「キムは、水の中に手を入れた時、一瞬動きを止めるんです」。全盲のスイマー木村敬一さん(33)=東京ガス=のフォーム改良を指導する星奈津美さん(33)はそう話す。木村さんは「手を止めることによって、水に『ぶらさがれる』んですよね。不安定な水…

 「キムは、水の中に手を入れた時、一瞬動きを止めるんです」。全盲のスイマー木村敬一さん(33)=東京ガス=のフォーム改良を指導する星奈津美さん(33)はそう話す。木村さんは「手を止めることによって、水に『ぶらさがれる』んですよね。不安定な水中で安定する場所を作って、そこで大きな力を出すという形で泳いでいました」。

 動きを止める木村さんの泳ぎは、星さんの描く理想の泳ぎとは対極だった。水中での不安感を極力抑え、抵抗の少ないスムーズな泳ぎにいかに近づけるか。試行錯誤が続いている。

 東京パラリンピックの100メートルバタフライ(視覚障害S11)で金メダルを獲得した木村さんが、新しい泳ぎに取り組み始めたのは昨年2月。五輪の銅メダリストで、旧知の星さんに指導を頼んだ。「金をとって、心にゆとりができた。その先に行けるのなら、今なのかな」

 木村さんは2歳の時に視力を失ったため、人が泳ぐ姿を見たことがない。星さんが学んできた「技術」を正確に伝えるには、一つ一つの動作を言葉に置き換えるしかない。伝え切れない点は、プールサイドで手を取って説明し、泳ぐたびに微調整を繰り返した。木村さんもそれに応える。「泳いでみた感覚を、また言葉にして星さんにフィードバックする。言葉にできないと、身についたとは言えない」。星さんの指導は月に1、2回から、気がつくと週5回になっていた。