(9日、第106回全国高校野球選手権大会1回戦 西日本短大付6―4金足農) 「自分が仕掛ける」。一回裏の攻撃、西日本短大付の1番・奥駿仁(はやと)選手(2年)は左前安打で出塁。次打者への初球が暴投となり、相手捕手が処理にとまどうと、50メ…

 (9日、第106回全国高校野球選手権大会1回戦 西日本短大付6―4金足農)

 「自分が仕掛ける」。一回裏の攻撃、西日本短大付の1番・奥駿仁(はやと)選手(2年)は左前安打で出塁。次打者への初球が暴投となり、相手捕手が処理にとまどうと、50メートル5秒8の俊足を飛ばし、三塁へ。味方の適時打で、笑顔で生還した。

 元はサッカー少年。保育園から続けていたが、小学4年で転機が。公園で野球チームの監督に誘われ、打撃に挑戦したが、空振りばかり。悔しくて練習すると、少しずつ上達するのがうれしかった。野球に専念したい、と母のさおりさんに伝えると、「楽しい方を選びなさい」。夢がプロサッカー選手から甲子園出場に変わった。

 それから毎日のように、仕事帰りの母がトスバッティングにつきあってくれた。特訓の効果もあり、1年ほどで一塁手のレギュラーに。小学6年でエース、中学では遊撃手。走攻守、誰にも負けないと自信を持ち、西日本短大付への進学を決めた。

 だが入学すると、先輩の力に驚いた。スイングスピードも打球の飛距離も桁違い。俊足を買われ、1年秋から出場したが、出塁すらできない。

 正月休み。寮から暗い表情で帰省すると、母がまた、練習につきあってくれた。「自分のせいで試合に負けた」とこぼすと、「走ってる姿、格好良かったよ。気負わず、楽しんで」。

 寮に戻ると、バント練習に力を入れた。持ち味の足を生かすためだ。努力の成果が実り、今夏の福岡大会ではバント安打を含め10安打、6盗塁。チームのチャンスメーカーとして活躍した。

 「楽しむ姿を母に見せる」と臨んだ甲子園の初戦。ホームを2回踏み、盗塁も決めた。

 スタンドから見守った、さおりさんは「駿仁らしい姿がみられた」。奥選手は「母のおかげで、まず1勝。次も足を生かす」。母子とも白い歯をみせ、笑った。(太田悠斗)