ドライブからのダンクを決め、雄叫びをあげる八村塁 photo by 松尾/アフロスポーツ パリオリンピックの男子バスケットボールが7月27日に開幕。ベスト8進出を掲げる日本は予選リーググループBの初戦に、昨年のFIBAワールドカップ優勝国の…


ドライブからのダンクを決め、雄叫びをあげる八村塁

 photo by 松尾/アフロスポーツ

 パリオリンピックの男子バスケットボールが7月27日に開幕。ベスト8進出を掲げる日本は予選リーググループBの初戦に、昨年のFIBAワールドカップ優勝国のドイツと対戦し77―97と黒星スタートとなった。だが、日本は序盤から終盤まで自分たちの持ち味を発揮して世界王者に食い下がり、その内容は点差と異なるものだった。

 今回のパリ五輪男子代表戦について、昨年のワールドカップ日本代表の原修太選手(千葉ジェッツ)に振り返ってもらった。ドイツ戦の振り返りと次戦・フランス戦へのポイントとは?

原修太の視点で見るパリ五輪男子バスケ日本代表01

【何よりよかったのはリバウンドで勝ったこと】

――まずは、ドイツ戦の率直な感想をお願いします。

原 ひと言で言うと、日本の仲間がめちゃくちゃいい試合をして、本当に興奮しました。12人全員で、40分間戦い抜いたと思います。もちろんドイツに勝利することがチームの目標だったと思いますが、言い方は変になりますが、勝っていないだけで、日本はいいバスケットボールをしていたと思いました。

 あと、本当にドイツは強かったという印象です。

――最終スコアは77―97と20点差でしたが、試合は点差ほど差を感じない内容でした。第4クォーター残り5分くらいから日本も差を詰めにくくなりましたが、それまではずっとドイツに食い下がりました。

原 試合開始からシュートで終わろうということをみんなで意識していたと思います。それぞれが自分勝手に打つのではなく、チームの約束事のなかで、チームとして打ちたい形で3ポイントを打てていた印象です。最初はシュートが決まらずにしばらく0点の状態が続きましたが、そこで変にシュートを打つのをやめて、ドライブしたり、パスしたりするのではなく、自分たちがやりたいバスケットを続けたことが、いい戦いになったひとつ目の要因だと思います。八村(塁)選手が初得点を決め、そのあとは(渡邊)雄太がいいシュートタッチで連続でシュートを決めて、リズムを掴めたと思います。

 何よりよかったのは、リバウンドで勝ったことです(日本の39対36。うち12本はオフェンスリバウンド)。見ていて(相手より劣っているとは)全く思いませんでした。

【凄みを感じさせた八村の役割と存在感】

――先発は河村勇輝(PG)、吉井裕鷹(SG)、渡邊雄太(SF)、八村(PF)、ジョシュ・ホーキンソン(C)の5選手です。渡邊選手のケガもありこの5人では2試合目、実質、ぶっつけ本番となりました。まず鍵となる河村選手、八村選手の連係はどのように見ていましたか。

原 見ていて、いいな、と思ったのは、河村選手、八村選手がお互いにいい意味で自分がボールを持ちすぎないようにしていると感じた部分です。遠慮しているとか譲り合っているという意味ではありません。

 八村選手は言葉にするまでもなく日本ナンバーワンプレーヤーですが、基本、ボールを持ってオフェンスを始めるのは河村選手でしたし、チームのなかでの役割に徹している印象でした。

 トム・ホーバスHC、日本がやりたいバスケットのなかで、周りが八村選手ばかりにボールを集めたり、ポスト(にいる八村)にパスを落としたりばかりになっては、全体としていい動きにはなりません。日本がやりたいのは全員で、動いて、動いて、ピック&ロール(*)を使ってポップして(外側に行くこと)、ダイブして(リング方向に飛び込むこと)いくスタイルなので、その点ではよく実践できたと思います。

*攻撃側がふたりで行なう、基本的な仕掛け。ボールを保持した選手をマークしている守備選手に対して味方の選手が壁(スクリーン)となることから展開するプレー。ボールマンは守備選手をその壁にぶつけるように動くことで自らのスペースを生み出し、一方で壁となった選手は守備選手がぶつかってきたあと、リング方向に動いてパスをもらう動きをする。

 僕自身、直接的な知り合いではないので「さすがだな」と言う表現が相応しいかどうかわかりませんが、八村選手がスーパースター集団のロサンゼルス・レイカーズで、ローテーション入りして活躍している理由がわかった試合でもありました。

 言い方が少し難しいのですが、八村選手はレイカーズの攻撃オプションではレブロン・ジェームス、アンソニー・デイビスという超スーパースターがいるなか、3〜5番目の役割でそれでも1試合20点取ったりしてきましたが、選手としての実力度がトップになった日本代表でも、レイカーズと同じ立ち位置で役割を果たしていたという意味です。

 攻撃の第1オプションとして攻めるのではなく、河村選手や他の選手がダメだったら自分がいく。すごい選手だからこそ、2番目、3番目にいくよ、みたいな立ち位置です。そしてチームが厳しい状況の時には豪快なドライブダンクを決めて雄叫びをあげチームを鼓舞したり(第2クォーター)、第3クォーターでドイツのデニス・シュルーダー選手、ダニエル・タイス選手が3ポイントを連続で決めてきた時に連続3ポイントでやり返したり、自分が出るべき時は出ていく。

 フィールドゴールの成功率はあまりよくなかったですが(19本中4本成功/21%)、相手が複数で止めに来ても力強いリングアタックでフリースローをもらい10本連続で決め、チーム最多の20得点をあげているわけです。

 ワシントン・ウィザーズの時から凄さを感じていましたが、レイカーズでプレーしたことによってさらに凄みを増したことを、見ていて感じました。

――あと、2番ポジション(SG)の役割で先発した吉井選手も、序盤からシュートをしっかり決めきり、ディフェンス、リバウンドでもいい働きをしていました。

原 吉井選手は毎試合そうなんでけど、人からボールをもらわなくてもフラストレーションを溜めずに自分の役割に徹する部分が長所なんです。自分から飛び込んでリバウンドを触りにいったり、リング方向にカッティングしたり、少ないボールタッチで仕事をする

 ドイツ戦でも右コーナーからリング下に飛び込み、河村選手からの届きそうにないパスをキャッチしてレイアップを決めていました。ディフェンスでも大黒柱のシュルーダー選手にマッチアップをしたり、Bリーグでも、世界王者のドイツ相手にも、自分の持ち味を発揮できるところがすごいと思います。

――主将の富樫選手も任された時間のなかで効率的に得点を重ねました。

原 (富樫)勇樹もシュートタッチがよく、要所で得点を決めていました(14分23秒出場で5得点)。ただ、彼がコートにいる時は、5人の誰が悪いとかではなく、トップ位置(リング正面の3ポイントライン近辺)の狭いスペースに味方が3人くらい固まってしまったことが前半2回、後半1回くらいありました。すでにチーム内では気づいている部分だと思いますが、そこはチームで、勇樹が出ている時はもう少しお互いに確認して、河村選手が出ている時とは違う動きでできるよう、次の試合までに修正していったほうが良い部分だと思います。

【フランス戦はリバウンド、控え選手が鍵に】

――次は開催国フランスが相手です(日本時間7月31日0時15分/30日深夜)。NBA新人王、224cmのビクター・ウェンバンヤマ、NBAの最優秀守備選手賞を4回受賞している216cmのルディ・ゴベアを擁し、ドイツ以上に高さを生かしてくるチームです。ドイツ戦で見えた長所、課題を含めて、ポイントをあげてください。

原 リバウンドとベンチから出場する控え選手です。

 リバウンドは、ドイツより高さのあるフランス相手でもなんとか確保したい。全員でリバウンド、ボールをタップして繋いだり、ルーズボールを取りに行く意識は共有されているので、実践できるかどうか。

 ドイツ戦での控え選手の得点は7対38と差が出ました。僕も昨年のワールドカップでそうでしたが、あの緊張感、あの強度で突然試合に出て、ボールをポストに入れるだけでも難しい状態になるのは理解していますが、そこを踏ん張って、1本でも2本でもシュートを決めてほしい。二ケタ得点を求められるわけではないので、出ている時間に集中して得点を増やせれば、チームにいい流れを呼び込めます。

――チームの全体的な展開としてはどのような形が望ましいでしょうか。

原 ドイツ戦では、トランジション(素早い切り替え)で攻めることができている時は、(渡邊)雄太の3ポイント、ジョシュ(ホーキンソン)と河村選手のピック&ロールで2本連続決めたシーンがありました。あれは、トランジションの流れのなかでピック&ロールが起こり、相手がスイッチして(1対1でマークする対象者を替える)きた時に隙をついた形でした。ただ、日本がしっかりセットしてピック&ロールを仕掛けてしまうと、相手にスイッチでしっかり対応されてしまう(マークする相手に明確につかれてしまう)ので、相手のスイッチディフェンスをどう攻めるかがポイントになるのではないかと思います。

 ディフェンス面でも、スイッチがポイントになります。ドイツ戦では、雄太が相手のガードフォワード型の得点源についた時、明らかにそこを狙ってきた場面がありました。雄太は試合を通してずっといいディフェンスをしていたので、その部分が少し気になりましたが、そこをチームとして対処するのか、それとも雄太自身で工夫して対処するのか。

 あと、フランスについては高さですね。224cmのウェンビーと216cmのゴベアの2枚に対してどう守るか。強化試合では、ウェンビーからゴベアのハイロー(フリースローライン近辺のハイポストからリング下近辺のローポストにパスを出す)攻撃も多かったので、どう対応していくのかは考えていると思います。

――スイッチでいうと、河村、富樫の両選手には高さのあるインサイドの選手がマッチアップする場面も目立ちました。

原 ドライブされてもいいくらいのつもりで、日本の3ポイントを消しにきていた印象でした。でも、ふたりは日本が誇るガードですので、ドライブするのか、3ポイントを打つのかは彼らのチョイスですが、ドイツ戦ではペイントエリアでの得点が20対46と差がついたので、インサイドの高さは相手が上ですので、彼らのドライブで活路を見出す方法もあると思います。印象的にはドライブしてからキックアウトの展開がチームとしてすごいよかった。もっともっとドライブに行ってパスが捌けたらいいなと感じました。

――フランス戦、ブラジル戦の終了まで、何が起こるかわかりません。

原 40分間自分たちのバスケットをやることって、オリンピックのレベルではやはり難しい挑戦です。それをあと80分続けることになるわけですが、先のことを考えずに、まずは次の40分間に集中してほしいです。

 劣勢になる時間帯は多いと思いますが、ドイツ戦のように3ポイントをしっかり打ち、点を取られたらすぐに攻撃に展開するなど、勝つチャンスはあると思います。みんなには頑張ってほしいです。

【Profile】原修太(はら・しゅうた)/1993年12月17日生まれ、千葉県出身。市立習志野高→国士舘大→千葉ジェッツ。身長187cm、体重97kg。高校までは全国大会で目立った活躍はなかったが、大学入学後から徐々に才能を開花しシューターとして活躍。大学卒業後に千葉ジェッツに入団すると、プロ2年目の2016-17シーズンから徐々に出場機会を増やし、3年目からはチームの主力に定着。これまでBリーグ優勝1回、天皇杯優勝4回、2022-23シーズンはリーグのベストディフェンダー賞、ベスト5に選出される。2023年夏のワールドカップでは日本代表としてパリ五輪出場権獲得に貢献し、パリ五輪日本代表候補に名を連ねた。