初戦のスペイン戦で敗北。第2戦のブラジル戦でも負けると、グループステージ突破が厳しくなる(各グループの1位2位と、A・B・C3グループの3位のうち、成績上位2チームがノックアウトステージに進出)なでしこジャパン。そんな大一番で、起死回生の…

 初戦のスペイン戦で敗北。第2戦のブラジル戦でも負けると、グループステージ突破が厳しくなる(各グループの1位2位と、A・B・C3グループの3位のうち、成績上位2チームがノックアウトステージに進出)なでしこジャパン。そんな大一番で、起死回生の勝利をつかんだチームを、サッカージャーナリストの大住良之は、「力道山サッカーで勝った」と愛情を込めて言う。その意味するところは? 勝負の分かれ目とともに、試合を見ていこう。

PKセーブで「悪役」が息を吹き返した

 私の子どもの頃、日本中の男たちが熱狂していたのがプロ野球とプロレスだった。プロ野球では長嶋茂雄と王貞治が打ちまくり、プロレスでは力道山がアメリカ人の悪役レスラーをやっつけて、敗戦国・日本の鬱憤を晴らしていた。
 パリ・オリンピックの女子第2戦、ブラジル×なでしこジャパンの前半が終わる頃、「これは力道山時代のプロレスだな」と考えていた。
 ブラジルはフィジカルな戦闘力をもったチームだった。どの選手も例外なくフィジカルが強く、体の大きな選手も多く、日本がプレーしようとすると体をぶつけ、足を蹴って妨害し、攻勢をとった。
 だが、そのパワーも30分を過ぎた頃から低下し、なでしこジャパンのパスのリズムが上がって攻撃がシュートまで行くようになって、「形勢逆転で勝利か」と思ったのだ。
 しかし、前半アディショナルタイムにPKが防がれたことで、「悪役」が息を吹き返した。

日本にとって「最後の交代」で2人を投入

 後半、ブラジルは3人の選手を一挙に交代、再びパワーを全開にし、マルタの見事なスルーパスから交代出場したFW2人で先制点をもぎとった。
 1点を取ると、プラジルはあからさまな時間かせぎをして試合を「殺し」にかかった。なでしこジャパンは左サイドの守屋都弥(みやび)の活躍でチャンスをつくるが、田中美南のシュートが決まらず、次第に行き詰まり感がチームを覆うようになった。
 「力道山のようにはいかないな」と思い始めたとき、投入されたのが千葉玲海菜と谷川萌々子だった。
 左サイドバックの北川ひかるが大会前の負傷から回復しておらず、右サイドバックの清水梨紗を初戦の負傷で失った日本。
 この試合では、3-4-3システムで臨み、ウイングバックには右に古賀塔子、左に守屋を配置した。後半25分の交代で清家貴子を右ウイングバックにしていたが、後半35分、日本にとって最後の交代で千葉と谷川を投入したとき、池田太監督は左サイドバックに本来FWの千葉を入れ、ボランチだった長谷川唯をトップ下に、そしてボランチには長野風花と谷川を並べる4-2-3-1の攻撃的なシステムに変えたのだ。
 そして、この大会初出場の谷川が躍動し始める。

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