パリ・オリンピックを戦ったU-23サッカー日本代表の挑戦が幕を下ろした。ベスト8で敗退と、渇望したメダルには手が届かなかった。だが、その戦いぶりは、チームとして、個人として、大きな期待を抱かせるものだった。未来のサムライブルーの可能性に、…

 パリ・オリンピックを戦ったU-23サッカー日本代表の挑戦が幕を下ろした。ベスト8で敗退と、渇望したメダルには手が届かなかった。だが、その戦いぶりは、チームとして、個人として、大きな期待を抱かせるものだった。未来のサムライブルーの可能性に、サッカージャーナリスト後藤健生が切り込む。

■大きな「誤算」と順当な「結果」

 パリ・オリンピックに挑戦したU-23日本代表は準々決勝でスペインに敗れて、メダル獲得の夢はついえた。

 せっかくグループリーグを3戦全勝の首位で通過したのに、C組でスペインが2位となってしまって、準々決勝で大会最強国の一つと当たることになってしまったのは大きな誤算、大きな不運だった。

 そして、0対3の敗戦……。スペインが日本より一枚上手だったことは素直に認めなければならないだろう。

 日本はオリンピックの舞台で4試合を戦ったのだが、きわめて分かりやすい結果だった。

「格上」のスペイン相手には完敗したものの、グループリーグではマリ戦はかなり苦しい展開となり、GK小久保玲央ブライアンの堅守がなければ負けていたかもしれないが、パラグアイとイスラエル相手には完勝することができた。

 パラグアイやイスラエルに対して、日本は「格上」の立場に立って、何も焦ることもなく、落ち着いて戦って順当に勝利した。これまでの世界大会では、日本はどんな相手にも必死で戦って勝利を拾っていたのだが、今大会のグループリーグでは計算通りに、ターンオーバーを使いながら戦って、順当に勝ち切った。これまでの日本代表にはない戦い方だったと言っていい。

 ちなみに、同じく準々決勝で散った女子日本代表(なでしこジャパン)も“順当な”結果を残した。「格上」のスペインとアメリカには善戦したものの、あと一歩の差で惜敗。そして、対等の関係にあるブラジルには激戦の末に谷川萌々子のスーパーゴールで辛勝。「格下」のナイジェリア相手には余裕の勝利だった。

■3点差の完敗も…「46%」を記録

 さて、U-23日本代表は、スペイン代表には0対3と大差を付けられて敗れた。

 3年前の東京オリンピック準決勝では、日本は延長戦の末の0対1という惜敗だったし、2022年のカタール・ワールドカップでは、日本は2対1でスペイン相手に逆転勝ちを収めた。

 ところが、パリ・オリンピックでは3点差の完敗に終わった。結果だけを見れば、悪くなっている。しかし、試合内容を見れば、U-23代表のリヨンでの戦いは、これまでのどの試合よりも良かったのではないか。

 東京オリンピックでのスペイン戦では日本が防戦一方となり、スペインの猛攻に耐えていたものの、延長後半に力尽きた。また、カタール・ワールドカップでのスペイン戦も、前半は一方的に押し込まれる内容だった。前半を1失点だけで切り抜けることができたのは、当時のスペイン代表がかなり深刻な決定力不足に陥っていたためだった。そして、それが逆転劇につながった。

 日本代表の森保一監督はシステム変更をして攻撃的な選手を次々と投入して反撃。「三笘の1ミリ」という“幸運”もあって逆転勝利につながったのだ。

 東京オリンピックの準決勝でもカタール・ワールドカップでも、日本代表のボール支配率はどちらも30%台だった。

 ところが、パリ・オリンピックのスペイン戦で日本は46%というボール保持率を記録したのだ。パスをつなぐのがうまいスペインという相手に対して40%台後半の支配率というのは、なかなか見ない数字ではないだろうか。

■VARの目的ではない「取り消し」

 1点をリードされた後の前半の終盤は日本が完全にボールを支配して猛攻をかけ続け、スペインが自陣ゴール前にくぎづけとなった。

 そして、実際、40分には細谷真大の“スーパーゴール”が生まれたのだ。

 結果的にはVARが介入してオフサイドの判定となってしまったものの、藤田譲瑠チマからのパスを受けて反転して決めた細谷のゴールは実に美しいゴールだった。

 今大会、グループリーグの初戦から細谷は1トップとしてポストプレーでチームの攻撃の軸となっていたが、イスラエル戦の決勝ゴールを決めたのに続いて、強豪スペインのDFを相手に素晴らしいゴールを決めたのだ。

 オフサイド判定は、もちろんルール的には正しい判定だ。

 だが、細谷の体幹は完全にDFより後方にあり、爪先がほんの数ミリ相手より前に出ていただけだった。VARが導入されていなければ、けっしてオフサイドが取られることはなかっただろう。ルール上、たしかにオフサイドであったとしても、半自動オフサイドテクノロジーとかVARの映像を使って、あのようなプレーをオフサイドに取るというのはルール本来の趣旨に反している。

 VARの目的はあくまでも「明らかなミスを防ぐ」ことのはず。ああした、数ミリのオフサイドをあぶり出すことは、けっしてVARの目的ではない。

■続いた「不運」と評価したい「違い」

 VAR導入後、ルールがますます細分化され、判定があまりにも機械的なものになって、サッカーというスポーツの本質からはずれてきているが、細谷のゴール取り消しもその弊害の好例ということができるだろう。

 とにかく、細谷のゴールが取り消されたのは不運以外の何物でもなかった。細谷は45+2分にもCKからヘディングシュートを放っているが、これもゴールポストに嫌われてしまう。この試合、日本にはツキもまったくなかったようだ(88分にも高井幸大のヘディングがクロスバーに嫌われた)。

「いくつかの幸運が重なれば勝てる」というほどの戦力差がある相手だったのに、逆に日本に不運が続いたのでは勝利できるはずはなかった。

 ただ、いずれにしてもスペイン相手にも90分を通じて50%に近いボール支配率を記録し、しかも、実際に何度もスペイン・ゴールを脅かすことができたのは事実だ。ひたすら守備を固めて勝利を追い求めた東京オリンピックやカタール・ワールドカップでのスペイン戦とはまったく違う姿を見せてくれた。これは、大いに評価すべきことだろう。

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