(14日、第106回全国高校野球選手権大会2回戦 智弁学園2―1健大高崎) 選抜王者が見せた、ほんの一瞬の隙だった。 1―1で迎えた九回1死一、二塁。健大高崎のピンチで相手のバントが本塁付近で高く跳ねた。「刺せる」。主将で捕手の箱山遥人は…

 (14日、第106回全国高校野球選手権大会2回戦 智弁学園2―1健大高崎)

 選抜王者が見せた、ほんの一瞬の隙だった。

 1―1で迎えた九回1死一、二塁。健大高崎のピンチで相手のバントが本塁付近で高く跳ねた。「刺せる」。主将で捕手の箱山遥人は球をつかみ、三塁へジャンピングスロー。封殺した。

 土壇場でのビッグプレーに、箱山の表情が珍しく緩む。マウンドの石垣元気はガッツポーズ。流れが健大高崎に傾きかけた場面で、智弁学園の1番・佐坂悠登(はると)は「積極的にいく。気持ちで」と向かってきた。「普通に入ってしまった。この回だけ変化球が甘かった」と箱山が悔やむ初球を、見逃してはくれない。真ん中の変化球は中前へ打ち返された。この1点で勝負は決した。

 健大高崎は2015年以来、夏の甲子園から遠ざかっていた。秋春で実績を残しても、なぜか夏には負ける。箱山はチームプレーに徹することを求めた。ときに孤立し、仲間とぶつかり合う日々を経て、一つの答えにたどりつく。

 「3年生の力」だ。部員は96人。うち3年生は約30人。かつて夏のメンバーを外れて練習の補助に回る3年生がモチベーションを失い、チームの士気に影響していると感じていた。だから今年は、夏の群馬大会の間も3年生全員が練習に参加した。隙間時間に応援を練習する姿に、主力選手は責任感を強めた。

 延長戦2試合を制し、甲子園へ。初戦の英明戦は箱山の犠飛で競り勝った。この日、石垣を五回途中まで温存できたのは、選抜では出番のなかった3年生、杉山優哉と仲本暖が序盤で粘ったからだった。

 「このチームを愛して監督と同じ気持ちでやってくれた。『箱山のチーム』と言ってもいい」。むせび泣く主将の横で、青柳博文監督は最大限の賛辞を送る。

 春夏連覇には届かなかった。それでも、類いまれな統率力は「夏に勝てない」チームを変えた。(大宮慎次朗)