実力派のロドリゲスを技量で圧倒した那須川。(C)産経新聞社ロドリゲスを袋小路に追い込んだ技術 プロボクシングでも本格的に開眼し始めた一戦―――。那須川天心(帝拳)のボクサー転向4戦目を見て、素直にそういう想いに駆られた。 7月20日、両国国…

実力派のロドリゲスを技量で圧倒した那須川。(C)産経新聞社

ロドリゲスを袋小路に追い込んだ技術

 プロボクシングでも本格的に開眼し始めた一戦―――。那須川天心(帝拳)のボクサー転向4戦目を見て、素直にそういう想いに駆られた。

 7月20日、両国国技館で行われたジョナサン・ロドリゲス(アメリカ)とのスーパーバンタム級10回戦で、那須川は鮮烈なダウンを奪っての3回KO勝ちを収めた。2回終盤に左を叩き込むと、3回に鮮やかなコンビネーションでロドリゲスをロープ際に沈めた。

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「進化できたと思います。自分の形がやっと完成してきた。(ただ、)完成と思うと進化が止まってしまう。これをしっかり毎日毎日意識していきたい。こんなものではないので」

 本人は試合後のリング上でそう述べていたが、過去3戦と比べて確実な向上が感じられたのは間違いない。左パンチは打ち抜きが良くなり、それが脅威を感じさせる武器になり、ロドリゲスは得意の右を出し辛くなったのだろう。

 2回途中、ロドリゲスが狙っていた左フックのカウンターを浅く浴びかけた那須川は、以降は右のパンチモーションをよりクイックにすることで対応。こうして相手の左右両方の武器を奪い、袋小路に追い込んでいった。

「(KOパンチは)効かせたパンチは手応えがなかったんです。手応えがなくてスコンと抜けた感じなんで、この感覚をしっかり掴んで、ホッとしています」

 本人の言葉通り、アッパーも織り込んだフィニッシュの連打も見事としか言いようがなかった。おそらくパンチャータイプではない那須川だが、ここで綺麗なKOを収めた経験は今後の自信にもなるに違いない。これから先も的確なパンチとコンビネーションで一定のKOシーンは生み出せるのではないかと思える。

 那須川のスキルや格闘センス自体はボクシング転向直後から明白。今戦でのスキル向上は“成長”というよりも“適応”と呼んだ方がしっかくりくる。ざっくり言えば、ボクシングに慣れ、本人の言葉通り、よりプロボクサーのスタイルとして固まってきた印象である。稀有な才能を持つ神童が開眼し、対戦相手レベルが上がっても同様のパフォーマンスが期待できそうではある。

那須川は称賛されて然るべき。そのワケは?

 もっとも、現状の那須川は、“本場”米ボクシング界において「話題の選手」とまでは呼べあい。スポーツ専門局『ESPN+』で生配信された今興行後の話題はメインで初回KOを生み出したWBC世界バンタム級王者・中谷潤人(MT)の強さと今後に集中していた。ただ、那須川に対する米関係者、ファンの評価はより公平な印象がある。

 セミファイナルを見たメディアは一様に好印象を持った様子だ。元『ESPN』のダン・レイフィール記者も自身のポッドキャスト内で以下のように語っていた。

「那須川は向上している。今回は20戦以上の実績があるロドリゲスを3回に印象的な形で打ちのめした。今後も迅速(なマッチメーク)に前に進むだろうから、注目しておく必要がある。10戦以内で世界戦まで辿り着くはずだ」

 そんな評論通り、相手のロドリゲスは正当な実績のある選手だった。昨年11月には元世界王者のカリド・ヤファイ(英国)を初回KOし、今年2月には元リオ五輪代表のアントニオ・バルガス(アメリカ)とダウン応酬の激闘の末に7回TKO負け。右パンチは危険であり、那須川にとっても適切なステップアップの相手だった。

 ロドリゲスに勢いがないのは事実であり、世界ランカーの中でやり易い相手を探した上でのマッチメイクでもあった。ただ、それはスター候補を育てるプロモーターの常套手段。キャリア5戦以下の若手に、50/50に近い強豪をあてがうのはワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)のような一部の例外を除けばほぼあり得ず、4戦目でロドリゲスくらいの力の選手との試合を組めば育成としては上質だった。その相手に満点に近い結果を出した那須川は称賛されて然るべき、というのが筆者の意見でもある。

 最新のテストもクリアし、日進月歩で進化を続ける那須川の今後には改めて興味がそそられる。ボクシングでの彼は本来であれば、依然としてルーキーに近いが、それでも日本ではその話題性ゆえ、長期視野での育成は許容され難い。これから先も一歩先を意識した相手が求められ、次戦では対戦相手の質はさらに上がるのだろう。

「今はまだベルトを何も持ってないので、次、何か地域のタイトルを取りたい」

 試合後の那須川のそんな言葉を聞くまでもなく、年内にも何らかのタイトルがかかった試合に臨むことが有力。その後、順調にいけば来年中にも世界タイトル戦の舞台に辿り着くことが予想され、そこが“審判の日”になるに違いない。

 レイフィール記者が指摘する通りの最短路線だが、それでも比較的早い段階にポテンシャルを完全開花させるのではないかと感じさせるだけの能力、サポート体制が那須川にはある。とてつもないボクサーになっていく可能性は高いと思えるだけに、これから先の展開をこれまで以上に楽しみに見守っていきたいところだ。

[取材・文:杉浦大介]

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