<パリオリンピック(五輪):陸上>◇3日◇男子100メートル予選◇フランス競技場【パリ3日=藤塚大輔】雪辱を期す2度目の五輪は、快走で幕を開けた。陸上男子短距離のサニブラウン・ハキーム(25=東レ)が男子100メートル予選4組に臨み、10秒…

<パリオリンピック(五輪):陸上>◇3日◇男子100メートル予選◇フランス競技場

【パリ3日=藤塚大輔】雪辱を期す2度目の五輪は、快走で幕を開けた。陸上男子短距離のサニブラウン・ハキーム(25=東レ)が男子100メートル予選4組に臨み、10秒02(無風)の2着で4日(日本時間5日)の準決勝に進出。

16年リオ大会の山縣亮太が記録した10秒05を上回り、五輪同種目では日本人最速タイムをたたき出した。21年東京大会では200メートルで予選敗退となったが、五輪では初の100メートルで躍動。1932年ロサンゼルス大会6位の吉岡隆徳以来となる決勝進出へ、好発進を切った。

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サニブラウンがニヤっと笑った。「今季一番良いんじゃないすか!」。4レーンから飛び出し、一気に前へ出た。大きなストライドで海外勢を寄せ付けない。最後にセビリア(ジャマイカ)にかわされたが、1着と0秒03差の10秒02で第一関門をクリアした。最大8万人収容のスタジアムの大歓声に「めちゃくちゃ楽しいっすよ」と笑顔。2度目の五輪での快走に「これが1回目」と冗談交じりにおどけた。1度目の五輪があったから、この舞台に戻ることができた。

東京五輪の頃はもがいていた。悩まされていたのが、3箇所のヘルニア。前年秋から3カ月ほどは神経痛により、何もできなかった。痛みを抱えたまま初の五輪で200メートルに臨むも、組最下位で予選敗退。「もはやジョギング」と自嘲するしかなかった。

ただ、その苦い経験を糧とした。五輪後の秋にはドイツの名医を訪ねた。新たな管理栄養士のもとで食事も改善した。腰やハムストリングに負担をかけないよう、トレーニングも全て変えた。「その時期に体作りやトレーニングに対する理解度は深まった。競技者として新しくスタートした時期だった」。決意の再出発は結果にも表れた。22年世界選手権から2年連続の入賞。日本人唯一の複数回の9秒台は、今年5月に5回目を記録した。今は3年前の予選敗退を「そんな時期もあったな、というくらい」と受け止められるようになった。

この日も「自分の走りをするだけ」と緊張はなかった。最後の30メートルは流し気味で走る余裕もあった。五輪日本人最速タイムも、全く気に留めない。「気にしないですよ。ここから、どんどん上がるので」。日本勢92年ぶりの決勝進出、日本人初のメダル獲得へ-。サニブラウンの五輪が、ようやく始まった。