<パリオリンピック(五輪):レスリング>◇7日(日本時間8日)◇女子53キロ級決勝◇シャンドマルス・アリーナ【パリ8日(日本時間9日)=阿部健吾】女子53キロ級の藤波朱理(20=日体大)が金メダルをつかんだ。決勝戦でジェペスグスマン(エクア…

<パリオリンピック(五輪):レスリング>◇7日(日本時間8日)◇女子53キロ級決勝◇シャンドマルス・アリーナ

【パリ8日(日本時間9日)=阿部健吾】女子53キロ級の藤波朱理(20=日体大)が金メダルをつかんだ。

決勝戦でジェペスグスマン(エクアドル)に10-0のテクニカルスペリオリティ勝ち。公式戦デビューからの連勝を137に伸ばし、家族の支えとともに王者となった。日本女子の今大会第1号の金メダルで、日本は女子が採用された04年アテネ五輪から6大会連続で頂点を確保した。

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真剣な顔で組み合い、会話を交わし、時には笑い合う。日体大の練習をのぞくと、藤波とコーチを務める伊調馨のスパーリングが繰り返される姿に会う。「馨さんの存在が自分の近くにいてくれてることは、それだけで心強いです。わからないことがあっても、何でも話せる存在です」。五輪4連覇のレジェンドと師弟関係となったのは日体大入学後。父の教えに、今は最強の指導者が加わる。

「あの人に比べたら自分はちっぽけ。まだまだこれからだな。やればやるほどすごさを感じます」。高校生の時に出稽古で「ボロボロ」にされてから、今も「本当に強い」という。ただ、その声は弾む。

21年東京五輪出場がかなわなかった後も伊調は選手兼コーチを続けている。「楽しい? そうですね。やってると『次どうしようかなって』」と藤波との日々を語る。ひと昔前と違い、映像などから共有し、技術向上は加速する。伊調自身も「私自身のスタイルでは限界がある。苦手な分野もある。選手から聞かれれば、次回の練習の時に宿題に」と持ち帰る。

その1人が藤波。「私は朱理を倒すためには、と考えてるし、朱理も同じ。そこがハマった時がお互いにうれしいし、戦略通りにいけば面白いし、『今日はどうやって倒そうか』『取られちゃうのかな』って」。その日々が、藤波の力を押し上げた。

五輪に向かう愛弟子に「楽しんでほしい」と願っていた。4度の五輪。「一番楽しかったのはロンドン」と3連覇の地を挙げる。調整が万全ながら、現地入り直後に負傷。本番はぶっつけとなった。「4日ぶりの試合でしたが、疲れも取れてるから動ける、動ける。マットに上がれたうれしさもあって、本当にやりたいレスリングができて、心の底から楽しくて」。決勝戦残り30秒、リードの場面で浮かんだのは「終わっちゃう寂しさ」だったという。

藤波は20歳8カ月28日で五輪を制し、日本協会によると、04年アテネ五輪の伊調の20歳2カ月10日に次いで、男女を通じて日本勢2番目の若さ。同じ20歳での初戴冠となった師弟は、互いに連勝記録に執着していない所も似ている。03年から189連勝(不戦敗を除く)をマークした伊調は「負ける事は怖くなかった。負けたら次どう勝つのかを考えるのがうれしかった」。逆境こそ糧にしてきた藤波も一緒なのだろう。あるのは飽くなき探求心。パリでの決勝後に涙はなかった。「楽しかったです!」と響かせた声に、師の願いもかなったと感じた。