パリ五輪の男子サッカーは、開催国・フランスと日本を準々決勝で3-0で撃破したスペインがファイナルに進出。8日(日本時間9日未明)の最終決戦に挑むことになった。  その一歩手前で涙を飲んだ日本はいち早く解散し、4日には大岩剛監督らスタッフや…

 パリ五輪の男子サッカーは、開催国・フランスと日本を準々決勝で3-0で撃破したスペインがファイナルに進出。8日(日本時間9日未明)の最終決戦に挑むことになった。

 その一歩手前で涙を飲んだ日本はいち早く解散し、4日には大岩剛監督らスタッフや国内組14人が帰国。羽田空港で総括のメディア対応を行った。

「スペインには今までも負けていますけど、今回はちょっと中身が違う。0-3ですけど、『やりようによってはイケるな』という手ごたえがありました。データ上でもそれが明らかになっています」

 山本昌邦ナショナルチームダイレクター(ND)が語った通り、改めてデータを見てみると、ボール支配率こそ39%対53%(8%は中立)と下回っているものの、シュート数は9本対12本とそれほど差がなく、ファイナルサードへの侵入回数は14回と9回で日本の方が上回っていた。守備に関しても、セーブ数、ターンオーバーとプレスの回数で日本の方がスペインより上。攻守両面で相手を脅かしたのは紛れもない事実なのだ。

 そもそも、パリ五輪世代はコロナ禍の影響で2021年に予定されていたU-20ワールドカップ(W杯=インドネシア)が中止となり、国際経験不足が懸念されていた。2023年時点で森保一監督率いるA代表招集歴があるのも、久保建英(レアル・ソシエダ)、鈴木彩艶ナポリ)、細谷真大(柏)、藤田譲瑠チマシントトロイデン)くらいで「タレント不足」という見方が根強かった。

 ゆえに、今年4~5月のAFC・U-23アジアカップ(カタール)前では「五輪切符獲得さえも厳しい」「96年アトランタ7大会続いてきた五輪連続出場が途絶えるかもしれない」というネガティブな論調が後を絶たなかった。彼らはそれをバネにしてアジア制覇を達成。そこで1つの壁を越えることに成功した。

■逆境や危機感を大きなエネルギーに

 その後のオーバーエージ(OA)枠を巡る騒動の中でも「U-23世代だけで勝てるところを見せたい」と西尾隆矢(C大阪)が語気を強めるなど、全員が「自分たちの力で世界トップに立つんだ」という強い意欲と野心を押し出した。逆境や危機感を大きなエネルギーに変えたタフなメンタリティが彼らの急成長の一因になったのは間違いないだろう。

 加えて言うと、1~2月のアジアカップ(カタール)に鈴木彩艶、細谷、野澤大志ブランドン(FC東京)の3人が参戦したことも、パリ世代全体にプラス効果をもたらしたのではないか。

 細谷が初戦・ベトナム戦でスタメン起用されながら、仕事らしい仕事ができないまま45分で下げられたり、全試合に出場した鈴木彩艶が不安定なパフォーマンスを露呈し、さまざまな批判にさらされるのを目の当たりにして、「自分たちの世代はもっと成長しなければいけない」という危機感を全ての選手が強めたはずだ。

「今年に入って選手たちがグッとレベルアップしているなと1回目の活動(3月)に感じた」と大岩監督もしみじみ語っていたが、最終予選・本大会が近づくにつれ、自覚が高まっていったのは確かだ。

■2001年生まれ以降の世代が存在感

 今季開幕からJ1首位に立っている町田ゼルビアを藤尾翔太と平河悠(ブリストル)がけん引し、16年ぶりのJ1復帰を果たした東京ヴェルディ山田楓喜、木村勇大、染野唯月らパリ世代が押し上げるなど、Jリーグを見てもこの半年で2001年生まれ以降の世代が存在感を引き上げている。

 やはり「自分たちが中心なんだ」という意識の変化があったからこそ、彼らは短期間で劇的な成長を遂げ、パリ五輪でスペイン相手に互角の勝負に持ち込めたのだろう。

 重要なのは、今の流れを止めないこと。パリ世代がどれだけA代表に昇格し、欧州でも格上リーグにステップアップしていくのか。それが何よりも重要だ。目の前にいる東京五輪世代のハードルを飛び越えることが、彼らに課された次なる課題と言っていい。

(取材・文/元川悦子)

(後編へ続く)

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