(8日、第106回全国高校野球選手権大会1回戦 京都国際7―3札幌日大) 6点を追う九回裏、先頭打者の菊地飛亜多(ひあた)主将(3年)は「流れをつくる」。直球をはじきかえすと、高く上がった飛球が中前にぽとりと落ちた。チームは2点を返し、最…

 (8日、第106回全国高校野球選手権大会1回戦 京都国際7―3札幌日大)

 6点を追う九回裏、先頭打者の菊地飛亜多(ひあた)主将(3年)は「流れをつくる」。直球をはじきかえすと、高く上がった飛球が中前にぽとりと落ちた。チームは2点を返し、最後に意地を見せた。

 二回には、初出場のチーム初安打となる二塁打を放った。一塁手でも再三、好守を見せた。

 春までは中堅手。5月、春の大会直前に森本琢朗監督に一塁手へのコンバートを打診された。チームはピンチの時に声で態勢を立て直せるリーダーを必要としていた。

 「卒業後も、プレーすることを考えたらライトかセンターなんだけど」。菊地主将の将来も見据え、一塁手に転向させることを迷っていた監督に「チームが一番強くなると思うところに置いて下さい」。きっぱりと伝えた。

 森本監督にとって、夏の大会まで2カ月を切る中でのバッテリー以外の守備位置の総入れ替えは賭けに近かった。打開策はもうそれしかなかった。

 そもそも、新チーム発足時、菊地選手を主将にしたことが最大の賭けだった。突き抜けるようなエネルギーは一級品だが、持て余すことがあった。「壁を破るチームになるか、はたまたチームごと崩壊するかどっちかでした」(森本監督)。

 めざしたのは「良いチーム」ではなく「勝って甲子園に行き、みんなに応援されるチーム」。主将が発するエネルギーに望みを託した。

 菊地主将自身も当初、チームを束ねられていないと自覚していた。ようやく、認められたと感じたのは夏の大会前だ。

 誰よりも早く練習に来て、1番最後まで残ることから始めた。何かが変わるのを肌で感じた。「飛亜多」と呼ばれていたのが、初めて「キャプテン」と呼んでもらえた。

 声で引っ張る菊地主将が内野陣に加わり、チームの守備が引き締まった。連鎖しがちだった失策も減った。

 試合後、ひとり監督のもとに向かった。「約束を守れなくてごめんなさい」。深々と頭を下げた主将に、森本監督はほほ笑みながら頭をポンポンとたたいてねぎらった。

 「『日本一をめざす約束』を守ろうとしていたからこそ、ここまで来られた。札幌日大の歴代キャプテンの中で最高の結果を残してくれた」(鈴木優香)