フランス戦で世界を魅了した河村勇輝 photo by FIBA原修太の視点で見るパリ五輪男子バスケ日本代表02 パリオリンピック男子バスケットボールの予選リーググループBの2戦目、ベスト8進出を目標に掲げる日本は7月31日に開催国・フランス…



フランス戦で世界を魅了した河村勇輝 photo by FIBA

原修太の視点で見るパリ五輪男子バスケ日本代表02

 パリオリンピック男子バスケットボールの予選リーググループBの2戦目、ベスト8進出を目標に掲げる日本は7月31日に開催国・フランスと対戦。延長の末に90―94の惜敗となったが、日本は試合全般で自分たちのバスケットボールを貫いた。

 昨年のワールドカップ日本代表の原修太選手(千葉ジェッツ)は、どのような視点でこの一戦を見たのか。フランス戦の戦いぶりを振り返りつつ、ベスト8進出の可能性を見出す次戦・ブラジル戦への期待も含めて聞いた。

原修太の視点01:日本対ドイツ考察「八村塁の凄みも再確認」〉〉〉

 何と言えばいいのか。僕はこの試合に出ていなかったですけど、正直、悔しいですね。

 バスケットボールは(攻守の回数が多く、いろんな要所があるので)最後まで何があるかわかない競技ですが、とはいえ、勝てる試合だったので、なおさらです。

 八村(塁)選手が2度目のアンスポーツマンライクファウルで退場になった(第4クォーター残り8分31秒)あとも、河村(勇輝)選手が覚醒状態の活躍を見せてチームをリードし、(残り1分33秒に)渡邉飛勇選手が『スラムダンク』の桜木花道ばりに、216cmのルディ・ゴベアをブロック。そして、4点リードを奪った。流れは完全に日本で正直、勝ちを確信しました。

 第4クォーター残り10秒、4点リードから追いつかれたのは......う〜ん、いろいろ言いたいことはあるのですが、本当に勝ち試合だったと思います。

 ただ、最終的に敗れはしたものの、日本のバスケットボールが世界のトップレベルのチームに近づいている、互角に渡り合えることに感動しました。

【世界のトップレベルに近づいた試合内容】

 試合を振り返ると、序盤は八村選手、河村選手、(渡邊)雄太がシュートを決めて、流れを作ってくれたと思います。オフェンスでは河村選手を起点としたピック&ロール(*)、特にゴベア選手のところを狙って(スピードで優位のため)展開し、自身がドライブしたり、スクリーンをかけたあとにポップした(外側に出た)ジョシュ(ホーキンソン)が3ポイントを決めたシーンが見られました。

*攻撃側がふたりで行なう、基本的な仕掛け。ボールを保持した選手をマークしている守備選手に対して味方の選手が壁(スクリーン)となることから展開するプレー。ボールマンは守備選手をその壁にぶつけるように動くことで自らのスペースを生み出し、一方で壁となった選手は守備選手がぶつかってきたあと、リング方向に動いてパスをもらう動きをする。

 また、ピック&ロールでなくても、速いトランジション(攻守の切り替え)からノーマークの選手にシュートを打たせることもできていました。例えばリバウンドを取った雄太がそのままボールプッシュ(バックコートからフロントコートに早いテンポでボールを運ぶ)するとトップ(3ポイントラインのリンプ正面近辺)にいる河村に返して、その後にノーマークのジョシュが3ポイントを決める。スクリーンを使わず、相手がマークする相手を特定する前にシュートを打てていた。日本が目指す理想的な形だったと思います。そのため、チーム全体でも高いシュート成功率を誇りました。

 ディフェンスでも全体でプレッシャーをかけ続けました。特にエントリー(インサイドにボールを入れること)の段階で簡単にボールを入れさせないよう、選手一人ひとりがハードワークしていました。フランスは、今季のNBA新人王、224cmのビクター・ウェンバンヤやベテランの216cmのゴベア両選手の高さが武器です。彼らにローポストでボールを持たれたら、1対1で完全に防ぐことは難しい。それでも日本はうまく体を寄せたり、パスを出させるようプレッシャーの掛け方を変えたり、簡単にシュートを打たせないよう努めていました。

 八村選手はウェンバンヤマ選手とのマンツーマンで凄みをきかせていましたし、ドイツ戦でも活躍した吉井(裕鷹)選手は体を張ってゴベア選手からチャージング(攻撃側のファウル)を誘発するなど、この日も見事でした。

 そうしたことも踏まえてチームディフェンスは、ほぼ完璧に遂行できたのではないかと思います。

 日本のスピードに翻弄されたフランスは、ウェンバンヤマ選手とゴベア選手のツービッグのよさを活かせない状況に陥っていきました。

 つまりフランスが自分たちのバスケットを捨て、日本のバスケットに対応せざるを得なくなったのです。

【八村退場で発揮された河村のリーダーシップ】


ゲーム開始からNBA新人王ウェンバンヤマに1対1で勝った八村

 photo by FIBA

 大会前の強化試合でフランスを見た時は、ゴベアからウェンバンヤマへのハイローの攻撃(フリースローライン近辺のハイポストからリング下近辺のローポストにパスを出す)が多かった印象ですが、このふたりが同時にコートに立つ時間は厳しい時間帯でも想像よりも少なかった。そのうえで日本はゴベアがハイポストに入った時は完全に後ろ(ゴール側)に引いて守り、少し外からのシュートなら打たせていいような布陣を引いていました。

 そのような流れのなか、ハーフタイムは44―49と5点ビハインド。得点はドイツ戦と同じで失点も3点少ないだけでしたが、印象は全く違い、前半終了間際には、これは勝てるのでは? と思わせてくれるような試合内容でした。

 日本は完全に主導権を握っていました。ただ、第4クォーター序盤、8点差をつけられたところで八村選手の連続3ポイントで勢いに乗ったところ、ふたつ目のアンスポーツマンライクファウル。残り8分31秒で、退場になった時は「このタイミングで」と感じましたが、その後、河村選手がチームを引っ張り、真のリーダーシップを見せてくれました(合計で29得点、7リバウンド、6アシスト)。

 大会前の強化試合で、河村選手が八村選手から「遠慮しないでもっと攻めていい」といった旨のアドバイスを受けたという報道を見ましたが、おそらくその時からずっと自分のなかで意識してプレーしてきたのでしょう。

 八村選手が退場したからではなく、ドイツ戦、この試合も試合開始からその心づもりでプレーしていた証拠で、それが危機的状況で顕著な形で発揮されたのだと思います。それは、河村選手以外のメンバーたちも同じで、もちろん八村選手が最後までプレーしてもらいたかったことが大前提ですが、八村選手がいなくても自分たちのバスケットボールを貫くという強い気持ちを持ってプレーしたと思います。

 あと、吉井選手と並んで、渡邊飛勇選手もこの大舞台でステップアップしました(18分36秒出場で、4得点、オフェンス3を含む6リバウンド、2ブロック)。これまでケガでなかなか潜在能力を発揮するパフォーマンスに結びつく機会がなかったですが、この試合、しかも要所ですばらしい働きを見せました。

【ブラジル戦も40分間、自分たちのスタイルを】

 フランスはNBA経験者8人にユーロリーグの強豪でプレーする選手がずらりとそろったチームです。そういうチームと伍す、しかも今回は10回試合して1回勝てるかどうかではなく、5回に1回、3回に1回の確率で勝てるくらいのチーム力を感じさせる内容でした。

 選手たちは直前まで勝利が見えていたぶん、ショックもあると思いますが、日本が目指しているのはベスト8。次に勝つことでスタートラインに立つチャンスが出てくる。だからフランス戦も延長で8点差をつけられたあとにもしっかり差を詰められたと思います(予選リーググループBは得失点差では日本が-24、ブラジルが-25)。

 正直、何の心配もしていません。油断とかではなく、今の日本はそれだけの実力がついてきています。

 ブラジルも日本と同じ0勝2敗で次戦を迎えます。世界最終予選を勝ち上がってきたチームですし、Bリーグでもプレーするレオナルド・メンデル選手をはじめ、シュートタッチのいい選手が多く、全員バスケットを展開します。

 もっとも日本は、初戦のドイツ戦ではほんの数プレーを除いた40分間、フランス戦ではさらに内容面も含めて40分間、自分たちのスタイルを貫けたと思います。これまで80分間、自分たちのバスケットを継続しているので、あと40分間、みんなで続けていくだけだと思います。

 ブラジル戦は勝ってほしい、ではなく、勝ちます!

【Profile】原修太(はら・しゅうた)/1993年12月17日生まれ、千葉県出身。市立習志野高→国士舘大→千葉ジェッツ。身長187cm、体重97kg。高校までは全国大会で目立った活躍はなかったが、大学入学後から徐々に才能を開花しシューターとして活躍。大学卒業後に千葉ジェッツに入団すると、プロ2年目の2016-17シーズンから徐々に出場機会を増やし、3年目からはチームの主力に定着。これまでBリーグ優勝1回、天皇杯優勝4回、2022-23シーズンはリーグのベストディフェンダー賞、ベスト5に選出される。2023年夏のワールドカップでは日本代表としてパリ五輪出場権獲得に貢献し、パリ五輪日本代表候補に名を連ねた。