8月5日、パリ南アリーナ。パリオリンピック男子バレーボール準々決勝、日本は強豪イタリアに、2-3とフルセットの末に敗れた。 準々決勝敗退の結果は、3年前の東京五輪と変わらない。しかし予選を1位で勝ち上がったイタリアを攻め続け、第1、第2セ…

 8月5日、パリ南アリーナ。パリオリンピック男子バレーボール準々決勝、日本は強豪イタリアに、2-3とフルセットの末に敗れた。

 準々決勝敗退の結果は、3年前の東京五輪と変わらない。しかし予選を1位で勝ち上がったイタリアを攻め続け、第1、第2セットを奪い、3セット目も24-21とマッチポイントを奪い、あと一歩まで追い込んでいた。何より、日本のバレーはイタリアよりも華やか、スペクタクルで、それは"親日"だった会場の空気でも明らかだった。

「予選グループから日本は浮き沈みがありましたが、予選1位で抜けたイタリアに(真っ向から)戦えたのはよかったです。特に3、5セット目は勝てそうなところまで持っていけて、(選手を)誇りに思っています」

 日本男子バレー代表を率いたフィリップ・ブランは、そう試合を振り返っている。

 日本は胸を張るべき試合をした。心を揺さぶるプレーの数々だった。賞賛に値する。では、なぜ彼らはベスト4に届かなかったのか?

「何回も言いますけど、僕が点を取りきれず、この結果にしてしまった。そう思っています。悔しい思いと責任を感じていて......(今回の)集大成はめちゃくちゃ悪いわけでなく、みんなベストパフォーマンスだったと思いますが......」

 キャプテンで、エースでもある石川祐希はイタリア戦後にこう語り、痛切なほどに責任を感じていた。



イタリアとの試合後、フィリップ・ブラン監督と握手をかわす石川祐希 photo by Nakamura Hiroyuki

 しかし、石川は両チーム最多の32得点で、戦犯などではない。彼以外でも、誰かひとりの責任でチームは負けてはいなかった。そもそも、ひとつひとつのミスを挙げることに意味はないだろう。ミスというプレーの前に、スーパープレーがあったのがイタリア戦だった。

 やや固さがあった予選と比べて、日本はサーブから攻めていた。石川、西田有志の一撃はイタリア人を跪かせるほど強烈だった。ディフェンスは堅く、オフェンスは多彩で、ラリーに持ち込むと強かったし、本来の調子を取り戻していた。

 それだけに、日本は"勝ちを逃した"ように映る。どう考えても、3セット目、24-21でマッチポイントを取った瞬間に悔いが残るのだ。

【「1点を取りきる力」】

 筆者はたまらず、セッターである関田誠大に聞いた。

――分岐点があるとすれば、3セット目、24-21のところだったと思いますが?

 関田は今大会、アルゼンチンの主将が激賞するほどのプレーで、そのトスは変幻自在だった。この日も、崩れた体勢からでもスパイクをお膳立てしていた。

「まあ、どうなんですかね。相手のサーブもあったし、そんな簡単にいくものではない、と思っていました。自分たちにチャンスがあったのは事実だし、そこを掴み取れなかったのは甘いところだなって」

 簡潔だったが、ひとつのヒントだった。

 この日のイタリアは、序盤からサーブミスの失点が多かったと言える。1セット目は6本のサーブミス。3セット目も4本のサーブミスがあった。しかし、彼らは構わず、ぎりぎりまで際どいサーブを打ち続け、ディフェンスからのオフェンスに定評のある日本を崩そうとしていた。一か八か、ではないが、サーブに強気で攻める気配が漂った。日本がハイレベルのディグを見せるなか、虎視眈々と流れが変わるのを狙っていた。

「(敗因は)最後の1点を取りきる、ってところだったかなって自分は思っています」

 髙橋藍は言ったが、芯を食っていた。イタリアを舞台にタイトルを争ってきただけはある。

「3セット目は点差があって、取りきれなかった。そこが一番だと思います。誰のせいとかじゃなくて、"チーム全体がいける"って感じたと思うから、隙ができてしまったところもあって。ラスト1点をしっかり勝ちにいく力が足りなかったと思います」

 ラテン語圏には、勝負の鉄則がある。

「敵が血を流したら、傷口を抉(えぐ)り続け、死ぬまでやめるな」

 日本は"掟"を破り、慈悲を与えてしまった。日本の牙と爪は、死に体だったイタリアから離れていた。

 イタリアは、シモーネ・ジャネッリが強烈なサービスエースを決めた。24-24に追いつきデュースになった。今まで失敗してきたサーブを、正念場で成功させてきた。

 イタリアには総じて球技に"守備の文化"がある。守ることに耐性があるのだが、それは我慢強さとは違う。

〈攻めてみろ、痛い目に合わせてやる。自分たちの苦しみは快感に変わる〉

 イタリア人は、そうしたマゾヒスティックに近い攻撃姿勢を保てるのだ。この日、息も絶え絶えになりながら、彼らは信じて戦い方を変えなかった。サーブで積極的な姿勢を貫き、実らせたのは象徴的だった。セットカウント1-2としたあとは、さらに攻めのサーブで優位に立つ。大会屈指のブロックが当たりだし、4セット目は5本のブロック成功だ(日本は西田の1本のみ)。

「ジャネッリがサービスエース。AEDで心臓を動かした!」

 イタリア大手スポーツ紙『ガゼッタ・デロ・スポルト』は、独特の表現をしている。イタリアは日本のわずかな出血に興奮したかのように、そのまま勢いに乗って攻め立て、日本の息の根を止めた。

 日本は5セットを通じ、「バレー」の楽しさを感じさせるプレーをしていた。『ガゼッタ』紙が「今大会のベストリベロ」と高く評価した山本智大を中心に、ディグやブロックフォローなどのディフェンスで持ち味を出し、オポジットの西田も、両チーム最多3本のサービスエースで攻撃を引っ張った。日本男子バレーの歴史に残る一戦で、史上最強であることをあらためて証明した。

 それだけに、惜しかった。

「世界を相手にして、今日は結果を残せなかったです。でも、みんなともに歩んできて、ステップアップしてきたチームだと思います。ネーションズリーグでメダルを獲ったり、今日も非常に強いイタリアと互角に戦って、あと一歩まで......」

 石川は言った。偉大なる凱歌をあげる、その前夜だ。