8月6日、パリ南アリーナ。パリオリンピック卓球男子団体の準々決勝で、張本智和、戸上隼輔、篠塚大登の3人からなる日本は、台湾を3-1で下し、準決勝に進出した。第1ゲームは戸上と篠塚のダブルスで3-0、第2ゲームは、張本が世界ランキング7位の…
8月6日、パリ南アリーナ。パリオリンピック卓球男子団体の準々決勝で、張本智和、戸上隼輔、篠塚大登の3人からなる日本は、台湾を3-1で下し、準決勝に進出した。第1ゲームは戸上と篠塚のダブルスで3-0、第2ゲームは、張本が世界ランキング7位の相手とのエース対決を落としたが、第3ゲームで戸上が3-0で勝利を収め、第4ゲームでは張本が鮮やかに3-0でストレート勝ちした。
エースである張本にとっては、前回の東京五輪で銅メダルを獲得したのに続き、メダルに王手をかけたと言える。
「東京(五輪)の時よりもうれしい気がしますね」
台湾戦後、マイクの前で語る張本の表情には喜悦が滲んでいた。
「あの時は、準々決勝で自分が2点(2ゲーム)を取って準決勝に進めたんですけど、今回(パリ五輪)は、自分が(第2試合のシングルスを)落としたのに、みんなに助けてもらってうれしいというか、"準決勝に行かせてもらってありがとうございます"って......。第3ゲームでは戸上が必ず(自身が負けた)流れを断ちきって、第4ゲームで自分が取る、と思っていました。これぞ団体戦の醍醐味ですね」
卓球男子準決勝に進出した(左から)戸上隼輔、篠塚大登、田勢邦史監督、張本智和 photo by Kyodo news
お互いが助け合い、ともに勝利を目指す。個人競技である卓球だが、団体戦でこそ味わえる楽しさだ。
「いつも対戦している選手たちがチームメイトで心強いですね。第2ゲーム、あの流れで3-0で勝つって、戸上の力はすごいなって思いました。東京の時は、先輩方に引っ張ってもらい、プレッシャーがいつもより少なく戦えたのがよかったですが、今回は全員が全員をカバーし合うというか......。3人とも同世代、同年代で、お互いに試合をしても誰が勝つかわからないですし、ふだんの生活から仲がいいので、いいチームだなって思います」
論理的に話す張本だが、感情量も多いから、言葉が溢れ出る。
「僕は人の話、全然聞かない(笑)。最低で自己チューだと思うし、そこで『そうじゃない』と反論されるとイライラしちゃう」
【「燃え尽きてもいいと思っている」】
そう言って苦笑いする張本だが、混合ダブルス1回戦で敗退したあとは、戸上、篠塚によく話を聞いてもらっていたと言う。「たぶん、うんうんと頷いているだけですけど」と語っていたが、「それだけでも楽になります」と、本音を洩らしていた。試合だけでなく、ずっと一緒に過ごすことで、外野からはわからないチームワークが熟成しているのだ。
「ふたりとも聞いていないし、何か言われても僕が聞かないって、お互い、わかっているんですけどね(笑)。意味のない、生産性はないやりとりですが、それが友達のよさでもあるのかなって思います。戸上とは小学校の、敬語ができていない時からの関係で、メディアの前では『戸上選手』と呼ぶようにしていますが、興奮していると今日みたいにボロが出ちゃいます(笑)」
いい関係性なのだろう。台湾戦の殊勲者になった戸上もこう語る。
「昨日(1回戦のオーストラリア戦)は、篠塚選手が2点取って主役になりました。今日は、俺が取って『主役だってアピールできた!』と思います。2番手の張本選手がいい試合をしてくれて、緊張を背負うことなくできました」
自らの活躍を誇りながらも、篠塚の活躍をたて、張本にも配慮を忘れなかった。ひとりひとりが、チームのなかで落ち着いて仕事ができている。
張本は独自の思考展開をするのだが、このチームのなかで居心地が良さそうだった。
「ミックス(混合ダブルス)で負けた時に言いましたが、ミックスで負けてもシングルスで無理に取り返そう、と思わなかったし、シングルスで負けても団体で『倍、頑張ろう』と思わない。その考え方がよかった、と思っています。おかげで今日もリン(林昀儒)とのシングルスに負けても、次のチュワン(荘智淵)に負けるわけではない、って戦えました」
張本は早口で言ってからこう続けている。
「でも、明日の準決勝では取り返すつもりでやります、エース対決(今日、負けた分)を取り返す。ここだけは信念を曲げてやっていきたい。(勝てば)決勝はあるんですけど、今の力は確実に中国に劣るので、対等になるのは4年後。まずは全力で準決勝を勝ちきるってところで、燃え尽きてもいいと思っているので」
ロジカルな張本がそれだけの決意を込めた。そこに意味があるだろう。何しろシングルス準々決勝で中国の樊振東に敗れたあと、彼は淡々とこう言ってのけていた。
「たいていの結果は、予想されていたようになるもので、自分が第三者だったら、『樊振東と張本のどちらが勝つか』ってなったら、『樊振東』って答えるはず。そこがすべてですね。4年後に、『どっちが勝つ?』ってなったとき、『たぶん張本じゃない?』ってなったら、いよいよ自分の金メダルだと思うので。大方は言われたように進んでいくし、そう言われる3~4年間にしていかないと」
なるようにしかならない、が信条なのだろう。しかし、それを曲げても「勝ちにこだわる」と言った。
今回の団体戦に懸ける気持ちは強い。技術よりも体調の調整を心がける。混合ダブルス、シングルスと戦い続け、肉体を酷使している。足が攣(つ)りそうにはなっても、そこは「言い聞かせて」やっているという。
8月7日、3大会連続のメダルをかけて、日本男子卓球はドイツを下したスウェーデンとの準決勝に挑む。