今回の「パリ2024オリンピック(下記:パリオリンピック)」にてオリンピック競技として2度目となったスケートボード競技。東京オリンピックでのメダリストが全員決勝に残った今大会。注目となるのはやはり堀米雄斗の2連覇かオリンピック新王者誕生かだ…

今回の「パリ2024オリンピック(下記:パリオリンピック)」にてオリンピック競技として2度目となったスケートボード競技。東京オリンピックでのメダリストが全員決勝に残った今大会。注目となるのはやはり堀米雄斗の2連覇かオリンピック新王者誕生かだろう。

予選では優勝候補の地元フランスのオーレリアン・ジラウド、ポルトガルのグスタホ・リベイロ、世界ランキング1位でオリンピック初出場した日本の小野寺吟雲が敗退するという波乱が起こった。

22名で行われた予選を勝ち上がったのは、予選ラストトリックで地元フランスのヴィンセント・ミルーを逆転で下したテクニカルライダーのリヒャルド・トゥリー(スロバキア)、アメフトでは全カナダ学生のMVPにも輝いたミスターフィジカルのコルダーノ・ラッセル(カナダ)、若くして世界を転戦し経験豊富な回しイントリックマスターのマティアス・デルオリオ(アルゼンチン)。

そして予選でも終始安定したライディングで状態の良さがうかがえ、連覇のかかるオリンピック前回王者堀米雄斗(日本)、直前の体調不良で出遅れが心配されるも雨天延期で少しでも状態が戻せたかオリンピックでのリベンジを誓う白井空良(日本)、数々の世界タイトルを保持しているが残すはオリンピックタイトルのみとなったナイジャ・ヒューストン(アメリカ合衆国)、最後は東京オリンピック銅メダリストで今大会もパークとの二刀流に挑戦したものの、ストリートのみの出場となり調整は万全に思える予選堂々の首位通過となったジャガー・イートン(アメリカ合衆国)という8名だ。

予選を見る限りではファイナリストは誰が勝ってもおかしくないスキルは持っているが、調子の良さを見る限りジャガー、ナイジャ、堀米あたりがやや優勢か。
ただしオリンピックへの思い入れが特に強いナイジャ、白井が新技を出してくると予想されるのでその辺りの「ラン」「トリック」でのスコアメイクを含めての駆け引きも非常に注目となった。

フォーマットは「ラン」は2回トライ中の高い方のスコアを採用、「トリック」は5回トライ中の2つの高いスコアを採用、「ラン」と「トリック」の合計300点満点で優勝を競われた。

【ラン1本目】 

まずはトップバッターのリヒャルドが今大会のハイクオリティさをいきなり証明するランを披露。ハンドレールでの「ヒールフリップフロントサイドリップスライド」でスタートしていくと、「バックサイドテールブラントスライド」、「バックサイド180ノーズグラインド」とテンポよく繋いでいき、ラストトリックにはハンドレールでの「ビックスピンヒールフリップバックサイドボードスライド」を完璧にフルメイクし87.85ptとトップバッターの緊張もなんのその、決勝全体を引き締めるスタートを切った。

この雰囲気に引っ張られるように続くケルビンもフルメイクで87.25pt、連覇のかかる堀米も今大会で最後まで練ったというランをしっかり披露し89.90ptと1本目から全開のライディングを見せた。 

さらにこの流れを凌駕したのが日本の白井だ。予選では1本目にミスしたハンドレールでの「シュガーケーングラインド」をしっかり決めスタートしていくと、「キャバレリアルバックサイドテールスライド」、「アーリーウープフロントサイド180ボードスライド」などと「トリック」セクションで出してもおかしくないハイレベルなトリックを繋ぐ。ラストは自身の名前がついた「ソラグラインド(アーリーウープフロントサイド180 5-0グラインド)」まで完璧に決め切りソードセレブレーションのパフォーマンスも飛び出し90.11ptとここまでの最高スコアをマークした。前回の東京オリンピックでは果たせなかった初の決勝の舞台で白井が躍動した。

続く優勝候補のナイジャもラストトリックまでは完璧な滑りを見せたがラストトリックの「ノーリーバックサイド180ノーズグラインド」の着地で手をついてしまい87.06と少し減点された。同じく優勝候補のジャガーは中盤の繋ぎトリックでまさかのミスが出てしまい出遅れた。1本目終了時点でこの大会が生半可なフルメイクでは勝てないと各ライダーが感じたのではないだろうか。

【ラン2本目】 

終始安定した滑りを見せるベテラン、リヒャルドが中盤で「バックサイドクルックドグラインドノーリーキックフリップアウト」にアップデートし89.31ptとスコアを伸ばした。度重なる怪我から復活し続けたベテランが初のオリンピックの舞台でそのスキルを発揮する。

堀米も1本目のフルメイクに続き少しでもスコアを伸ばしておきたいところだったがラストトリックをミスしてスコアアップならず。そして更なるスコアアップで他にプレッシャーをかけておきたい白井もスコアアップとはならなかった。

この流れを感じ取り引き込んだのがアメリカの優勝候補コンビだ。まずは1本目で完璧なランとはならなかったナイジャ。いきなり「ノーリーヒールフリップバックサイドリップスライド」というアップデートしたトリックでスタートすると、高さのある「スイッチフロントサイドキックフリップ」、ギャップトランスファーの「キックフリップフロントサイドボードスライド」、ラストトリックには1本目で手をついてしまった「ノーリーバックサイド180ノーズグラインド」もしっかり修正し完璧なランを披露し93.37ptとトップに立った。

1本目の同様の構成を完璧に決めスコアアップすると予想したがまさかのスタートからアップデートを実行し完璧に決めるあたり「流れが来ている」と感じとったのか、さすがのスキルと経験値だ。

この流れに乗ったのがジャガー。1本目でハイスコアを出せずかなりプレッシャーのかかる場面だったが「ノーリーハーフキャブ50-50グラインド」で勢いよく飛び出すと「トレフリップ」、「フロントサイドフィーブルグラインド」とリズムよく繋ぐとバンクオーバーのトランスファーで「スイッチバックサイドリップスライド」、ラストの「スイッチバックサイド180 5-0グラインド」までこちらも完璧に決め切り91.92ptと2位につけた。プレッシャーのかかる場面でしっかりリカバリーするメンタルタフネスを見せつけた。

ラン終了時点で暫定首位がナイジャ、2位にジャガー、3位に白井、そして4位堀米と続いた。スコアこそナイジャから堀米までは3.47pt差しかなかったが、それ以上のポイント差があるような雰囲気を感じた。

【トリック1本目】 

1本目からカナダのコルダーノとアルゼンチンのマティアス以外がしっかり成功させ、しかも全員が90点オーバーという史上稀に見るハイクオリティな展開となった。ランで勢いに乗るスロバキアのリヒャルドは「バリアルヒールフリップバックサイド5-0グラインド」をハバレッジ で決め92.09pt。続くブラジルのケルビンは「フェイキーキャバレリアルノーズブラントスライド」をハンドレールで決め90.14ptとする。

非常にいい流れでやってきた堀米の1本目。ナイジャ、ジャガーに来ている流れを静かに受け流すかのように非常に集中した表情でトライしたハバレッジでの「ノーリーバックサイド180 5-0グラインド」は全くのブレを見せず完璧に決まりスコアも94.16ptとこの日のハイエストスコアをマークした。解説曰く、練習では1回も成功していなかったとのことで、この場面で決めてくるあたりは流石の一言。

この流れで押し戻したい日本勢は続く白井も「フェイキーキャバレリアルバックサイドテールスライドビッグスピンアウト」をハバレッジで決めて堀米に続く93.80ptのハイスコアをマークし流れを五分五分に戻した。

ここで堀米、白井に流れを渡さないのが百戦錬磨のナイジャ。ハバレッジで「スイッチヒールフリップフロントサイドテールスライド」をしっかり決め92.79ptとハイスコアをマーク。続くジャガーも同様、予選では苦戦した「スイッチバックサイドノーズブラントスライド」を一発で仕留め92.80ptとした。1本目を終えると流れは一度フラットに戻った。

【トリック2本目】 

ここで早めにスコアをフルマークし残りの3本で勝負をかけたいところ。ランではフルメイクできず初のオリンピック決勝の舞台で本来のパフォーマンスを発揮できていない19歳のコルダーノは身体能力を活かした「フェイキーフロントサイド270ボードスライド」をハンドレールで決め92.88ptをマーク。

ここで一気に勝負を掛けた堀米は自身を大逆転でパリオリンピックに導いたトリック、「ノーリーバックサイド270ブラントスライド」を繰り出すも着地でまくられてしまいミスとなった。続く白井も「アーリーウープバックサイド180ノーズグラインド」をハバレッジでトライしたがミス。

この流れをしっかり引き寄せたのが再びアメリカコンビだ。ナイジャは「ノーリーヒールフリップフロントサイドノーズブラントスライド」という超高難易度のトリックをハンドレールで一発メイクし93.22ptと決勝で最初のフルマークライダーとなった。続くジャガーも「バックサイドキックフリップノーズグラインド」を丸型のハンドレールという完璧にピンポイントでグラインドをかけないと成功しないセクションに一発でメイクし、93.87ptをマークするとナイジャに続くフルマークライダーとなった。

ここからナイジャ、ジャガーはさらにスコアアップを狙ったトリックに挑めるのでかなり有利な展開に。

【トリック3本目】 

完全に決勝を楽しんでいるコルダーノは2本目の勢いそのままに「フェイキーヒールフリップリップスライド」を決めて93.32ptをマークし完全にお祭りモードに突入した。東京オリンピック銀メダリストのケルビンも逆転を狙うべく「フェイキーキャバレリアルテールブラントスライド」をハンドレールでしっかり決め92.88ptとフルマークし暫定3位につけた。

ここ決めなければかなりプレッシャーとなる堀米は同じく「ノーリーバックサイド270ブラントスライド」にトライするがまたも決めきれなかった。白井も同様「アーリーウープバックサイド180 5-0グラインド」に再び挑戦するが決められず。一気に勝負を掛けたいナイジャとジャガーも「スイッチヒールフリップスイッチバックサイドクルックドグラインド」、「キャバレリアルノーズブランドスライド」をそれぞれミス。

中盤戦を終えて暫定首位はナイジャ・ヒューストン、2位にジャガー・イートン、3位にケルビン・ホフラーと続いた。

【トリック4本目】

フルマークできていないライダーはここでスコアを揃えなければ追い込まれる展開に。まずはリヒャルドが「ヒールフリップフロントサイドノーズブラントスライド」をハンドレールでメイクし92.58ptをマークしケルビンを抜いて暫定3位に浮上。

完全に勢いに乗ったコルダーノがここで信じられないトリックを繰り出す。
フェイキー360キックフリップでレールをリップ、テール側をオーバーしてリップスライドという超人的身体能力を発揮し見事に決め94.93ptのハイスコアをマーク。これには解説も「えー!?こんなことできるんだ」と大興奮しマイクを倒してしまいアナウンサーの方に謝る場面も。メダル争いには届かないのだがそんなことはお構いなし。会場の雰囲気を完全にコルダーノのものにした。

2、3本目とミスをして徐々にトリックが合い出してきてたか、期待の持てる4本目の堀米。一貫して「ノーリーバックサイド270ブラントスライド」に挑むがここもまくられて決めきれず連覇に後がない状況となった。

同じく2本連続ミスしている白井は「アーリーウープバックサイド180 5-0グラインド」を3回目で起死回生のメイク。94.12ptとリヒャルドを抜いてメダル圏内の暫定3位となった。

ここまで暫定首位のナイジャもこの辺りで後続を突き放しておきたいところ。
3本目同様に「スイッチヒールフリップスイッチバックサイドクルックドグラインド」を狙うがタイミングが合わずスコアを伸ばすことはできなかった。

一方で逆転での首位浮上を狙うジャガーも異次元のトリックを見せた。ハバレッジで「ノーリーフロントサイド270テールブラントスライド」という全くスライドをかけるセクションが見えない方向に270度回転し、さらにブラントスライドというピンポイントでかけなければ詰まったりまくられる可能性が高いリスキーなトリックを決め切って95.25ptとこの日のハイエストスコアを更新し暫定首位に立った。

優勝候補が次々スコアを更新していく中、追い込まれた前回オリンピック王者の堀米。最終トライでどんなドラマが待ち受けるのか。

【トリック5本目】

運命の最終トライ。スロバキアのリヒャルドは再びメダル圏内を狙うべく「バリアルヒールフリップバックサイドノーズグラインド」をハバレッジで挑戦するも惜しくも決まらず。不屈の精神で掴み取った初めてのオリンピックは5位という大健闘の結果で終えた。

19歳で今回のファイナリスト最年少となったカナダのコルダーノは10段ステアについているハバレッジをなんと逆から登る「フロントサイド50-50グラインド」にトライしたがミス。しかしそのままもう一度トライしスコアには反映されないが見事に決めて観客を沸かせ最終的に7位で初のオリンピックの舞台で堂々の爪痕を残した。

前回メダリストとして意地を見せたいブラジルのケルビンも果敢に「バックサイドビッグスピンフロントサイドテールブラントスライド」に挑戦したが決まらず6位で2回目のオリンピックを終えた。ここまで本来の調子を出せていないアルゼンチンのマティアスはラストで「ビッグスピンキックフリップフロントサイドボードスライド」をハンドレールで決め84.12ptと8位で初のオリンピックを後に。

そして後がないディフェンディングチャンピオン、連覇のかかった堀米のラストトライ。非常に集中した表情で気負った様子も感じず追い込まれたと思っているのは我々だけではないかと感じさせる雰囲気でアプローチに入った。

もちろん狙うは逆転でパリオリンピック出場を決めた時と同じトリック、「ノーリーバックサイド270ブラントスライド」。この土壇場で完璧に決め切った、そして出たスコアは97.08pt。会場は歓声というより地響きのような物凄い雰囲気となった。これにより暫定首位だったジャガーを0.1ポイント上回り逆転で首位に浮上。オリンピック予選最終戦で決めた際は96点台だったがその時よりもサイズの大きなレールでのメイクだったためスコアがさらに伸びたと予想する。

この流れに乗りメダル圏内を狙う白井は「ノーリーバックサイドビッグスピンバックサイドテールスライドビッグスピンアウト」を紙一重というところで惜しくも決められず、悲願だったオリンピック決勝の舞台は4位で終えた。

逆転金メダルには94.56ポイントが必要なナイジャ。3、4本目と同じ「スイッチヒールフリップスイッチバックサイドクルックドグラインド」に挑戦。このトリックが決まれば十分に逆転もありえる難易度だが、しかし無情にも回転が合わず決まらなかった。この時点で悲願だったオリンピックでのメダルのは銅メダルに確定。

パリオリンピックスケートボードストリートの大トリとなったジャガー。逆転金メダル獲得には93.98pt以上が必要となり、ジャガー自身も異次元のトリックに挑戦しなければ優勝が狙えない状況。

オリンピックのルールとしてトライが始まれば、セクションや自身のデッキの滑りを良くするために使用するワックスを塗ることは禁止されている。だが、たとえペナルティになる可能性があってもこのトリックをやり切るしか堀米を超えることはできない。そんな気迫が伝わってくるようにワックスを塗り込んだ。

ルールはルールだがこれに文句言うスケーターはおそらく世界のどこを探してもいないだろう(筆者の見解)。そしてジャガーが選んだ勝負のラストトリックは「キャバレリアルノーズブラントスライド」という身体とデッキのコントロールが限りなく100%に近い精度が要求される技。しかし、惜しくもノーズはしっかりかからず失敗。この瞬間劇的大逆転で堀米雄斗のオリンピック2連覇が決まった。

大会結果

1位 : 堀米 雄斗(日本)281.14pt
2位 : ジャガー・イートン(アメリカ合衆国)281.04pt
3位 : ナイジャ・ヒューストン(アメリカ合衆国)279.38pt
4位 : 白井 空良(日本)278.12pt
5位 : リヒャルド・トゥリー(スロバキア)273.98pt
6位 : ケルビン・ホフラー(ブラジル)270.27pt
7位 : コルダーノ・ラッセル(カナダ)211.80pt
8位 : マティアス・デルオリオ(アルゼンチン)153.98pt

最後に

もはや今大会の説明は言葉が見当たらないとしか表現ができない。出し切れなかったライダーもいただろうがほぼ全員が自分達の持っている「スケートボード」をすべて出し切った結果だったように感じる。

一つだけ声を大にして言えるのは、今大会はこれまでのスケートボードの長い歴史の中で最も「スケートボード」らしく、最もハイレベルで、最もライダーも観ている方も楽しいコンペティションだったと振り返る。

これまでのストリートのコンペティションは出場ライダーも非常にナーバスでピリピリしている雰囲気が大半だったが、今回のオリンピックは最終トライを終え、勝ったライダー、負けたライダー、メダルを取れたライダー、取れなかったライダー、全員が笑顔だった。

そして2大会ぶりの有観客、スケートボード競技では初めて有観客での開催で、観客の声援が最高の大会となった大きな要因だったと言える。ライダーは当然スコアも気にしながら戦っていたとは思うが、とにかくどのライダーが凄いトリックを決めるとみんな笑顔で称えているように映った。この雰囲気が異次元の超人的な難易度のトリックが続出したことは紛れもない事実だったと筆者は強く感じた。

一時はパリオリンピック出場は絶望とまで言われた堀米だが、「1%でも可能性があるなら」と諦めずに挑み続けて最後の最後で出場権を獲得した。そこで掴んだ手応えそのままにパリオリンピック本番でも最後の最後で決め切りオリンピック連覇というスケートボードではまだ誰も成し得なかった偉業を達成したメンタルは、本人以外に説明はできない。後世に語り継がれるリビングレジェンドとなった。

これまでコンペティションではナーバスになる場面が多かったナイジャやジャガーも今大会のみんなのライディングに一緒に楽しみ、最後に堀米が決め自身が失敗した後も清々しい笑顔で堀米に対して「お前やっぱやべーな」のようなストリートでセッションしているかのような雰囲気で、これが本来のスケートボードの楽しさを表しているかのような光景だった。表彰式でもメダリスト3人はキッズのような笑顔とリアクションで本当に楽しそうだった。

内容の話があまり語れなかったが、今回のパリオリンピックスケートボードストリート男子は技術や順位ももちろんだが「スケートボード」の本質がすべて詰まった最高の大会だったと感じる。今後のスケートボードカルチャーも今以上に多様化し、もっと多くの人に好きになってもらえる。そんな可能性しか感じなかった。今後のスケートボードコンペティションシーンも今以上に魅力的に良くなっていくだろう。

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