◆パリ五輪 第14日 ▽レスリング(8日、シャンドマルス・アリーナ) レスリング女子53キロ級で金メダルに輝いた藤波朱理(20)=日体大=は、学校生活から“世界一”を強烈に意識していた。三重・いなべ総合学園高で3年時に担任をしていた鈴木佳奈…

◆パリ五輪 第14日 ▽レスリング(8日、シャンドマルス・アリーナ)

 レスリング女子53キロ級で金メダルに輝いた藤波朱理(20)=日体大=は、学校生活から“世界一”を強烈に意識していた。三重・いなべ総合学園高で3年時に担任をしていた鈴木佳奈恵さんが人柄を語った。

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 鈴木さんは1年時から英語の授業を担当していた。担任になった3年の夏。藤波が掃除の時間にお願いに来た。「優勝インタビューを英語で受けたいから練習に付き合ってほしい」。その年の10月の世界選手権に向け、その日から昼休みに毎日、外国語指導の助手だった南アフリカ人の先生と3人で空き教室に集まった。想定質問を数問考えた。藤波からは「優勝しか考えてないので、優勝バージョンでお願いします」と要望があった。自分で答えを用意し、表現などをアドバイスしていった。

 コロナ禍の休校期間もオンラインでつないだ。3か月間練習し、世界選手権は見事に優勝。試合後のインタビューはYoutubeで視聴でき、練習通りに答える姿があった。鈴木さんは「学校で学んだことを、学校以外の場所で発揮しようと思ってくれたことがすごくうれしかった。それをあの世界の舞台で見せてもらえたのは、私も教員として本当にすごく幸運なこと」と感激した。

 テストを返却した時の反応も印象的だった。95点の答案を「よう頑張ったね」と返すと、「いや先生、これ100点いけたよな」と悔しがっていた。「何でも一番がいいと常に言っていた。95点で良かったじゃなくて、100点取れたはずなのに悔しい。そういう気持ちの持っていき方が彼女を強くしてるんだなと思いました」と回想した。

 21年はコロナ禍で学校行事が計画通りにできなかったが、クラス全員での初めての共同作業も藤波がきっかけを作った。世界選手権に向けて鈴木さんが「応援動画を作ろう」と提案。当時は感染対策で大きな声は出せなかったため、メッセージボードに「優勝目指して頑張れ」を1文字ずつ書いて撮影。藤波も優勝インタビューで「動画が力になった」と話し、その様子をホームルームで教室のプロジェクターに映して全員で視聴した。

 卒業式は2人で写真を撮った。その時「絶対に五輪に出て活躍するので先生、これからもずっと応援してください」と伝えられた。卒業後も「今年も英語インタビューを1人で準備しているんですけど、こういう時はどうしたらいいか分からなくて」と相談の連絡が来ることもある。「英語で困った時にあの先生に聞こうと、卒業後も思い浮かべてくれるのは本当に幸せなことだなと思います」。卒業式の約束を果たした教え子に感謝を込めた。(林 直史)