「オレは、こんなことをするために生まれてきたんじゃない…」 もしVAR(ビデオ・アシスタントレフェリー)というシステムに「心」があったら、忸怩(じくじ)たる思いになっているのではないか。 「あんなに美しいゴールをなかったことに…

「オレは、こんなことをするために生まれてきたんじゃない…」
 もしVAR(ビデオ・アシスタントレフェリー)というシステムに「心」があったら、忸怩(じくじ)たる思いになっているのではないか。
 「あんなに美しいゴールをなかったことにするためにオレはいるんじゃないだけど…」
 スペインに1点を先制されて迎えた前半40分、日本が素晴らしい「同点ゴール」を決めた。

■ボールは間髪入れずに細谷真大の足元へ

 左サイドから攻め込み、斉藤光毅から戻されたボールを大畑歩夢が受ける。大畑はあわてず、インサイドのところに降りてきた三戸舜介を見ながら、その内側、相手MFフェルミン・ロペスが目を離した瞬間にスルスルと裏に上がった藤田譲瑠チマにパス。
「バイタルエリア」でパスを受けた藤田は、ワントラップすると間髪を入れずに細谷真大の足元にパス。ペナルティーエリア内ゴール正面、相手に厳しくマークされた状態で受けた細谷だったが、相手をブロックしたままゴールを背にして自分の左にボールを置くと、素早くターンしながら右足を振り抜き、ゴール左にけり込んだのだ。
 文句のつけようのないゴール…。と思われたが、モーリタニアのダハネ・ベイダ主審はなぜかスペインのキックオフを待たせる。

■VARが使われる試合では「緑色のシューズ」

 この試合のVARはフランスのジェローム・ブリサール、アシスタントVAR(AVAR)はカタールのハミス・アルマッリである。2人が映像をチェックする中で、藤田のパスの瞬間に、細谷の足がわずかに出ているのではないかという疑いが沸いた。そして静止映像を見ると、マークするスペインDFパウ・クバルシを抑えようと踏ん張った右足かかとが、わずかにクバルシの右足つま先より前に出ていたのだ。
 だが体勢としては、細谷とゴールの間には完全にクバルシの体があった。オフサイドというルールの精神からすれば、完全に「オンサイド」の状況である。VARというシステムを作ったのは、こんなに美しいゴールを無にするようなことをするためではなかったはずだ…。
 細谷のシュートが決まったのが、時計では39分42秒。VARの確認を経てベイダ主審がオフサイドを宣告したのが42分50秒。「3D」が必要でもないシチュエーションでこれほど時間がかったのは、VARにその葛藤があったためではないか。
 細谷のシューズが白かったのもいけなかったかもしれない。最初にAVARの目を引いたのは、この「白」だったはずだからだ。VARが使われる試合では、FWは芝生と同じ緑色のシューズをはくべきだなどと、悔しまぎれに思ってしまうのである。
 サッカーは「ifとbutのゲーム」だと言われる。試合には無数の「ifとbut」がある。しかし、このゴールが認められていれば、試合は大きく違ったのではないかという思いは消し去ることができない。

いま一番読まれている記事を読む