いよいよ第106回全国高等学校野球選手権大会が開幕する。昨年は慶應義塾が107年ぶりの日本一を果たし大きな盛り上がりを見せたが、今夏の甲子園を制するのはどこか? 高校野球を知り尽くす識者5人に優勝チームをズバリ予想してもらった。大阪大会決…

 いよいよ第106回全国高等学校野球選手権大会が開幕する。昨年は慶應義塾が107年ぶりの日本一を果たし大きな盛り上がりを見せたが、今夏の甲子園を制するのはどこか? 高校野球を知り尽くす識者5人に優勝チームをズバリ予想してもらった。


大阪大会決勝で15奪三振の快投を演じた大阪桐蔭・森陽樹

 photo by Ohtomo Yoshiyuki

楊順行氏(ライター)

優勝予想:大阪桐蔭

 ずっと都市対抗を取材していて、各地方大会はライブ配信をちらちらながめていた程度。偉そうに優勝予想などできないが、組み合わせを見る限り、第1日第2試合から第2日第2試合までの「山」が濃い。

 健大高崎、智辯学園、大阪桐蔭、興南と、全国制覇経験校がズラリ。しかも、春夏連覇経験校の大阪桐蔭と興南がいきなり対戦するのだ。ただ、それでもやはり、大阪桐蔭が抜けているのではないか。都市対抗もそうだが、炎天下の甲子園ではいまや、力の差がない複数の投手がいることが優勝への必須条件だ。

 大阪桐蔭には154キロ右腕の平嶋桂知に加え、森陽樹、中野大虎の2年生コンビら、相変わらず高水準の投手が揃っている。打線も大阪大会で6割近い打率を残した徳丸快晴、境亮陽ら力強い。2018年も、春夏連覇経験校の作新学院との初戦を制して優勝しており、1回戦を突破すれば勢いに乗るかも。

 夏は25回目出場の広陵と、23回目の熊本工という名門が、甲子園では意外なことに初めて対戦する。広陵はエース・高尾響頼みだったのが、山口大樹が広島大会では高尾以上のイニングを投げ、堀田昂佑も台頭したのが心強い。

 広陵は夏4回、熊本工は3回の決勝進出があるが、夏3回以上の決勝進出がありながら優勝していないのは、この両校だけだ。どちらが3回戦に進むか。ただ初戦を突破しても、この山には東海大相模もいる。ほかに2年連続センバツ準Vの報徳学園は今朝丸裕喜、間木歩の二本柱が健在で、京都国際も総合力が高い。

 センバツでは「西暦末尾"4"は、初優勝の年」と予想したが、西暦末尾"4"のオリンピックイヤーは過去サプライズの優勝が続く。1964年は、有藤通世(元ロッテ)が初戦で死球を受けてリタイアするなど、飛車角落ちの高知、84年はPL学園絶対と言われながら"木内幸男マジック"で取手二と、いずれも県勢としての初制覇を果たしている。

 さらに2004年は、駒大苫小牧が北海道勢として初の大旗を手にした。吉田輝星(オリックス)の弟・大輝のいる金足農が再び"カナノウ旋風"を起こすか。比較的組み合わせに恵まれた最速152キロ右腕・関浩一郎の青森山田。あるいは、過去に佐賀商、佐賀北と開幕試合に勝つとめっぽう強い佐賀勢の有田工はいかに? ただ......サプライズもおもしろいが、個人的には大阪桐蔭と広陵、甲子園では対戦していない両校の決勝を見てみたい。


この夏の青森大会で自己最速となる152キロをマークした青森山田・関浩一郎

 photo by Ohtomo Yoshiyuki

戸田道男氏(ライター兼編集者)

優勝予想:青森山田

 組み合わせ表をながめながら、まずはブロックごとにベスト8の勝ち上がりを予想してみる。独断と偏見で大胆に予想したつもりなのだが、顔ぶれを並べてみると、東海大相模、関東一、青森山田、智辯和歌山、大阪桐蔭、花咲徳栄、神村学園、報徳学園となり、ズラリと強豪校が揃った。実際の結果はこのとおりではなく、もう少し波乱含みの展開になることを期待したい。

 ベスト8への勝ち上がりを予想したなかで、その戦いぶりに最も注目したいのは青森山田。今夏152キロをマークした関浩一郎、MAX145キロの櫻田朔の両右腕を擁し、打線も對馬陸翔、吉川勇大の「木製バットコンビ」と左の強打者・原田純希で組むクリーンアップトリオを中心に、県大会決勝で逆転満塁本塁打を打った1番・佐藤洸史郎らタレント揃い。

 春のセンバツベスト8の経験値も生かし、八戸学院光星、弘前学院聖愛と強力なライバルがいた県大会を勝ち上がった。一昨年優勝、昨年準優勝で東北勢の歴史を変えた仙台育英が今大会は顔を見せないが、この夏、東北勢躍進の流れを受け継ぐとしたら青森山田がその役目を担うか。

 大阪桐蔭の勝ち上がりを予想したブロックは、センバツ覇者の健大高崎がいて、明豊、智辯学園、興南など有力校もひしめき、最大の激戦区となった。しかし、健大高崎は左腕エース・佐藤龍月の故障、離脱があまりにも痛く、春夏連覇を目指すには厳しい戦いを強いられるのは間違いない。その分、ここを大阪桐蔭が地力を見せて勝ち上がる確率は高まりそうだ。

 また、花咲徳栄がブロックを勝ち上がるには、2回戦で予想される京都国際との対戦が大いに注目。花咲徳栄はドラフト候補の4番・石塚裕惺を中心の強力打線が看板。春の近畿大会を制した京都国際は左腕エース・中崎琉生を軸に高い潜在能力を誇る。この試合の勝者がどちらでも、一気に上位に躍り出ておかしくない。


西東京大会で2本塁打を放った早稲田実業・宇野真仁朗

 photo by Sankei Visual

元永知宏氏(ライター)

優勝予想:早稲田実業

 甲子園を目指す各地方大会の試合を動画で見られるようになった今でも、優勝予想は簡単ではない。地方ごとにレベルは違うし、甲子園に来てから大きく化けるチームが出てくるからだ。

 たとえば、吉田輝星(オリックス)を中心に一戦ごとに強さを増した2018年の金足農、大応援団の声援を受けて日本一に登りつめた昨年の慶應義塾がそうだ。逆にいえば、「プラスアルファ」がない限り、夏の甲子園で頂点に立つことはできない。

 各地方大会の成績、勝ち上がり方、戦力などを見た時、史上8校目の春夏連覇を狙う健大高崎、2年連続センバツ準優勝の報徳学園、昨夏ベスト4の神村学園のほか、大阪桐蔭、智辯学園など甲子園で実績のある強豪が優勝候補として挙がる。また3季連続で日本一になっている関東勢(2023年春の山梨学院、2023年夏の慶應義塾、2024年春の健大高崎)の存在も見逃せない。

 実力以上の「プラスアルファ」にフォーカスした時に浮かんでくるのが早稲田実業だ。西東京大会6試合で31失点した投手陣に不安は残るものの、通算60本を超える本塁打を放っている宇野真仁朗を中心とした打線は力強い。國學院久我山を14対13で下した準々決勝、3連覇を狙う日大三を10対9で突き放した決勝戦でとんでもない勝負強さを見せつけた。甲子園100周年の節目となるこの大会で、早実の伝統のユニフォームは大観衆を味方に付けることになるだろう。

 もう一校、注目したいのが4シーズン連続で甲子園に乗り込んできた広陵。そのすべてでバッテリーを組んできたエース・高尾響と4番・只石貫太にとって最後の大舞台となる。広島商業と戦った広島大会の決勝、8回二死満塁のピンチで高尾はサウスポーの山口大樹にマウンドを譲り、ピンチを脱した。課題だった控え投手の台頭を証明した形だが、同時に、1年春からエースナンバーを背負う高尾の心に火がついたはずだ。「誰よりも負けず嫌い」(中井哲之監督)のエースは、最後の夏にこれまで以上の力を発揮するだろう。


京都国際のエース・中崎琉生

 photo by Sankei Visual

田尻賢誉氏(ライター)

優勝予想:京都国際

 本命といえる飛び抜けたチームがなく、どこが優勝してもおかしくないと言える。そのなかで、上位進出候補として挙げたいのは以下の4校だ。

 京都国際は初戦敗退だったセンバツから大きく飛躍した。エース・中崎琉生はひと冬越えて球威が増したことで本来のスタイルを見失い、センバツでは制球を乱したが、今夏の京都大会では29回を投げて4四死球と持ち味を取り戻した。2年生左腕の西村一毅が、龍谷大平安を8回2安打1失点に抑えるなど1試合を任せられるまで成長したのも大きい。攻守の要・藤本陽毅を中心にした打線も京都大会は準々決勝以降の3試合すべて2ケタ得点とスケールアップ。もともと守備のいいチームだけに安定した戦いが期待できる。

 センバツ16強、春の九州大会準優勝の神村学園は、鹿児島大会で3回戦以降は無失点、すべて8点差以上と圧勝。力の差を見せつけた。U18日本代表でも主軸として期待される正林輝大を中心にした打線は強力。冬にひじを痛めてセンバツは本調子ではなかったエース左腕・今村拓未が決勝で自己最速の144キロを記録するなど好投。準々決勝に続き連続完封して自信を深めた。チームは昨夏の甲子園ベスト4のレギュラー4人が残り経験豊富。早瀬朔、上川床勇希らほかの投手陣が今村をサポートできれば再びの快進撃が現実味を帯びる。

 ドラフト上位候補の主砲・石塚裕惺、最速148キロのエース・上原堆我と投打の中心が目立つ花咲徳栄もポテンシャルの高さは全国屈指。ただ、埼玉大会では準々決勝、決勝でビッグイニングをつくられ、楽勝ムードから一転、大接戦となった。乗っているときは圧倒的な強さを発揮するだけに、上位進出には精神面がカギを握る。

 2年連続センバツ準優勝の報徳学園はドラフト上位候補の今朝丸裕貴を中心とした強力投手陣が自慢。センバツではエースで主将も務めた間木歩が、大会前のケガで調整不足ながら決勝進出。夏は間木の復調に加え、左腕の伊藤功真も成長し、よりパワーアップした投手陣で勝負をかける。「こう見えてけっこうな負けず嫌いなんです」と言う大角健二監督の攻めの采配にも注目したい。

 この4校のなかから優勝校を予想すると、春の近畿大会を制するなど実力をつけてきた京都国際。低反発バットの導入により、これまで以上に高い守備力が求められるようになった。そういう意味でも、京都国際の戦いは注目したい。


今年春のセンバツでも活躍した青森山田・對馬陸翔

 photo by Ohtomo Yoshiyuki

菊地高弘氏(ライター)

優勝予想:青森山田

 春夏連続出場のなかでは大阪桐蔭、報徳学園、健大高崎の「3強」、投打にタレントが揃う花咲徳栄、東海大相模、智辯和歌山が優勝候補になるだろう。試合巧者の関東一、京都国際も目が離せないくせ者だ。

 そんななか、筆者がとりわけ今夏の王座に近い存在と感じているのが青森山田だ。エース右腕の関浩一郎、怪力スラッガーの原田純希と投打の軸がいて、脇を固める人材も実力派が揃う。組み合わせ抽選の結果、2回戦から登場する巡り合わせのよさも追い風だろう。

 関は最速152キロの球速が取り沙汰されるが、注目すべきはホームベース付近でも勢いを失わない球質のよさ。制球力、変化球の精度も兼ね備え、投手としての総合力は高い。ドラフト候補としてもっと評価されていい存在だ。2番手には、他校なら十分にエースを張れる櫻田朔が控えているのも心強い。

 原田は身長170センチ、体重93キロの漫画『ドカベン』の山田太郎を彷彿とさせる左打者。今夏の青森大会準々決勝・八戸学院光星戦では2打席連続本塁打という離れ業を見せ、勝利に貢献している。スイングの破壊力が尋常ではなく、ひと振りで球場のムードを一変させられるのは魅力だ。

 今春センバツでは1番打者の對馬陸翔、5番打者の吉川勇大が木製バットを使用し、快打を放つたびに甲子園スタンドを沸かせていた。今夏も時代を先取りするパイオニアぶりを印象づけられれば、甲子園の観衆を味方につけ、さらなる神風が吹くかもしれない。将来性抜群の2年生二塁手・蝦名翔人の成長にも注目したい。

 今年の青森大会は近年稀に見る激戦だった。ドラフト候補左腕の洗平比呂ら複数の好投手が居並ぶ八戸学院光星、潜在能力が高い逸材左腕・金渕光希を擁した八戸工大一、吹田志道らハイレベルな投手陣だった弘前学院聖愛。そんな好投手だらけの群雄割拠を制した経験と勢いも大きい。

 2年前に仙台育英が東北勢として初めて全国制覇を成し遂げた。北東北にも優勝旗が渡れば、高校野球界は次なるフェーズに突入するのではないか。そんな影響力を感じさせる戦いに期待したい。

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