全米オープン本戦初出場、そして初勝利を挙げた杉田祐一  ニューヨークでの初勝利の瞬間、杉田祐一はまったく喜ぶそぶりを見せずに淡々と試合後の握手を対戦相手に求めた。今の杉田にとっては、グランドスラムの本戦に出場することだけでなく、1回戦…



全米オープン本戦初出場、そして初勝利を挙げた杉田祐一

 ニューヨークでの初勝利の瞬間、杉田祐一はまったく喜ぶそぶりを見せずに淡々と試合後の握手を対戦相手に求めた。今の杉田にとっては、グランドスラムの本戦に出場することだけでなく、1回戦を勝ち上がることが当然であるかのような態度や表情に頼もしさが感じられた。

 今季最後のグランドスラムであるUS(全米)オープンテニスの1回戦で、杉田(ATPランキング44位、8月14日付け、以下同)は、ワイルドカード(大会推薦枠)で出場のジョフレイ・ブランカノー(331位、フランス)を、6-2、6-2、6-0で破って、本戦初出場で初勝利をつかんだ。

 試合は大会2日目に始まったが、杉田が2セットアップし、第3セット第1ゲームデュースの場面で雨によって中断となり、大会3日目に持ち越された。

「(大会側の延期が)早い決断だったので、ゆっくり休めた」という杉田は、試合再開後、18歳のブランカノーに1ゲームも許さず、実力と経験の差を見せつけて圧勝した。

「初出場初勝利は嬉しいことですけど、それに関しての意味というのは、そんな特にないかなと思っています。いいテニスができているので、引き続き頑張りたいという感じですね」

 ここ最近の好結果によってサーブに自信を持つ杉田は、1回戦でのファーストサーブでのポイント獲得率は79%で、常に試合の主導権を握った。

 また、かつて松岡修造氏のツアーコーチを務め、世界的な名コーチとして知られるボブ・ブレット氏が、課題として杉田にアドバイスしていたのがフォアハンドストローク。それを高い打点で攻撃的に打つことができており、フォアだけで10本のウィナーを奪い、さらにフォアを攻撃的に打ってネットにつなげるプレーも多く披露した。結局、トータルのウィナー数は18本を数え、ネットプレーは16回中13回をポイントにつなげて成功率は81%と高かった。

 ジュニア時代から杉田のプレーを見守ってきた元フェドカップ日本代表監督の村上武資氏は、今の杉田の活躍を「心から嬉しい」と顔をほころばせる。

「すごくプレーの幅が広がりましたね。ネットに行くようになり、前のスペースも使えるようになって、より攻撃的になった。

 以前は、まじめに全部のポイントを取りにいっていたような感じだったが、今はうまく捨てるポイントと取りにいくポイントのメリハリをつけられるようになった。おかげで、ギアを上げられるようになりましたが、経験からくる工夫だと思います。底力がついたことで、トップの選手にも勝てるようになったんでしょう」

「アメリカシーズンで、いい入りができている」と杉田自身が語るように、夏の北米ハードコートシーズンでは、マスターズ1000・シンシナティ大会で準々決勝進出を果たし、マスターズレベルで初のベスト8を記録した。

 ATPアンタルヤ大会でのツアー初優勝をはじめ、グラスシーズンで好調だった杉田はその後にどう結果を残すかが大事だと、何度も繰り返し自分に言い聞かせるように語ってきた。だから、サーフェスが変わりハードコートシーズンになっても、引き続き好調が保てていることに杉田はより自信を深めている。

「グラスは本当に特殊なサーフェスなので、(ツアーの)メインとなるハードコートでどこまで(自分が)通用するのかという意味で、(マスターズで)ベスト8に入れたことは非常に大きいですし、いい弾みになっていると思っています」

 これまでのUSオープンでは苦い思い出の方が多かった。2009年から毎年予選に挑戦し続け、過去8回とも本戦に進めず、しかも2010年と2014年は予選決勝で負けた。ようやく9回目のUSオープンで、時間はかかったものの28歳にして初の本戦ストレートインを果たし、初勝利もつかんでみせた。いま、杉田の実力が高いレベルにあることをニューヨークでも証明してみせた。

「長いといえば、長かったんですけど……。本当にそれを感じさせないぐらい充実したここ数カ月という感じでした。

 本当に今年、ググッと世界が変わったというか、今までと違うスケジュールと、違う試合でいい結果を残せている。この全米に限らず、すべての面において、新しいツアーで戦えるようになったのは非常に大きい」

 杉田は、1回戦で第26シードのリシャール・ガスケ(30位、フランス)を破ったレオナルド・マイヤー(59位、アルゼンチン)と2回戦で対戦する。ふたりは2011年ATPハレ大会(ドイツ)の予選で一度だけ対戦しているが、フルセットで杉田が敗れている。

「ここからは、ほとんど(自分より)レベルの上の選手と対戦していかないといけない状況だけど、ワクワクしています。やっぱり自分のテニスを出し切ることが大事になってくるので、相手のことを考えるよりも、まずは(自分が)ベストのコンディションで戦えるようにしたい」

 日本のエースである錦織圭が右手首のケガによってUSオープンを欠場となったが、その穴を埋めてくれるかのような勝利を収めた杉田。内なる闘志を静かに燃やしながら、グランドスラムでの挑戦は続いていく。