「阪神4-0広島」(11日、京セラドーム大阪) おかえり-。阪神・高橋遥人投手(28)が1009日ぶりの1軍公式戦登板で、5回4安打無失点、7奪三振の好投で3年ぶりの白星をつかんだ。数々の手術を乗り越え、家族や関係者のサポートに支えられな…

 「阪神4-0広島」(11日、京セラドーム大阪)

 おかえり-。阪神・高橋遥人投手(28)が1009日ぶりの1軍公式戦登板で、5回4安打無失点、7奪三振の好投で3年ぶりの白星をつかんだ。数々の手術を乗り越え、家族や関係者のサポートに支えられながら戻った1軍の舞台。左腕は何度も感謝の言葉を口にし、スタンドに笑顔の花を咲かせた。

 勝利の瞬間、緊張の糸が切れたように笑った。1009日ぶりの1軍マウンドで1025日ぶりの白星。高橋遥人が帰ってきた。「今は本当に夢のようです」。左肘、左肩、左手首…。何度もメスを入れ、困難を乗り越えてたどり着いた景色。みんなが待っていた。

 今までに感じたことのない緊張感だった。試合前から声援が鳴りやまない。「マウンドに上がる前の方がウルウルしたかな」。マウンドへと走り出しただけで大きな拍手が送られる。まだ投げてもいなければ、名前もコールされていない。虎党が“おかえり”のエールで迎え入れてくれた。

 投げ始めれば、無我夢中だった。初回は先頭の中村奨をツーシームで空振り三振。スタンドが沸いた。続く野間は見逃し三振。ボルテージがまた上がった。小園には右前打を浴びたが、末包を内角直球で空振り三振。「三振を取れて、いけるかなって感じたところもあった」。3つのアウトを全て三振で奪い、完全復活を証明した。

 最大のピンチは四回2死満塁。広島ベンチも四回で先発の九里に代打を送る勝負手に出た。代打の石原を内角低めのスライダーで空振り三振。「一番のボールだったかなと思います」。気迫の一球。小さくほえて、グラブをポンッとたたいた。

 22年4月に左肘のトミー・ジョン手術、昨年6月には左尺骨短縮術と左肩関節鏡視下クリーニング術を受けた。育成契約を経て、今年7月に支配下復帰。「一人じゃ頑張ってこられなかった」。21年11月6日のCSファーストS・巨人戦以来の1軍舞台。ここまでの道のりは長かった。

 投げたくても投げられない日々。「あの1軍の試合が最後の登板になってたのかな」。そう思うことが何度もあった。トレーナーには弱音を吐いて、現実から逃げたくもなった。「どうしたらいいか分からない時とか、なんで練習してるんだろうというのもあった」。グラウンドではナインが野球をしている姿が目に映る。何も考えないように、鳴尾浜を飛び出して散歩したこともあった。

 ファンの存在も大きかった。手紙はもちろん、キャンプでは直接メッセージをもらうこともあった。「応援してくれたことを無駄にしたくない」。原動力になった。ウイニングボールは同郷の岩崎から受け取った。大事な記念球は「スタンドに投げようかと思ったんですけど…」。冗談ではない。「ファンの人にたくさん支えてもらったので」。本気で投げようとした。

 5回4安打無失点で7奪三振。魂の89球で2軍でも手にできなかった復帰星だ。「野球やってるなって感じがする」。投げられる喜び、野球の楽しさをまた感じられるようになった。高橋遥人は傷の分だけ、強くなった。