【さながら夏の「中央大祭り」】 今年のホクレンディスタンスは中央大学の選手たちの活躍が目立ち、さながら夏の「中央大祭り」のような快走が続いた。  口火を切ったのは、溜池一太(3年)だった。関東インカレ10000mに出場した溜池一太 phot…

【さながら夏の「中央大祭り」】

 今年のホクレンディスタンスは中央大学の選手たちの活躍が目立ち、さながら夏の「中央大祭り」のような快走が続いた。
 
 口火を切ったのは、溜池一太(3年)だった。


関東インカレ10000mに出場した溜池一太

 photo by Itaru Chiba/AFLO

 ホクレンディスタンス網走大会での10000mで27分52秒38の自己ベストをマーク。その後、千歳大会では、中央大の選手が5000mの各組で上位を占めた。

 千歳大会で最初にいい流れを作ったのは、5000mD組に出場した柴田大地(2年)だ。今大会には、明確な目標と目的があったという。
 
「中央大学は箱根駅伝予選会があり、その後に全日本大学駅伝の連戦になっているので、そこをイメージした機会を作りたいので、日本選手権から関東学生網走夏季記録挑戦競技会、千歳大会、中央大学記録会の4本のレースをセットしました。僕はすべての長距離種目で自己ベストを出して夏合宿にいかないと。現状では5000m、10000mのタイムで箱根駅伝のメンバーに絡めるかどうかギリギリのラインなので」

 柴田は関東インカレ3000m障害で2位、日本選手権3000m障害で8分24秒68の自己ベストで2位、「三浦(龍司)さんが目標」と世界を見据えた走りを見せた。網走夏季記録挑戦競技会の10000mでは28分47秒69の自己ベスト、今回の千歳の5000mでも13分43秒77で自己ベストをマークし、今のところ目標をクリアしつつある。
 
「10000mで自己ベストを出しましたけど、まだチーム内では11番目。チームの力はついてきていると思いますが、僕自身はもっと頑張らないと駅伝でチームに貢献できないですし、今後、エースにもなれないと思っています」

 駅伝を走るために、柴田は今回の連戦で見えた課題があるという。

「実は僕は記録会とかのレースがあまり得意じゃないんです。今回のレースでも動きが悪くなった時、自分の走りに集中できなくなってしまいました。今後、特に夏合宿では距離走で基礎をしっかり作っていければレースの流れに合わせて対応できるようになりますし、安定感も出てくると思うので、夏は800キロ以上は走りたいですね」

 ただ、今回の千歳のレースでは、柴田のよさも垣間見ることができた。一時は伊豫田達弥(富士通)に先行されたが、残り500mでスパートを掛け、勝負強さを発揮した。

「僕の持ち味は、常に勝ち切ること。勝負勘は人一倍あると思います。勝負強さを箱根駅伝予選会、箱根駅伝で見せていきたいと思います」

 柴田が目標とする箱根駅伝だが、希望区間はどこになるのだろうか。

「自分が走るべき区間と走りたい区間は違うと思うんですが、僕は1区で区間賞を獲ってチームによい流れを作るのが目標です」

【メンバー選考の競争激化】

 続く5000mC組では本間楓(2年)と吉中祐太(3年)がワンツーでフィニッシュした。本間は13分44秒96で自己ベスト更新には至らなかったが、蒸し暑いコンディションのなかで勝負に徹し、トップを獲った。

 汗だくの表情からは、笑みがこぼれる。
 
「千歳大会に至るまで溜池さんや岡田開成(1年)たちと非常にいい練習が積めていたので、自信を持ってスタートラインに立つことができました。13分40秒のペースではゆとりを持てるスピードで練習していたのですが、最初前に出た時、ちょっとキツさを感じたのでうしろの選手に『引っ張ってください』と合図をしたら前に出てくださったので、非常に助かりました。タイムより勝ちきることをメインに考え、それができたのでよかったです」

 本間はこのレースに向けてしっかりと調整ができていた。6月29日の男鹿駅伝の前に菅平で1週間合宿を行ない、駅伝では1区14.9キロを駆けた。その後、溜池らと一緒に練習メニューをこなすことが自信につながった。ホクレン千歳大会の5000mの翌日、士別ハーフマラソンにも出場した。

「箱根駅伝予選会の後、2週間で全日本なので、そこは2本とも外せない展開で、連戦でも自分の力を発揮できるようにと思ってレースを組んでいます。自分はいい意味でも悪い意味でも、連戦では自分の力を出しきれず、2戦目のほうが走れるので、そこが強みでもあり、課題だと思っています」

 本間が調子を維持しているなか、予選会や全日本を走るメンバー選考の競争も激しくなっていく。出走のポジションを得るためには何が必要だと考えているのだろうか。

「第一は、ロードの適性をしっかり見せていくことだと思います。今年、自分はトラックでは走れているのですが、関東インカレのハーフ(39位)では自分の力を出しきれていなかったので、ロードでも走れるところを夏合宿などで証明していかなといけない。ただ、自分は駅伝に出て、区間上位で走らないといけない存在だと思っていますので、メンバーになることではなく、その先の勝負を見据えて練習していきたいと思います」

【岡田はエース区間を希望】

 5000mB組には、ルーキーながらトラックシーズンで抜群の存在感を示している岡田開成が出走した。スタートから留学生や実業団の外国人選手に交じって先頭集団を形成し、積極的な走りを見せた。

「このレースでは、U20日本記録(13分22秒91・佐藤圭汰/駒澤大3年)の更新と折田(壮太・青学大・13分28秒78)君が(13分)30秒を高校の時に切っているので、それを超えたいと思っていました。ここまで溜池さんが(10000m)27分台を出して、柴田さんが自己ベストを出し、本間さんが組トップを獲ったので自分もいける自信がありましたし、留学生についていけたら狙えると思っていたので、自分の限界までついて行こうと思ったんですけど、3000mもついていけなくて......まだまだ力不足ですね。ただ、最初、突っ込んで最終的に13分36秒台でまとめることができたので、少しは成長できたかなと思います」

 岡田は、息を切らしながらそう言った。

 関東インカレ5000mでは6位、6月2日の日体大長距離記録会5000mでは13分34秒09の自己ベストをマークし、U20日本選手権の5000mでは4位。自己ベストを出した後、疲れが出て思うように走れなかったが、千歳大会前の1週間で状態を上げて臨んだ。

「タイム的には13分20秒を切りたかったのですが、まだまだですね。夏合宿に向けてはラストスパートを磨いていきたいです。関東インカレもU20日本選手権もラストで負けているので。あとは、箱根予選会に向けてハーフに対応できる体づくりをしていきたいです。予選会は今回トップを獲った先輩を始め、強い方ばかりなので負けないように優勝チームの一員になりたいと思っています」

 箱根駅伝では藤原監督やお世話になった先輩、高校や中学の時の監督に恩返しをするためにエース区間を走る姿を見せたいという。

「箱根駅伝はすごい先輩方ばかりで厳しいですけど、2区を走りたいです」

 坂への適性もあり、自信満々の表情を見せる岡田だが、戦略上、彼が2区を走ることができれば、今年の中央大は相当強力な区間配置が実現しそうだ。

【溜池一太は世界を見据える】

 エースの溜池は5000mの各組で躍動する選手を見て、「自分も」と気持ちを駆り立てられたという。

「柴田と本間がトップを獲って、吉中も2番、岡田もがんばっていい流れができていたので、自分も負けられないというのはアップの時から思っていました」

 溜池はホクレン網走大会10000mで自己ベストを更新、調子のよさをこのレースでも見せ、5000mA組でスタートから積極的に攻めて、外国人選手の集団に入って勝負をした。しかし、ラスト400mを越えると駒澤大の篠原倖太郎(4年)に抜かれ、13分28秒29の6位でフィニッシュした。

「レースは自分がエースなので駒澤の篠原さんに勝たないといけなかったですし、5000mも10000mも佐藤圭汰君にも届かないので、そこに並ぶようにならないといけない。彼らに自分が勝たないとチームが勝てないと思うんです。それに来年の東京世界陸上はポイントではなく、参加標準記録突破で行きたいんです。そのためには現状に満足せず、上を目指してやっていきたいです」

 溜池が競技者として貪欲な姿勢を見せるのは、今年のアメリカでの経験がベースになっている。ボストンの室内競技会ではグラント・フィッシャー(アメリカ)が5000m12分51秒84をマークした瞬間を見学し、3月のThe TENではフィッシャーが10000mで26分52秒04を叩き出し、大きな衝撃を受けた。
 
「あれを見て視野が広がりましたし、27分台でも満足できないし、学生記録を破るだけでは満足できなくなりました。自分がこれから五輪や世界陸上に出るような選手になったら、そこでの経験がターニングポイントだと思っているので、自分の意識を変えてくれたアメリカの人たちに感謝しています」

 アメリカでの経験を経て、溜池は今シーズン、自己ベストを更新し続けている。

「アメリカで練習してきたことが形になってきたのかなと。本当は爆発したいんですけど、自分は確実にちょっとずつという感じなので(笑)。今は駿恭(吉居・3年)とダブルエースと呼ばれていますが、自分がエースと言われたいですし、誰にも負けたくないですね」

 ビッグマウスではなく、淡々と冷静に決意を述べる様は、妙な迫力がある。静かなるエースは、秋の駅伝で爆発的な走りを見せてくれそうだ。

 ホクレンディスタンスでトラックシーズンは終わった。

 藤原正和監督は、「トラックはまずまずですけど、仙台ハーフでは結果が出ず、そこがうちの弱さかなと。夏にもう一度、しっかり距離などを踏んで秋の駅伝に備えたいと思います」と語った。

 溜池はエースらしい走りを見せており、柴田、本間、岡田が成長。全体のレベルが上がり、選手層はかなり分厚くなってきた。昨年の箱根は直前に体調不良者が続出し、シード権を失ったが、優勝候補たる戦力を保持していた。今シーズンも昨年に負けない選手層が育まれており、秋の駅伝シーズン、中央大は本来の存在感を発揮しそうだ。