元バレーボール男子日本代表福澤達哉インタビュー 後編(前編:男子バレー日本代表はパリオリンピックでメダル獲得に期待 石川祐希やミドルブロッカーなどの進化>>) ネーションズリーグ(VNL)で、パリ五輪出場を決めたバレーボール女子日本代表。7…

元バレーボール男子日本代表

福澤達哉インタビュー 後編

(前編:男子バレー日本代表はパリオリンピックでメダル獲得に期待 石川祐希やミドルブロッカーなどの進化>>)

 ネーションズリーグ(VNL)で、パリ五輪出場を決めたバレーボール女子日本代表。7月1日にはパリ五輪に臨む12名が発表されたが、そこにはサプライズがあった。

 各ポジションのなかで、リベロは1名のみとなるのがよくあるメンバー構成だが、眞鍋政義監督は「リベロ2名制」を選択。さらに、ケガをした選手が出た場合のみ入れ替えが可能な交替選手(AP選手)にもリベロを登録した。

 そんなメンバー選出の意図や、出場権を勝ち取ったVNLでポイントになった試合などについて、元男子日本代表の福澤達哉氏に聞いた。


ネーションズリーグで銀メダルを獲得した女子日本代表 photo by FIVB

【世界1位のトルコに勝利した

 

「粘り強いバレー」】

――女子日本代表はVNLでパリ五輪出場を決めましたが、ポイントになったのはどの試合でしょうか。

福澤 トルコで行なわれた第1週の初戦、世界ランキング1位のトルコにアウェーでしっかりと勝ちきれたことがひとつ目の大きなポイントでしたね。VNLに備えて国内のリーグも早めに終え、十分な練習時間を確保し、まずは初戦に勝つことに全精力を注いで準備してきたことで、最高のスタートダッシュを切ることができました。逆にトルコはそこでつまずいたことによって、少し歯車が狂っていった印象があります。

――眞鍋監督もずっと「初戦のトルコ戦にかける」とおっしゃっていましたね。

福澤 トルコにはメリッサ・バルガスという大エースがいますが、世界には一定数、ああいう規格外の選手がいます。そんなバルガスに"無双"させないように、日本はレシーブやつなぎなどのクオリティーを高く保ち、古賀紗理那選手を中心に得点するという、粘り強いバレーができていました。イタリアで成長した石川真佑選手も、劣勢な場面で決めきってくれましたね。

 トルコは昨年のワールドカップですでにパリ出場を決めていましたし、海外のリーグでプレーしていた選手などは合流して間もなかったので、ひとつひとつのプレーの精度を高められていなかった部分もあるでしょう。そうした相手の隙を見逃さず、チームとして準備してきたことをすべて発揮して、日本の得意とする展開に持ち込んでつかみ取った勝利はすばらしかったです。この初戦の勝利で、チームとしての自信がついたんじゃないかと思います。

【「さすが」の選手起用と、逆転負けからの成長】

――選手の起用に関してはいかがでしたか?

福澤 「眞鍋監督、さすがだな」と思ったのは、セッターをパリ五輪予選の全試合でスタメン出場した関菜々巳選手ではなく、4年ぶりに代表復帰したベテランの岩崎こよみ選手に変更して臨んだことです。非常に大きな決断だったと思いますが、練習で「どの選手と合うのか」といったことを何度も分析して、緻密な調整をしていったんでしょう。それがチームに安定感をもたらし、勢いに乗れた。もちろん関選手も、五輪本番に向けてよりチームとの連係を高めているでしょうし、どちらがセッターを任されても十分にやってくれるはずです。

 眞鍋監督の就任以降、明確な目標設定を掲げ、世界に勝つためのバレーボールを追求してきていましたが、なかなか思うような結果に結びつかなくて苦しんでいる印象もありました。それがオリンピックイヤーで目指すべき形がバシッとハマりましたね。

――VNLではマカオで行なわれた第2週で、アジアのライバルである中国に勝ったことも大きかったように思います。

福澤 パリ五輪出場権獲得に向けて、トルコ戦同様に中国戦も間違いなくターゲットにしていた試合だと思います。今回のVNLでは、絶対に勝たなければいけない試合を勝ちきる強さが見られましたね。

―― 一方で、パリ五輪出場がかかったカナダ戦は、2セットを先取してからまさかの逆転負けとなりました。

福澤 試合を優位に進めていても、試合中に何度か訪れる勝負所での大事な1点が取りきれないと、一気に相手に流れがいってしまうことがあります。カナダ戦ではその1点が取れず、逆転負けにつながったんじゃないかと。前年のワールドカップもそういったシーンがあり、最後に押しきられてしまう試合があった印象です。ただ、逆にカナダ戦の負けが転換点となり、その後の戦いでの勝負所での強さにつながっていったように思います。

――あの敗戦があったからこそ、ファイナルラウンドでの躍進につながったということでしょうか。

福澤 そう思いますね。大会を通してチームのスタイルが確立されて、経験を次につなげて成長してきました。特に準決勝でのブラジル戦は、勝負所の1点を取るシーンが随所に見られ、全員バレーで銀メダルを手にすることができました。これまでぶつかっていた壁を乗り越えた瞬間だったように思います。単純に銀メダルを獲得できたという結果以上に、日本女子にとってさまざまな収穫があったと感じています。

【パリ五輪にリベロ2名制で臨む理由】

――そしてパリ五輪に臨むメンバー12名に、リベロを2名、AP選手も含めると3名を登録しました。眞鍋監督は「併用でやった時のほうが数字がいいから」とおっしゃっていましたが、この選出についてはいかがですか?

福澤 セリエAやVリーグでも、リベロを交代制にしているチームはあります。特にレシーブがカギを握る日本女子にとっては、本戦でも質の高さを維持していかないといけない。1本目をどう上げるかが大事ですが、それに対しての最善策がリベロ2名制だったんでしょう。

 VNLでもサーブレシーブが得意な小島満菜美選手、スパイクレシーブが得意な福留慧美、ふたりのスペシャリストがうまく機能していましたし、チームの生命線になっていると思います。

――男子もVNLで銀メダルを獲得しましたが、男女そろって国際大会で準優勝という結果についてどう感じますか?

福澤 こんな時代が来たのかと、ただただ驚くばかりです。見方を変えれば、男女ともに世界のバレーボールのトレンドが、日本が勝ちやすいものになってきたということなのかもしれません。かつては欧米化が進み、日本がパワーや高さで後れを取る時期が続いていたのが、戦術が高度化され、データもより詳細に分析されるようになった。攻撃のバリエーション、ブロックアウト、ディフェンス、連係、つなぎといった細かい要素が勝敗を分ける時代になってきました。

 それらの細かいプレーは日本が得意とするところであり、高度な戦術も組み立てやすいんじゃないかと思います。VNLで男女そろっての銀メダルを獲ったことが、また世界のバレーボールのトレンドを大きく変えるターニングポイントになるんじゃないかとも感じています。オリンピックでもメダル獲得となれば、それは確実なものになっていくでしょう。

 過去、女子が「東洋の魔女」と言われ、男子が1972年のミュンヘン五輪で金メダルを獲った時なども、日本がトレンドをつくっていた時代だったと思います。そこから数十年の時を経て、もう一度そういった時代が来ていると感じています。

【プロフィール】
福澤達哉(ふくざわ・たつや)

1986年7月1日生まれ。京都府京都市出身。洛南高校時代に春高バレーに2度出場、インターハイでは3年時に優勝を果たした。卒業後は中央大学に進学し、1年時の2005年に初めて日本代表に選出。ワールドリーグで代表デビューを果たすと、2008年には清水邦広と共に最年少で北京五輪出場を果たす。大学卒業後はパナソニックパンサーズに入団。ブラジルやフランスのリーグにも挑戦しながら、長くパナソニックの主力としてプレーした。2021年8月に現役を引退して以降は、解説者など活躍の場を広げている。