人類最速を決める戦いは史上最もハイレベルなレースになった。 パリ・オリンピック(五輪)陸上男子100メートル決勝。フィニッシュした瞬間、スクリーンに「写真判定」を示すマークが上位7選手についた。 しばらくして、ノア・ライルズ(米)が9秒7…

 人類最速を決める戦いは史上最もハイレベルなレースになった。

 パリ・オリンピック(五輪)陸上男子100メートル決勝。フィニッシュした瞬間、スクリーンに「写真判定」を示すマークが上位7選手についた。

 しばらくして、ノア・ライルズ(米)が9秒79で制したことが確定。2位のキシャーン・トンプソン(ジャマイカ)との差は、わずか1000分の5秒だった。

 9秒81で銅メダルを獲得したフレッド・カーリー(米)は「1~8位までが100分の12秒差。とんでもない、すばらしいレースだった」と話した。

 8位のジャマイカの選手のタイムは9秒91。決勝出場選手全員が9秒台は五輪、世界選手権通じて初めてだった。

 ハイレベルな戦いは準決勝にも言える。

 日本勢92年ぶりの決勝進出をめざしたサニブラウン・ハキーム(東レ)は日本記録(9秒95)に迫る9秒96の自己新をマーク。それでも全体の10番目のタイムで決勝を逃した。

 過去の五輪では準決勝で9秒台を出して決勝に進めなかった選手はいなかった。今大会はサニブラウンを含めて9秒台を出した4選手が準決勝で敗退した。

 サニブラウンは「レベルが全然違いますよね。自分が前進しても、他の海外選手はもっともっと前進しているので」と話した。

 世界全体のレベルが上がっている背景には、厚底スパイクの存在が挙げられる。

 これまで「薄くて軽いほうが有利」との考えが陸上短距離界の常識だったが、東京五輪男子100メートル金メダリストを含むファイナリスト8人中5人が厚底スパイクで走り、一気に広まった。

 一方、米国の短距離コーチは「科学的なアプローチにより、選手個々に適したトレーニングができるようになった」とも語る。

 来年は東京で世界陸上が開かれる。さらに白熱した人類最速決定戦に期待したい。(辻隆徳)