素晴らしい追い上げで見せた底力――。第106回全国高校野球選手権大会(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)第3日の9日、秋田代表の金足農は1回戦第2試合で福岡代表の西日本短大付に4―6で敗れた。だが、九回に見せた粘りは見事だった。中嶋悠斗選…

 素晴らしい追い上げで見せた底力――。第106回全国高校野球選手権大会(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)第3日の9日、秋田代表の金足農は1回戦第2試合で福岡代表の西日本短大付に4―6で敗れた。だが、九回に見せた粘りは見事だった。中嶋悠斗選手(3年)までの3連打で完封を免れると、さらに犠飛や適時打などで攻め、2点差に。1万9千人を集めた甲子園のスタンドがわき上がった。

 秋田勢は3大会連続の初戦敗退となった。

     ◇

 放った飛球が二塁手のグラブに収まり、高橋佳佑主将(3年)は天を仰いだ。九回、2点差に迫ってなお2死一、二塁。もうひと押しできず、最後の打者となった。

 自分の次の2番打者から始まった九回。「佳佑に回すぞ、とみんなが声をかけてくれていた。なのに、申し訳ない」と目を伏せた。

 だが、四球を選んで高橋選手につないだ9番打者の那須慎之介選手(3年)は言っている。「一番つらい思いをしてきたあいつで終わるのなら、後悔はありません」

 昨秋の県大会で優勝しながら今春は初戦敗退。このままではだめだと、ミスが出れば、言いにくかった指摘もするようになった。仲間を引っ張り上げようと懸命だった。

 兄の高橋佑輔コーチ(23)への対抗心もあった。兄は第100回大会の準優勝メンバーで、横浜戦で逆転3ランを放っている。当時、小学6年生。すごい人だと感激したが、「いつもあの佑輔の弟、という言われ方をされるのが嫌だった」。兄を超えてやる、という思いが常に胸の中で火照っていた。

 コーチも野球には厳しい。帰宅後だって、ときに意見してくる。主将だけになおさら。6月半ば、生まれて初めて兄に逆らった。「こっちだって、必死なんだ」

 けれど、なかなか調子が上がらなかった秋田大会の最中、素振りを見てくれたのも兄。「今は、感謝したいです」

 「けんかをすれば、負けるのが分かっていても向かってきた。そういうやつです」と佑輔コーチ。九回の猛反撃に「いいチームになりましたね」。もがいてきた弟への、なによりのねぎらいの言葉だった。(隈部康弘)