パリ・オリンピックを戦ったU-23サッカー日本代表の挑戦が幕を下ろした。ベスト8で敗退と、渇望したメダルには手が届かなかった。だが、その戦いぶりは、チームとして、個人として、大きな期待を抱かせるものだった。未来のサムライブルーの可能性に、…

 パリ・オリンピックを戦ったU-23サッカー日本代表の挑戦が幕を下ろした。ベスト8で敗退と、渇望したメダルには手が届かなかった。だが、その戦いぶりは、チームとして、個人として、大きな期待を抱かせるものだった。未来のサムライブルーの可能性に、サッカージャーナリスト後藤健生が切り込む。

■最初に受けた印象は「守備能力の高さ」

 僕は藤田譲瑠チマのことを特別に取材したこともないし、ヴェルディ・ウォッチャーでもないが、藤田が東京をホームとするヴェルディ・ユースでプレーし始めた頃からプレーを見る機会はかなりあった。

 最初に受けた印象は、その守備能力の高さだった。

 ボールをキープしている相手に対して、相手の体とボールの間に自らの体を捻じ込むようにしてボールを奪い取るのがうまかった。立ったままボールが奪えるから、すぐに次のプレーに移ることができる(スペイン戦でも、体を入れる場面が何度かあったが、残念ながらスペイン戦ではそれがファウルに取られることが多かった)。

「フィジカル能力」も藤田の武器だった。「フィジカル」といっても、とくに身長が高いわけでも体が大きいわけでもない。藤田の能力は足の速さとアジリティー(敏捷性)の高さにあった。バランスが良く、相手と接触しても簡単には倒れなかったし、たとえ倒れてもすぐに起き上がって、再び相手にチャレンジを仕掛けることができた。

 だから、当時、僕は「藤田は将来、フランスのクリスティアン・カランブ―(1990年代から2000年代にかけてレアル・マドリードなどで活躍)やエンゴロ・カンテ(2010年代から活躍。2016年のレスター・シティの奇跡の優勝に貢献)のような守備的なMFになるだろう」と思っていた。

 だが、ヴェルディ・ユースで経験を重ねると、次第に攻撃センスも垣間見られるようになっていった。ボールを奪った後、一気にドリブルで相手陣のバイタルエリアまで進出するプレーが目立った。相手の弱点を見極めて、冷静に、そして自信を持って攻撃に出ていた。

■横浜FM関係者が「梶山陽平に似てますね」

 藤田は東京ヴェルディのトップチームでデビューすると、その後、徳島ヴォルティスを経て横浜F・マリノスに移籍した。

 その頃、横浜FMの関係者に「藤田は、FC東京にいた梶山陽平に似てますね」と言われたことを鮮明に覚えている。

 なぜかというと、僕はヴェルディ・ユースで最初に見たときの印象が強く、「藤田は基本的には守備の選手」という認識だったからだ。

 梶山は天才肌の攻撃的MFだった。ボールキープ力が高く、視野の広いパッサーとして将来を嘱望されており、年代別代表でも活躍し、北京オリンピックにも出場したが、A代表で活躍することはなかった。「課題は守備力」と言われていた。実際、梶山の守備はあまりに淡泊すぎた。もう少し守備の意識が高ければ、ビッグネームになれたはずの選手だったのに……。

 だから、「藤田が梶山に似ている」と言われて僕は驚いたのだ。

「そうか、今の藤田はあの攻撃センスが期待されているのか!」

 ただ、横浜FMでは、生え抜きの喜田拓也と藤田と同じく東京ヴェルディから移籍した渡辺皓太がMFで地位を確立していたため、藤田はなかなか出場機会が与えられなくなってしまった。確かに、喜田は横浜FMでは特別な存在だったし、渡辺も横浜に移籍して2シーズン目くらいからチームのやり方に溶け込んでいた。

 だが、藤田の将来を考えると、ここで出場機会を失うのは損失でしかなかった。また、たまに出場機会が回ってきても、レギュラーの地位が与えられていないため、ついつい無難な選択に傾きがちだった。

■日本代表の将来に重要な「さらなる成長」

 そんな中、パリ・オリンピックを1年後に控えた2023年夏に藤田はベルギーのシントトロイデンに移籍し、そこで出場機会を得て復活した。

 U-23日本代表ではキャプテンとしてチームの中心にいて、プレー面では守備能力と攻撃的センスの両者を発揮して、日本の中盤になくてはならない存在となっていた。いずれ、ビッグクラブから声がかかるのは必然だろう。

 日本の中盤は人材豊富ではある。だが、アンカー・ポジションを務める遠藤航は替えがきかない選手だ。持ち前のボール奪取能力に加えて、リバプール加入以降は正確なパスを前線に供給する仕事で急成長した。カタール・ワールドカップ修了後、吉田麻也大迫勇也などベテラン勢が代表から遠ざかる中で、森保監督は30歳を過ぎた遠藤を一貫してチームの中心として扱っている。

 もちろん、遠藤に衰えはないし、2026年の北中米ワールドカップまでは日本の中盤を託していける存在ではある。

 だが、ポジションの性格上、負傷やイエローの累積というリスクは当然ある。リバプールというクラブに在籍している以上、非常にプレー強度の高い試合を強いられるし、ヨーロッパのカップ戦も戦うので試合数も増えるので疲労の蓄積は尋常ではないだろう。代表でもすべての試合で戦い続けることは難しいかもしれない。

 そんな遠藤を取り巻く状況を考えると、藤田がさらに成長して遠藤にキャッチアップしていくこと(追いついていくこと)は、日本代表の将来にとっても重要だ。

 秋に始まるワールドカップ最終予選では、オリンピック・チームで縦のラインを形成していた選手は、いずれも招集される可能性が高い。藤田も、日本代表に招集されるだろうが、トレーニングや試合を通じて遠藤と時間を共有して、その経験を受け継ぐことで、代表でのアンカーを任せることができる存在に急成長していってほしい。

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