今年6月の陸上・日本選手権は、パリ五輪への切符がかかった大舞台として注目を集めた。その一方で、中距離種目では次のロス五輪に期待を抱かせる高校生たちの活躍も目立った。 女子800mでは、久保凛(東大阪大敬愛高2年・大阪)が冷静なレース運びで…

 今年6月の陸上・日本選手権は、パリ五輪への切符がかかった大舞台として注目を集めた。その一方で、中距離種目では次のロス五輪に期待を抱かせる高校生たちの活躍も目立った。

 女子800mでは、久保凛(東大阪大敬愛高2年・大阪)が冷静なレース運びで優勝。男子800mでは、落合晃(滋賀学園3年・滋賀)が一度も先頭を譲らずに圧勝を飾った。

 そして女子1500mでは、ドルーリー朱瑛里(津山高2年・岡山)が7位入賞を果たした。


将来を嘱望されている16歳のドルーリー朱瑛里

 photo by Wada Satoshi

 この種目での高校生の入賞自体は、特段珍しいわけではない。ドルーリー自身もレース後には反省点ばかりが口をついて出た。

「1000mの通過まではラクにいったんですけど、ラスト300mから200mで切り替えることができず終わってしまった。自分が思うようなレースができず悔しさがある」

 狙っていた自己記録にも届かず、悔しさが先に立った。

 それでも、中学時代から大きな注目を集めてきただけに、プレッシャーも大きかったはず。初の日本選手権での堂々とした走りは、賛辞を贈るに値するだろう。

 今季、ドルーリーは新たな称号を手にした。それは「20歳未満のアジアチャンピオン」。今年4月にドバイで開催されたU20アジア選手権で1500mに出場したドルーリーは、先頭を譲ることなく優勝を果たした。

 ドルーリーは2007年11月生まれの16歳で、本来ならばまだU18に属する年代だ。U20のカテゴリーには早生まれの大学2年生(つまりドルーリーの4学年上)も含まれるが、それにもかかわらず、アジアの頂点に立った。

 日本選手権はU20日本選手権も併催されており、ドルーリーにはそちらに出場する選択肢もあった(それでも年上の選手ばかりだが......)。だが、ドルーリーは田中希実(New Balance)らシニアの選手を相手に戦うことを選んだ。

「今後に勢いをつける大会にするために、シニアの日本選手権に出場した。インターハイなどジュニアの大会とはまた違った雰囲気で挑めるのも、いい経験」

 ハイレベルな環境に身を置くことで、自身の成長を図った。

【高校記録を更新することはできるか】

 日本選手権の予選では、高校生とは思えない冷静さが光った。決勝に進出できる6番以内をキープすると、「7番と離れていたので」と自分の順位をしっかりと確認し、最後は余裕を持ってフィニッシュした。約2週間前にはインターハイ中国地区予選で800mと1500mの2種目を走っていたが、調子のよさを思わせた。

 一方、決勝はペースメーカーとともにハイペースを刻んだ田中にはついていかず、第2集団でレースを進めた。結局、シニア選手の壁を崩せなかったものの、7位に食い込み、存在感は示しただろう。

 このレースで田中は5連覇を果たし、パリ五輪出場も決めた。その田中について「速いペースで入っても押していけるっていうのは本当にすごい。尊敬する存在です」とドルーリーは口にする。田中との差をまざまざと見せつけられたことも、今後の成長への大きな糧となったはずだ。

 日本選手権のあとには、7月20日のホクレンディスタンスチャレンジ第5戦・千歳大会に出場した。「インターハイに向けての刺激、調整という形で1本走って、インターハイに向けていい形で臨みたい」というのが、この大会に出場した意図だ。

 ドルーリーは「インターハイで高校記録(4分7秒86)更新」を目標に掲げている。昨年度もホクレンDC千歳大会を経てインターハイに臨み、その舞台で1年生にして日本人トップの3位に入っている。

 そして記録も、田中が持っていた高1歴代最高記録を0秒05更新する4分15秒50の好記録をマークしている(日本人高校歴代6位でもある)。ドルーリーにとっては昨年と同じインターハイまでの流れだ。

 千歳大会でドルーリーは、序盤から積極的にレースに入った。ペースメーカーと留学生のナンバラ・サラムトニ(興譲館高1年・岡山)に果敢に食らいつき、自己記録をも狙えるペースを刻んだ。

 結局、ハイペースが影響したのか600mで離されると、ずるずると後退。力を出しきれず、4分30秒72と平凡なタイムで12着に終わった。インターハイに向けては課題を残したものの、蒸し暑さのなか無難なレースをするより、得られるものはあったのではないだろうか。

【留学生ライバルと切磋琢磨して成長】

 このレースで1着になったサラムトニは同じ岡山県内の高校に在籍しており、ドルーリーとは今季たびたび競り合ってきた。インターハイ中国地区予選ではドルーリーが白星を上げたが、岡山県予選ではサラムトニが今季高校ランキングトップとなる4分10秒11で勝利している。

 さらに岡山県には、倉敷高のジャネット・ジェプコエチ(2年)もおり、県予選からハイレベルな争いが繰り広げてきた。ドルーリーにとっては、彼女たちの存在も身近に感じられる世界だ。

 迎えたインターハイ。ドルーリーはスタート直後から先頭に経ってレースを引っ張るも、後半に失速して4分21秒82の11位に終わった。優勝はジェプコエチ、2位はサラムトニと、ライバルに敗れた格好だ。

 インターハイでは800mもエントリーしているが、1500mの悔しさは1500mで晴らすしかない。ドルーリーは、8月下旬にリマ(ペルー)で開催されるU20世界選手権の女子1500m日本代表に選出されている。U20アジアチャンピオンとして、今度は世界の舞台でどのような戦いを見せるか、注目が集まる。

 日本選手権でシニアに挑んだ経験や、留学生とのハイレベルな競り合いは、必ずやその舞台でも生きてくるはずだ。