に大きくなる音が甲子園を包んでいった。 延長十一回、無死満塁。ここまで1人で投げてき…

 (17日、第106回全国高校野球選手権大会3回戦 早稲田実2ー3大社=延長十一回タイブレーク)

 どこからともなく、手拍子が起こった。1人、また1人と。次第に大きくなる音が甲子園を包んでいった。

 延長十一回、無死満塁。ここまで1人で投げてきた大社のエース、7番馬庭優太が打席に向かうときだ。球場を見渡して思った。「こんな空間におれて幸せ」。4球目を振り抜いた。投手の足元を抜けた打球が中前へ転がった。サヨナラ勝ち。月が浮かぶ夜空を見上げ、仲間と抱き合った。

 1、2回戦を完投した。疲労はある。でも、マウンド上で自然と笑みがこぼれた。「野球って楽しいな。甲子園って最高だな」

 七回の守りで確信した。先頭打者の中前安打を中堅手の藤原佑が後逸した。打者走者は一気に本塁へ。勝ち越し点を許した。だが、攻守交代で戻ってくる時、観客がこの日一番の大きな拍手で藤原を迎えてくれた。

 1点を追う九回はスクイズで追いついた。ただ、優勝経験のある早稲田実はさすがだった。なお1死二、三塁のサヨナラ機で、左翼手が投手の真横を守る「内野5人シフト」を敷いた。球場の大半が大社を後押しするような空気を、冷静かつ大胆に、はね返した。

 ともに、第1回大会に参加した伝統校同士の対戦。一進一退の攻防が続く中、十一回のベンチでこんなやり取りがあった。無死一、二塁から始まるタイブレークで、石飛文太監督は選手を集めた。「バントを決められる自信がある者は?」。背番号12の安松大希が挙手し、この夏、初めての出場でバント安打を決めた。直後のサヨナラ打はこうして生まれた。

 馬庭は言う。「島根で、みんなでひたむきに練習してきました」。100周年の聖地で初めての夏3勝。最後に、甲子園の〝魔物〟がほほ笑んだ。(山口裕起)